14.死神Aのトゥオル
サンマイエの北の山脈で黒竜の様子を確認した魔女様は、サンマイエの西の果てにあるニシエイカーの森に向かった。
ニシエイカーの森を取り囲むように魔女様の結界が張り巡らされていた。魔女様の縁者だけが立ち入ることを許されたニシエイカーの森の結界をヒト属は越えることはできず、また二シェイカーの森は古来より人々から死の森と怖れられ近づく者もいなかった。稀に結界を越え森に迷い込む者もいたが、魔女様にお目通りする前に森での記憶を消され結界の外へと排除されていた。
二シェイカーの森の奥に魔女様の屋敷がひっそりと佇み、屋敷を取り囲むように薬草園が設えられていた。
「ただいま。薬草の生育は良いみたいね」
魔女様は薬草に水やりをしていたトゥオルに声をかけた。
「おかえりなさい。水を変えてから薬草の育ちがケタ違いです」
「それならよかったわ。クラルスに手伝いをお願いして正解だったわね。いまクラルスはどこにいるかしら?」
「屋敷の厨房で昼食の準備をしていますよ」
「そう・・・クラルスはここの生活にも慣れてきたみたいね」
「はい。顔色もよくなりましたし、他人と話しをするときも目を合わせられるようになりました」
「クラルスは貴方が魂迎行者でよかったわね・・・ふふっ」
「まあ、今思えば魔女様とクラルスを引き合わせるのが私のお役目だったのでしょう」
「そうね。ご縁があったのね。その水やりが終わったら執務室に顔をだしてね」
屋敷に入る魔女様の後ろ姿を眺めながらトゥオルは魔女様との出会いを思い出していた。
自分の存在意義がわからずに自暴自棄になって自分のお役目を放棄していた頃、魔女様に出会った。
「あなたは消滅したいのですか?」
漆黒の髪の少女が突然俺の目の前に現れて、紫黒の瞳を一刻も揺らさずに言い放った。
「ああ、滅してくれ。俺は・・・なんで俺なんだ・・・俺は・・・俺のお役目の意味がわからないんだ」
「魂迎行者のお役目に意味などありませんよ。ただ魂を狩りに行けばいいのです」
「・・・・・・でも」
自棄になっていた俺は『意味などない』と言われ困惑するしかなかった。
「あなたは自分の存在を知りたくなったのですね・・・ふふっ。わかりました。自我を持ったあなたの裁定はしばらく保留としましょう」
「えっ・・・『裁定を保留』って貴女は一体・・・職務を放棄していた俺を滅しにきたはず・・・」
「大丈夫です。私にはその全ての裁定権を与えられていますので・・・あなたは私の預かりとしましょう」
こうして魔女様の預かりとなった俺は、魔女様に連れられてボダエーマで魔女様の手伝いをしながら裁定の時を待った。
ボダエーマには執事のセバス、エルダードワーフのヴェルカー、ハイエルフのピストスが魔女様の手伝いをしていた。
俺も魔女様の監視のもと魂迎行者としてボダエーマとサンマイエを往復しながらお役目を果たしていた。
ある日、ふと自分に名前がないことに気が付いた。
「あれ? 俺は【死神 A】って呼ばれてないか?」
セバス、ヴェルカー、ピストスはボダエーマに来てすぐに魔女様から名を与えられたと聞いた。
では、何故魔女様は自分には名づけをしてくれない?【死神A】は名前じゃないよな・・・。
すぐさま魔女様にお願いをした。
「魔女様、私にも名を付けてください」
魔女様は『何を今更』と言いたげな涼しい顔で、
「死神Aで良いのでは・・・ここで死神はあなたしかいないのですから不便はありませんよ」
「不便とかそういうのではなく、なんていうかなぁ・・・魔女様に名をつけて貰うのは魔女様に認識して貰ったような承認されて愛に包まれている感じで、皆んな幸せそうなんだよね」
「死神には安心で安全な幸福は必要ですか?」
「はい!俺には必要です!」
「それなら・・・あなたの名は【トゥオル】見守る・・・これからもお役目を精進なさい」
「はい!!!」
トゥオルと名を貰った俺は精力的にお役目を果たし続けた。
「最近争いが頻繁にあって、魂の数が多くて忙しい」
そうぼやくと魔女様は苦渋の笑みを浮かべながら何も言わずに話を聞いてくれた。
「関係ない民たちの命が奪われていく気がするけど、どうにかならないかなぁ・・・暴君を狩るのが早い気がするけど、そういう訳にはいかないんだろうな。次の暴君が誕生するだけで、頭をすげ替えても問題の根本を解決しないと意味がないんだろうけど・・・何で殺しあうんだろう・・・魔女様は何でだと思う?」
「私たち死神が干渉することではないわ・・・私たちは私たちのお役目を全うするだけよ」
時がどれくらい過ぎたろうか、魂をどれだけ狩っただろうか・・・ある日、一人の少女と老婆の魂を迎えに行くお役目が与えられた。
次話の更新まで少しお時間をいただきます




