第26話 異世界にも銃刀法はあります。
――ハンターギルド。
森での実戦訓練が今日から始まると知らなかったのは、どうやら俺だけらしい。
しかも、周囲がわざと隠していたとかではない。練兵場の教官も護衛の兵士たちも、全員が「当然知っている前提」で話していたのだ。
おかげで、「なんで当事者の勇者が予定を把握していないんだ?」と、こちらが予定を忘れたうっかり者のように言われてしまった。
……いや、実戦訓練の話は何度も聞いたが、具体的な日付は誰も言っていなかった気がするんだけどな。
そんな理不尽な釈然としなさを抱えて訪れたギルドのロビーは、現代の市役所か警察署のような、重苦しい静けさに包まれていた。
酒を飲んで騒ぐ荒くれ者はいない。壁に依頼書が貼られているわけでもない。
メイドは、いつもどおり澄ました顔をしている。兵士たちは、仕事上で関わりがあるのだろう顔見知りの職員に挨拶をしていた。
だが、ミネットは尻尾を丸めて口をつぐんでいる。ギルドの重苦しい空気に緊張しているのだろうか。
「苦情受付」と書かれた窓口では、農夫らしき男が「村の畑が荒らされた」と深刻な顔で訴え、ギルドの文官が、淡々と書類をめくっている。
「事前に聞いてはいたけど、ハンターギルドって、ロマンを追い求める自由業のたまり場じゃないんだな」
完全に、ただの行政機関だ。
そのまま案内され、ギルド長の執務室へ通された。
部屋の壁には、王都周辺の地図が掛かっている。魔物の出現予測地域、害獣の生息域、ハンターの定期巡回ルートが、色分けされたピンで、きっちり管理されていた。
「貴殿が勇者殿ですね。ギルド長のオズワルド・フォン・フォレスターです。本日の訓練には、私が同行いたしますので、ご安心を」
「勇者の山田太郎です。ギルド長自らが案内してくださるなら、とても心強いです」
正直、本物の魔物が出ると聞いて、内心かなりビビっていた。だが、有能そうなギルド長が付き添ってくれるなら、危険は少ないだろう。名前に「フォン」が付いているから、騎士称号の持ち主かもしれない。
――オズワルドの好感度:77
(思ったより、ずっと高いな。単なる上からの仕事として付き添うだけじゃなく、「勇者」という称号そのものに、敬意を持ってくれているのかもしれないな)
そう分析していると、オズワルドは、鉄板を打ち付けたキャビネットの鍵を開け、一丁の重厚な武器を取り出して、テーブルに置いた。
「こちらが、本日の訓練で使用する『複合式魔導長銃』です。連射はできませんが、訓練で入る森には大型の魔物は出ませんので、この人数の護衛なら問題ないでしょう」
「これが、複合式魔導長銃ですか。初めて見ました。俺にも使えますか?」
確か、魔石と火薬を併用した、次世代の遠距離武器だったはずだ。魔力の少ない者でも、強力な一撃を撃てるという。
俺の魔力は513で、この世界では相当高いらしい。……らしいのだが、それなのに、俺は未だに魔法が使えない。
剣はまだまだだし、弓を引いても当たらない。銃があっても、素人がすぐ使いこなせるわけではないだろう。それでも、飛び道具があるだけで、安心感はまるで違う。
「はっはっはっ! 勇者殿は『魔導銃所持許可証』をお持ちでないので、当然使えませんよ。いやはや、ご冗談がお上手ですな。本日の訓練で使用するのは、私だけですよ」
「免許制なの!? ファンタジーみたいな世界なのに!?」
聞けば、王宮の騎士団もこの魔導銃を制式採用しているが、すべて国の規定で「厳重保管」の対象らしい。平時の訓練で使うことはないという。
……うん。当然のように、俺だけが、この銃刀法みたいなルールを知らなかった。
読んでくださり、ありがとうございました。




