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2.太陽系の第三惑星

 亜光速宇宙船『みー号』船長のハンナの目は、母なる惑星に良く似た、青々と宝石のごとく輝く太陽系第三惑星に釘付けとなった。その両の目には何故だかわからないが大粒の液体が潤んでいる。それは先祖から語り告げられてきた伝説の代物である『涙』だった。まさにこの惑星の姿が彼女の遺伝子に僅かながら保存されていた記憶を呼び起こしたのであろう。

 宇宙船『みー号』は、……。ええっ? 『みー号』って? 

 疑問。何故、宇宙船の名前がそんな変てこりんなのか。答えは、この宇宙船の船長であるハンナが決めたからである。つまり、彼女の愛するペットの名前が『みー』だったからだ。『みー』だからといって地球で俗にいう『猫』なる動物ではない。ケンタウルス座アルファの『生命体その弐』と太陽系の『人間』がたとえ同じような姿形をしていたとしても、知的生命体が同じ形状の進化を辿る可能性は充分にあり、さほど不思議はないだろう。しかし、進化の過程で残っている生物が同じなどという偶然は一般的には有り得ない。『みー』がどんな生物かわからないと思うので、ここでは少しだけ『みー』なる生物の説明を加えておく。

 その生物は、みゃあみゃあ、と鳴き、知的生命体にじゃれつき、時々みーパンチ(猫パンチではない)を繰り出したり、仰向けに床に寝たりする生き物なのだ。地球では容易に想像できないだろうが、結構可愛いのだ。しかし時に目つきが悪くなることもある。


――あそこ(第三惑星)には知的生命体が間違いなくいる。我々を侵略者として牙をむいてきたらどうしよう。


 宇宙ステーションには数万人の同胞を残してきた。船内にいる十数人の船員は移民を目指し一族の反対を押し切り故郷の星を捨ててきたのだ。ここまで来て後戻りはできない。仮に戻ったとしても故郷の星は時間の歪みから、もはや出発した時代に戻ることすら出来ないのだ。

「ハンナ船長。システムが知的生命体の存在を確認しました。これから言語の解析をしてコミュニケーションを図ります」

 副船長のボーダが緊張した表情を表しながら伝えてきた。

 船長のハンナはうら若き美貌の持ち主である。決して年増女ではない。

「そう。まずは音声コミュニケーションを試してみてね」

 ボーダは好物の物体を口に含みながら解析映像に見入った。好物の物体とは黄色いもので、皮のようなものを剥くと中から柔らかい棒状のものが出てくる。甘くてとてもおいしい。しかし皮は決してその辺りに捨ててはいけない。床に置いておくと、おっちょこちょいが踏んで足を滑らせ転倒するからだ。

 ボーダは聞きなれない信号音を耳にした。思わず緊張して物体の皮を床に落とす。ハンナはボーダの異常な様子に気付き近寄ってきた。

「何? 何か異常? 何かあっ……」

 ずるっ! バターン!

 ハンナはふんぞり返って転倒した。好物の物体の皮を踏んでしまったのだ。

「せっ、船長! 大丈夫ですか?」

「痛-っ! 大丈夫なワケないでしょ! 仕事中にバナリンはやめなさい!」


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