チビーズが可愛すぎる件について
記憶を取り戻した日から、ほぼ毎日のように母は私達を明日太の家に連れていく様になった。
その度に交わされる遣り取りを聞いて分かった明日太との関係は、父同士が兄弟な為な上に父方の親戚としては従兄妹。
その挙句に母達は従姉妹同士だから、母方の親戚の中ではハトコだというなんともメンドクサイもので、私は心の中で『ややこし過ぎだろ!?』とツッコミを入れた。
ちなみに、我が家の庭も結構な広さではあるものの、明日太の家ほど子供仕様になっていないのだ。
下手な公園に行くよりも充実した遊具の数々に、りりんも不満はないらしいし、不審者が現れる事もないから安心して遊べるのはとても良い。
……ああ。
前世でこう言うのを思いついてれば、もう少し快適に過ごさせてやれたのか……?
前世を思い出した事によって、終盤に育てた子供達の成育環境がひどすぎた事に思い至ると思考が暗くなる。
いや、母と一緒にテレビで見たんだよ。
ネグレストって言うの?
滅茶苦茶それに当てはまる育て方をしてたと気が付いて、眩暈がしたさ。
最近になって、前々世……って言うのもぼんやりと思い出してきたんだけど、その時は今と同じ日本人だったものの独身だったから全然気がつかなかった。
男で独身、その上身近に子供が居なかったから知識不足で……いや、そんな言い訳しても仕方ない。
その時の被害者の1人が目の前に居ると言うのは、地球の神様が意図的にやったんだろうなぁ……。
いや、生まれ変わる前に、りりんに出した条件を付けた時点でアスタールが身近に現れるって言うのは確定事項ではあったんだよな。
ただ、予想よりもずっとずっと早くに本人が現れたってだけだ。
ちなみに前世のネグレスト被害者は、明日太の他にあと3人居るんだけど、何らかの方法で謝罪が出来ると良いなと思う。
当時の事を思い出すにつれ、精神状態がヤバすぎたらしい事は分かったモノの、だからといってやって良い事じゃなかったって言う後悔もあるし、せめて今現在手近にいる明日太の事を謝罪の意もこめて可愛がる事にした。
まぁ、実際のところ幼児ってのは、身内かどうかは関係なく滅茶苦茶可愛いんだけどさ。
ちなみに、幼児の可愛らしさに目覚めたのは前世の黎明期に最初の住民の中に子供が出来てからの事。
大人ばかりしかいなかった中に、新しい命が産まれてきた時には本当に感動したもんだ。
その時は、あの世界をずっと支えていく心算でいたから、今、こうやって幼児をやっているなんて、なんだか信じ難い。
私はそんな事を考えながら、りりんと明日太と一緒に泥団子を制作中だ。
妹と従兄殿の今日の『楽しい』は、ずばり泥団子作りらしい。
2人とも服や手足を泥だらけにしながら、せっせと泥団子を大量生産している。
真剣な表情でその作業に取り組むチビーズはもう、抱え込んで奇声をあげながら転がりまわりたい位に可愛らし過ぎる……!
「らんちゃー! あい! どうじょー♪」
ほっぺに泥跳ねさせた、私の天使が満面の笑顔でびちゃびちゃの泥団子を差し出す。
制作タイムは終了で、今度は食べさせっこモードらしい。
「あい。りりんもどーじょー♪」
私も、一緒になって作っていた泥団子を妹に差し出して、一緒になって大きく口を開けて相手の手にしたモノを食べる真似をする。
「「おいちーね♪」」
声を合わせてにっこり笑い合う。
幼児との遊びは、延々と同じ事の繰り返しが多いんだけど、私は妹とのこの遣り取りをかれこれ30回位は行っている。
今の、私とのその遣り取りに満足したらしく、妹は次の標的に顔を向けた。
次の標的は、綺麗な球体にしようと真剣な表情で泥団子を握っている明日太。
少しでも歪んでいるのは納得がいかないらしくて、さっきから一つの団子の形を整え続けてる。
凝り性なんだな、きっと。
まだまだうっすらとした眉をキュッと寄せながら、真剣に励む姿が……ああ、食べちゃいたい。
なんというか、小さくて可愛いものって、たまに口に入れたくてたまらなくなるんだよね。
前々世で、良くハムスターを手に載せて悶えていたのを思い出す。
「あーくん、あーん?」
妹が泥団子を差し出しながら呼びかけると、彼は弾かれたように顔をあげ、一瞬だけ呆けた顔をした後、ふわりと柔らかく目を細めて彼女を見詰める。
「おいしぃ。」
まだ、幼稚園にも入っていない幼児のクセに妙に大人びた所作で、食べた真似をしながら恥ずかしげに微笑む姿に母達の嬌声が上がる。
「あーくん、かわいー!!!!!!!!!」
「やっぱり、男の子もいいわねぇ……。」
「もう一人、頑張ってみたら??」
「うーん……。私の年齢的にも厳しいし、その上で4姉妹になったりしたら悲惨なのよねぇ……。」
蜜子さんが頬に手を当て叫ぶのを見ながら、羨ましそうに母が呟く。
確かに我が家は、今年24になる姉のまりあと私と妹の3人しか子供が居ないから、男の子はいない。
そして、高齢出産で私達を産んでいるのを考えると、もう一人にチャレンジするのはなかなか厳しいだろうと思う。
とりあえずお母さん。
私の中身は男なんで、ソレで妥協しといて下さい。
心の中でこっそりとそう呟いておく。
流石に口に出すのはヤバいので、黙っておくけど。
「でも、うちの明日太が一番お兄ちゃんの筈なのに、蘭ちゃんが一番お姉さんに見えるわねぇ。」
「女の子って、おマセなのよね。」
「明日太ってば、すっかり蘭ちゃんの尻に敷かれちゃってるわねぇ。」
蜜子さんが流石に話題を逸らしてくれて、話が幼児の男女の違いの話へと移り変わっていって少しほっとした。
それにしても、私が明日太を尻に敷いている様に見えるのか……。
確かに、あれこれ指示を出してしまったりしているんだけど、それのせいか?
「なにはともあれ、幼稚園も一緒だから仲の良い子達が園内に居るってだけでも少し安心だわ。」
「明日太ちゃんは結構人見知りするんだっけ?」
「りりんちゃんと蘭ちゃんは平気だったけど……。血の繋がりを無意識に感じるのかしら?」
「不思議よねー?」
「ホント、不思議だわぁ。」
うん。
お母さん、それはきっと、明日太とりりんが互いの魂を繋ぎ合っているからだと思う。
ここに居る2人は、あちらの世界に今も生きている本体の欠片ではある筈だけれど、それでもその関係性が失われていないと言う事のように思われる。
ただ、そうだとしたら不安に思う事があるんだけれど。
それは、2人の記憶がどうなっているのか?
不安はこの一点に集約される。
今現在の感触では、2人の中に前世……というか本体の記憶は内容に思われるのだ。
りりんの記憶に、私の姿はない筈だからそちらは特に心配はしていない。
けれど、問題は明日太の方だ。
私が今のところ思い出している範囲だけでも、かなり、恨まれても仕方のない事をしてきていることが分かっていて……。
だからこそ私は、従兄殿があちらの記憶を思い出してしまったら、ある日突然、憎しみのこもった目で睨まれる事になるんじゃないかと、その可能性に怯えている。
現在のこの!!!!!
天使の様な幼児にそんな目で見られるなんて、とてもじゃないけど耐えられる自信が無い。
私が当時やってしまった事を知っている人がそんな事を思っているなんて知ったら、『自業自得だろう』って言うだろうと言う事は承知の上で言わせて貰いたい。
『それでも耐えられない』と。
アレだって、あの子達を自分が害さない為の苦肉の策だったんだ。
とはいえそんな事情は、本人にも外野の人間にも関係のない事なんだろうけれども。




