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もうひとつの魂日和  作者: 朱潮 一初


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9/9

9.ウハナの異能

 セバスとウハナが屋敷に戻りの玄関を開けると、エントランスには大きな木箱が幾重にも積み上げられ、木箱の奥から何やらガサゴソと音が聞こえてきた。


「魔女様、お帰りなさいませ。今回も大荷物ですね」

 セバスは慣れた様子で大きな木箱に近づいた。


 箱の隙間から魔女様が顔をのぞかせて、セバスが持つ大きなかごとウハナが抱きかかえている水晶のフラスコを見て、

「二人ともお帰りなさい・・・パンスとヴェルカーには逢えたようね」

「はい。パンスからたくさんのパンを預かってきました。ヴェルカーは相変わらず居留守を決め込んでいましたよ。ピストスはご機嫌斜めのようで雷鳴が轟いていましたので今回は止めました」


 魔女様はセバスの報告にひとつ頷いて、扉の前に立ったままのウハナに視線を向けた。

「ウハナはヴェルカーに気に入られたようね・・・ふふふっ」

「はい、たぶん嫌われてはないと思います……この水晶のフラスコをいただきましたし、良くしていただきました」

 ウハナはヴェルカーから貰った水晶のフラスコを魔女様に見えるように前に掲げた。初めて逢ったヴェルカーの優しさは感じとれたし、おそらく受け入れてもらえたと思うが、ウハナはそれを言い切るだけの自信を持てずにいた。


 魔女様は荷物の山から抜け出して自信なさ気な様子のウハナに近づいた。

「今はそれでいいのよ、大丈夫!」

 パチリとウインクしながらポンと優しく肩に手を置いた。


「この荷物を仕分けするから手伝ってね」

「はい!」

 魔女様の『大丈夫』は元気になる魔法の言葉みたいと思いながらウハナは魔女様の手伝いを始めた。


 大きな木箱の山がセバスの手際の良い采配であっという間に片付けられ、三人は執務室に移動した。


 魔女様は執務室のデスクチェアに座り、セバスはデスクの横に立ち、ウハナは魔女様の正面に立ちデスクの上にヴェルカーから貰った水晶のフラスコを静かに置いた。置かれたフラスコを魔女様は手に取り、

「なるほどね・・・」

「ええ、ウハナさんが手に持って直ぐに共鳴が完了して、光が漏れ出していました」

「ウハナの異能は【共感】かもね」

「はい。私もヴェルカーも同じ見解です」

 二人の会話を黙って聞いていたウハナはフラスコの変化をはじめて知覚していた。ただの透明な水晶と思っていたフラスコは、今は水晶の結晶の間を光の粒子が規則正しく動きキラキラと輝いていた。


『ヴェルカーさんに貰った時は気付かなかったけど、いつの間に光りだしたのかしら?』

 ウハナはじっと水晶の光の動きを目で追っていた。意志を持つように動き回る光の粒子はフラスコの栓の上から光を伸ばしそのままウハナの胸元へ光の道を繋げた。


「……わっ」

 フラスコの栓の上から自分の胸元に伸びてきた光に驚いたウハナは声を上げた。

 動けないままのウハナの胸に光の粒子がどんどん吸収されていった。


 最初は驚きで動けずにいたウハナだったが、胸の辺りが温かくなるのを心地よく感じ始めていた。しばらくすると胸から身体の細胞を這うように光が広がり始め、両手のひらまで行き渡り手のひらから指先に光が届いて身体全体が温かくなっていった。

「私の身体が発光していませんか?」


「これはすごいわ。ピストスにウハナの異能を調べさせようかしら」

「魔女様、それは止めた方がよろしいかと……ウハナさんにあんなことやこんなことを要求するでしょうから、ウハナさんが耐えられるか心配です」

「そうね。ピストスならあんなことやこんなことをするかもしれないわね……ふふふっ」

「……えっ、あんなことやこんなことって……怖いんですけど……」

 ぶるりと身震いをしたウハナは二の腕を擦った。


「冗談よ・・・半分わね! とりあえずピストスの所には私と一緒に行きましょう。彼女に依頼している研究に、もしかしたらウハナの異能が役に立つかもしれないからね」

「そうですね。魔女様に同行したほうが良い気がします。では、私はパンスに手紙を届けます」

「ええ、お願いね。手紙は明日以降で大丈夫よ。セバスは夕食の準備をお願いね。ウハナは話があるから残ってね」

「承知しました」

 セバスは一礼をして執務室を出ていった。


「ウハナはそこのソファに座って・・・」

 魔女様に促されソファに座ったウハナは、魔女様の動きを目で追った。


 魔女様は水晶のフラスコをウハナの前のテーブルに置き、本棚の隣の戸棚から二つの透明なフラスコを取り出して、今だに光の粒子を抱えている水晶のフラスコの左右にひとつずつ並べて置いた。


「実験をしましょう。先ずは右側に置いたフラスコを両手で持ってみて・・・しっかり両手で包むように持ってね」

「……はい」

「うーん・・・次は左側のフラスコを持ってみて」

「あっ、はい……」

「うーーんん・・・もういいわ」

「あの、何かわかりましたか?」

「・・・うーーーんんん」

 ウハナは手に持っているフラスコをテーブルに戻して、顎に手を当てて何か考え込んでいる魔女様に恐る恐る聞いた。


「今持ってもらった二つのフラスコもヴェルカーが作った水晶のフラスコなのね。ウハナの感情が動かないとフラスコと共鳴しないことはセバスの報告からも明らかなのよ。何と共鳴して何が【共感】したか大体の予測はついたのだけどね・・・」


「何が?ですか……私が水晶のフラスコとではなくてですか?」


「ええ、説明しちゃうとウハナは意識するでしょ。できれば無自覚の時の反応を見たいのよね・・・」


 魔女様は水晶のフラスコから放たれた光の粒子を、目を細め鋭い眼で追随していた。


 ウハナの周りをふよふよと漂っていた光の粒子たちはピタっ動きを止め姿を隠した。







次回 7/1 更新

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