明日太
気が付くと、私は大きなベッドの上に居た。
心配そうに覗き込んでいた大人達が、ホッとした表情になるのをぼんやりと見上げながら、思い出した内容を反芻する。
背中がやたらと暖かくて、後ろを振り向くと妹が私にしがみつく様にして眠っていて、その向こう側には前世の孫が妹にくっついて眠っていた。
そりゃ、ツガイで転生してくればそうなるよな……。
って言うのが、率直な感想だ。
私も男だったら……って、兄妹になる時点で妹と結ばれるルートはないな。
でも……。
逆に、姉妹だから。
だからこそ、やりようによっては明日太からかすめ取る事もできたりするんじゃないだろうか……?
私は、妹の隣を誰にも譲りたくないんだよね。
しばらくして、呼ばれてきた医者に熱を計られ聴診器を当てられて、特に問題なさそうだと言われると、妹達と一緒に遊ぶ許可が出た。
私が診察されるのを心配そうに見守っていたりりんが、嬉しそうにへにゃっと笑う。
笑った妹、まじ天使!
くそ、つられて微かに頬を緩める明日太もちょっと可愛いとか!
あー……!
前世では、物理的に壊しそうな精神状態だったから、ちびっ子大好きなのにアイツらがチビの頃、全然かまえなかったんだよな……。
あれ?
今なら、同い年だけど構い倒せる??
ある意味、コレは転生して一番イイ事かも。
「りゃんちゃ、げんき??」
「ん。もう、へーき。」
ああ、もう。
何でこんなに可愛いんだろう??
可愛いちびっ子の中でも、やっぱり妹が一番可愛いと思う!
私の返事に安心した様に、ぎゅぅっと抱きついて頬ずりして来るりりんのほっぺがスベスベふわふわで何とも気持ちいい。
なんで、幼児のほっぺはこんなにスベスベなんだろう??
たまらず、りりんを抱きしめてスリスリしているのを、明日太が指を咥えて眺めてた。
お前は後でね!
私は、将来の事は後で考える事にして、ちびっ子たちの可愛さをたっぷり堪能する日々を送る決意を固めた。
何せ自分が幼児だから、周りに集まるのは基本ちびっ子になる訳だ。
これは入れ食い状態!
なんて素敵なパラダイス!!
私が中心になって、りりんと明日太と3人で個人宅のクセに砂場や滑り台、挙句の果てにはブランコまであるという大きな庭で遊び始めると、大人達は安心した様にその姿を見て眉尻を下げていた。
私の頭の中を覗けたら、そんな顔できないかもなーと思いながら、ちびっ子たちとの時間はあっという間に過ぎてしまう。
帰る時にはすっかり懐いた明日太が「あっくんもりゃんちゃとりりんといくぅー!」と泣き叫んで、両親に慰められると言う一幕があった。
りりんの方は、すっかり疲れ果てて眠っていたから静かなもんだ。
「蘭ちゃん、また来ようね~?」
「ん。」
「あっくんもー!!」
「あっくん、またくりゅよ。やくしょく!」
自分も3歳児だから、まだまだろれつが怪しい。
どうしても、明瞭な発音が出来ないんだよね……。
それを内心で悔しく思いながらもぐずる明日太に小指を差し出すと、涙をいっぱいにためた上目遣いでおずおずと自分の小指を絡めてくる。
お、もう指切り知ってるんだ。
そう思いつつふたりで指切りすると、やっと明日太はぐずるのを止めた。
「ゆーびきりーげんまんー」
そう、歌いつつ絡み合わせた小指を上下に揺らす。
最後に指を離す直前、明日太の指に少し力がこもったのを疑問に感じたところで彼がはにかむ。
「あっくん良かったわねぇ。」
「それじゃあ、蜜子ちゃん。またお邪魔するわね。」
「あっくんと、首を長くして待ってるわ。」
母親同士で次の約束をし始めるのを聞きながら、明日太の頭を撫でると、ヤツは恥ずかしげに母親の後ろに隠れてしまう。
全く。
ついさっきまで、指切りしてたくせに。
迎えの車までのわずかな距離なのに歩くのもなんだか億劫で、母に抱っこを強請ると「仕方がないわねぇ」と満更でも無い笑顔を浮かべて抱き上げてくれる。
自分でも驚くほど疲れていたらしい私は、母の体温と歩く震動が物凄く心地よくて瞼が重くなってきた。
そりゃあ、まだ身体は3歳児だもの。
外が暗くなってきていれば、瞼も重くなるのも当然か。
襲い来る睡魔に身を委ねながら、今日の事を反芻する。
今度の夢は、年相応。
明日太とりりんと三人一緒に、雲の飛行機に乗って飛んでる夢を見た。
子供の夢って、ファンタジーだな。