第1話「社長は高校生です」
「もうこの求人でいいか。応募しようっと」
全てはここから始まった。
小遣い欲しさでバイトを探しに求人サイトを漁っていたある日の夜中のことだった。
なかなか希望通りのアルバイトが見つからず、眠気も限界に達していた僕は、面倒になって適当にとある求人に応募した。
意識もはっきりしてなかったせいか、求人の内容もしっかり確認しておらず、目覚めたころには応募したことすらも忘れていた。
面接の前日にショートメッセージが届いていたことで、バイトの求人に応募したことを思い出したのだ。
「うわぁ、面接とか嫌だなぁ」
自分で決めたことでも、予定直前になると憂鬱になるのは人間あるあるだろう。
こんないい加減な気持ちで面接受けても、採用担当にやる気のなさを見抜かれて落ちるにきまってる。
どうせ落ちるだろう……そんな風に思っていたんだけどなぁ。
けれど、僕は面接に通ってしまったのだった。
ーーーー
地球温暖化が進行しているせいでまだまだ真夏のような暑さの10月初旬。
僕は東京都内のあるビルの前に来ていた。
周りに高層ビルやタワーマンションが見える中、三階建てのその建物はちょっと場違いな感じがした。
「星崎社長、ここでよろしかったでしょうか?」
「うん。ありがとうね、建物の手配とかいろいろしてくれて」
「お気になさらずに。また困ったことがあれば連絡してください」
「わ、わかったよ」
この「星崎社長」と呼ばれていた人物こそ、この僕。
僕は星崎ヒカル、高校生だ。
なぜ僕が高校生にして社長なんて呼ばれているのかというと、全てはあの求人の面接に受かってしまったことが理由。
僕が応募した求人というのは「とあるアイドル事務所の社長を募集」しているものだった。
簡単に言うと、僕は今現在、バイトで芸能事務所の社長をやっている。
採用の電話が来た翌日、僕は指定の住所に向かった。
そこはとんでもなく大きいビルで、建物に入るなり可愛い受付嬢たちに頭を下げられた。
(あの真ん中の受付嬢、僕の好きなグラドルに似てるじゃん)
なんて高校生らしいくだらないこと考えてたら、採用担当の社員さんに声をかけられ、エレベーターに乗り、建物の最上階へと案内された。
そこから軽いやり取りをしたり、高い紅茶にショートケーキまで出されたが、話が長くなるので割愛しよう。
案内された後、僕に告げられた一言がこれ。
「今日からあなたがアスターズプロダクションの社長です」
意味が分からない。
アスターズプロダクションだって?
名前は聞いたことがある。
アスターズプロダクションは日本の中でも最大手のアイドル事務所の一つだから。
「待ってください、僕がアスターズプロダクションの社長?!な、何で…」
「なんでって…貴方が自分でこの求人に応募してきたんじゃないですか」
僕があの日、応募した求人はこの事務所の社長を募集しているというものだった。
僕の反応はそんなにおかしいものでもないだろう。
誰が予想する?
適当に申し込んだ求人の仕事内容が「社長」だなんて。
誰も予想できないだろう。
「というわけで、今日からよろしくお願いしますね。星崎社長」
こうして、何も吞み込めないまま僕は18歳にしてアイドル事務所の社長になったのである。
ーーー
日本の大手アイドル事務所の一つである「アスターズプロダクション」、通称「アスターズ」はただのアイドル事務所ではなかった。
アスターズは人間ではなく魔族の属する、魔族専門のアイドル事務所。
タレントは皆、魔族。人間はアスターズの社員さんなど裏方だけ。
そんなアスターズの社長になった僕だけど、僕はあくまでやとわれのバイト社長なので、事務所の動きには干渉できない。
そんな大きな仕事は任されることはないだろうと油断しきっていたけれど、社長になって一週間も経たないうちにとある仕事を任されることになってしまったのであった。
「うわぁ、ここが私たちの活動拠点なの?アスターズの本社と違って小さいじゃーん」
建物に入って、僕専用の部屋の整理していると、後ろから声をかけられる。
不満そうな青い髪の少女と緊張してそうな顔のピンクの髪の少女が部屋の入口に立っていた。
「えーと確か…ナギサちゃんとサクラちゃんだったよね。久しぶり」
「久しぶりって先週も会ったばっかだろー」
「えっと、おはようございます。ヒカル社長」
「うん、おはよう」
ナギサとサクラは先週アスターズに入ったばかりの見習いアイドル、通称「アスターズ研究生」。
アスターズの一員となった時期を考えると、立場は違えど僕とは同期のような存在。
僕の社長として最初の仕事というのは、この二人が一人前のアイドルになるまで面倒を見るというものだった。
「ヒカル社長~、なんでこんな小さなビルが仕事場なの?」
ナギサが僕の肩を揺らしながら聞いてきた。
「ハイハイ人のこと揺らさない。ここで仕事をする理由は、アスターズの中で新しい活動を始めようと思ったからだよ。その活動拠点がここなのさ」
「新しい活動?」
サクラが不思議そうな顔で聞いてくる。
そもそも、アスターズで研究生が一人前のアイドルとして認められる……即ち研究生から昇格する条件はメジャーデビューをすることだ。
まぁ、某男性アイドル事務所と似た方式ね。
基本的にグループでのデビューだが、中にはソロでアイドルデビューした人もいる。
まぁ結局、どんな形態であれメジャーデビューすればアスターズでは一人前なのだ。
「君たち二人がデビューするには、人気を出さなければならないよね。そこでいろいろ考えてみたんだけどさ、手っ取り早く人気を出すいい方法が思いついたんだ」
「手っ取り早く人気が出る方法?!何々?!」
ナギサが食い気味でそう聞いてきた。
「SNSだよ」
TikTokにYouTubeにInstagramにX、主なSNS全般。
「なんでSNSなの?アイドルがSNSやるのって前からあったしそんな人気に直結するほどかぁ?」
「今だからこそSNSに力を入れるべきなんだよ」
SNSはほんの少しのきっかけで誰でもスターになれる最強のツール。
アイドルだと奇跡の一枚なるものがバズれば、国民的人気を勝ち誇ることだってできるし、出した曲のサビがTikTokの音源として多くの人に使われれば、その曲を通して地下アイドルがテレビに出られることもある。
SNSは一般人を有名人に変える魔法を持っているが、アイドルとも相性がいいのだ。
「というわけで、ここにアスターズプロダクションの【SNS部】を設置しました!」
「本社じゃなくてわざわざここを借りたのはそのためだったんだね」
サクラの表情がすっきりしたように感じる。
いろいろ疑問に思ってたんだろうな。
「そうそう、ここはアスターズSNS部の専用の事務所だよ。社員さんが用意してくれたんだ」
3階建てでそこまででかくないけど、社長室だけじゃなくていくつかの撮影部屋に編集部屋、キッチンにシャワー室にレッスンルームまで揃えてある。
さすが大手事務所、お金をたくさんかけてくれたんだね。
「でもSNS頑張るのもなんか楽しそうじゃん。私ネットでちやほやされるの夢だったんだよな、だからアイドルなったんだけど」
「昔のアイドルはビラ配りに路上ライブに地道にやるのが王道だったけど、最近のアイドルって前世持ちやインフルエンサー上りが多いからね。二人もインフルエンサーとして土台を作ってからのほうが人気を出しやすいと思うよ」
ゼロから売り込むより、土台を作ってから売り込んだほうが勝率は高い。
「2人だってはやくデビューしてトップアイドルになりたいでしょ?なら僕と一緒に頑張ろう」
「もちろん。あーあ!このかわいい魔女っ娘ナギサが世間に知られちゃう日が来るなぁ」
「一緒に頑張ろうね、ナギサちゃん」
こうして僕の物語が始まった……この二人の見習いアイドルとともに。
1人目は水野ナギサ、15歳。
まだ出会って1週間だけど、今のところ自信家で活発な子という印象だ。
2人目は花宮サクラ、14歳。サクラはナギサの幼馴染なのだそう。
元気なナギサと反対におとなしくて人見知り。僕が少し年上の男というのもあって、まだ僕とかかわるときは緊張しているのが伝わる。
そして最後に改めて自己紹介。
この物語の主人公になってしまった僕、星崎ヒカル。
18歳の高校生で、不登校だ。
こんな僕だから社長という仕事にも、アイドルプロデュースにも自信なんてないけど、なよなよしてても仕方ないので与えられた仕事は責任もって最後までやり切れるように頑張るよ。
できるかどうかなんてわかんないけど、何とかなるでしょう。
―To Be Continued…




