反乱 四
モハーヴェイで決起したのは乗員であるアダモフ大尉をはじめとした士官二十九名とそれに率いられた下士官と兵卒およそ二百名だった。決起隊の士官は全員が二十代の士官で兵学校卒だった。
国連軍最高レベルの士官養成教育を受けた兵学校卒の士官はエリート意識が非常に高い者が多いのが特徴で、一般の士官候補生や飛行士官課程から士官となった者たちに対する差別の意識を持ち、彼らを〝一般人〟と呼んで侮蔑の目で見ていた。その悪しき風習は普段の勤務の上でも少なからず影響が出ていた。
近年になって国連軍の勢力規模が増大するにつれて、軍の指揮官たる士官の必要な人数も増加していた。兵学校での士官の養成し重職に就けるようになるまでには時間がかかり、次々と部隊を新編する軍に必要な艦隊司令官や艦長などの重職に就く人員は不足していた。
そこで国連軍は一般士官候補生出の士官に重職、特に艦長職を任せるようになった。それまでは国連軍艦艇の艦長には兵学校卒の士官が着任するのが慣例であり伝統でもあったので、この国連軍の方針に不満を持つ兵学校卒の士官が多くいた。
「一般人なんかに艦長が務まるのか」
「上層部は伝統を蔑ろにするつもりだ」
「公平を謳ったかつての国連軍はどこにも無い」
モハーヴェイの艦長にも一般士官候補生課程出身の士官が着任してから艦内の兵学校出身士官、特に従軍経験の浅い青年士官の間で不満の声が以前から出始めていた。
艦内全面禁煙などの艦長の身勝手な指示、反乱軍が撒いたビラなどの様々な内外の要因が重なり彼らは決起を決意したのだ。
モハーヴェイ艦内で反乱が発生した報せはベルガー艦隊司令にも直ぐに伝わっていた。旗艦ボスホートの艦橋でマイクを構えた彼は通信回線を使用して決起首謀者のアダモフ大尉の説得を試みていた。
「アダモフ大尉聞こえるか、艦隊司令ベルガー中将だ。直ちに決起隊の武装を解除させ乗員を解放し投降しろ。今投降すれば罪はそこまで重くはならない。まだ間に合う」
『残念ながら手遅れです司令。我々は既に抵抗した乗員を八名射殺しました。』
ボスホート艦橋内の乗員の間に動揺が走った。
『今投降すれば自分は軍事裁判にかけられるまでもなく死刑となるでしょう。モハーヴェイは決起隊の完全な支配下にあります。もう我々は後戻りする事は出来ないのです』
「私も裁判へ出席して君達の減刑を要求するつもりだ。第五艦隊で起きた事は全て私の責任だからな。同じ兵学校出身者である君の気持ちもよく分かる。私だって不満は無い訳では無い。君と同じくらいの歳の時も不満は沢山持っていた。だからと言ってこんな事をするのは間違っている」
『では国連軍の今のやり方は間違っていないと言えるのですか。今の軍のやり方ではいつまでも戦争を集結させることは出来ません。自分も可能ならば他の方法で軍のやり方を変えたかったです。しかし上層部にまで一般人が蔓延る今の軍を内から変えるのは不可能であると自分は確信しました。この戦争を終わらせられるのは解放軍だけです。自分は彼らと共に戦います。戦争を集結へ導く為に』
「考え直すんだ大尉!君は本当に反乱軍が君を同志として受け入れてくれると思っているのか!今すぐに投降しろ!」
『投降に応じるつもりは微塵もありません。モハーヴェイはこれより国連軍から脱退し解放軍と合流する為に第五艦隊から離脱し、独自の行動をとらせていただきます。司令、お世話になりました』
これを最後にモハーヴェイとの通信は途絶えた。沈黙する空気の中、ベルガー艦隊司令は静かにマイクを下ろした。
「全ては私の責任だ」
その直後モハーヴェイはアダモフ大尉が言った通り、第五艦隊の艦列を離れて航行を始めた。モハーヴェイは回頭しながら艦首を地球圏外へと向けていった。
「司令!モハーヴェイの追跡を!」
ボスホートの艦長がベルガー艦隊司令に追跡の許可を求めた。
「追跡は許可出来ない。我々が追跡を行えば決起隊に拘束されているモハーヴェイの乗員を危険にさらす事になる。今の我々には何も出来ないのだ。艦長、方面艦隊司令部への連絡を頼む」
「分かりました!」
ベルガー艦隊司令は艦隊から離れていく一隻の空母を今は只見つめる事しかできなかった。




