真実 (6)
ノックスはアリアンを一瞥したが、何も言わず、ただ小さくため息をついた。
そして顔を上げ、まっすぐに炎を見据えると、淡々とした口調で言った。
「単なる魔力の流し方を教える練習だったんです。俺が少量の魔力を彼女に流そうとしたんですが……彼女の体はそれを受け取るどころか、強い反発を起こして、俺の魔力を跳ね返してきました。しかも、その反動で俺も少しダメージを受けました。」
炎はそれを聞いても、特に表情を変えることはなかった。
両手を膝の上で組み、深い視線でノックスを見つめたまま、静かに口を開いた。
「そんな現象が……」
そして視線をアリアンへ移し、問いかけた。
「この異常、いつから自覚がある?」
アリアンは一瞬戸惑いながらも、思い出すように言った。
「……はっきりとは分からないです。たぶん……ずっとこうだったかもしれません。でも、五年前に事故に遭って、それ以前のことは覚えていなくて……」
「五年前……」
炎はその言葉を繰り返すように呟くと、考え込むように眉をひそめ、しばし沈黙に沈んだ。
その隣でカルマが一歩前に出て、穏やかな声で言った。
「一度、魔力を使って簡単な検査をしてみる? もし彼女が構わないのなら。」
炎はカルマの言葉を聞いて頷き、指示を出す。
「お前が試してみろ。魔力の流れで確認してくれ。」
カルマは「分かった」と頷き、アリアンの前に立つと柔らかな笑みを浮かべて言った。
「大丈夫、緊張しないでね。体をリラックスさせて。」
彼女はアリアンの両手を取り、肩の力を抜かせ、目を閉じさせた。
そのままカルマも目を閉じ、魔力をゆっくりとアリアンへ流し始める。
すると、アリアンの体がピクリと小さく震えた。
直後、カルマの長い髪がふわりと風に撫でられたかのように浮き上がった。
反発の魔力が確かにあったが、カルマは事前の準備もあって、難なくそれを受け流す。
目を開いたカルマは炎の方へ向き直り、落ち着いた声で報告した。
「たしかに反発してきたわ。しかも、かなり強い。」
アリアンは目を開け、驚いたように言った。
「前にノックスのときは、あまりの痛みで膝をついたのに……全然平気だったんですね!すごいです!」
カルマは小さく笑って、軽やかに言った。
「反発があるって聞いてたから、対策しておいただけよ。すごいわけじゃないわ。」
炎はそれを聞いて軽く頷き、アイデンへと視線を向けた。
「検査の手配はできるか?」
アイデンは肩をすくめ、やや困ったような笑みを浮かべる。
「学院の規則では、こういう検査は保護者の同意が必要だし、本人の同意もいる。まあ、手続きはちょっと面倒だね。」
アリアンは即座に頷いた。
「私は大丈夫です!……でも、保護者の同意は……」
言葉のトーンが一気に弱まり、目線を落とした。
それに気づいたカルマが優しく声をかける。
「どうしたの? ご家族とうまくいってないの?」
アリアンは気まずそうに目を伏せ、静かに言った。
「……母はもういないし、家には私と妹しかいません。妹のセレナは任務でいつも家にいないし、父は……ほとんど帰ってこなくて、どこにいるかもわからないんです。」
炎はそれを聞いて少し黙り込み、やがて淡々と告げた。
「まずは保護者に連絡を取ってみる。無理なら他の手段を考える。……アイデン、対応は任せる。」
アイデンは苦笑しながら肩をすくめた。
「了解。まずは手紙でも送ってみるか。……アリアン、何か伝えておきたいことはある?」
アリアンはしっかりと首を横に振り、力強く答えた。
「いえ、何も! 全部お任せします!」
炎は頷き、カルマに目配せをした。
「他に用がなければ、俺たちはこれで帰る。」
カルマはアリアンのそばへ行き、優しく肩に手を置いて別れを告げた。
「それじゃ、またね、アリアンちゃん。」
アリアンは少し笑って、うなずき返す。
ノックスも軽く頷き、特に言葉を交わさずに家族とともに校長室を出て行った。
アリアンは扉が閉まるのを見届けたあと、思わず息を吐き出し、そのまま椅子に崩れ込んだ。
アイデンはその様子を見て、口元を緩めながらからかうように言った。
「どうだった? あの家族と話すのって、なかなかのプレッシャーだろ?」
アリアンはじろりと睨みつつ、苦笑して言った。
「……なんか、ノックスの無口も納得しちゃうね。あれ、完全に遺伝でしょ。」
アイデンは吹き出しそうになりながら肩を揺らした。
「確かにね。あの一家、誰一人まともに喋らないのが面白いくらいだよ。」
◇
ノックスは車の後部座席にもたれかかり、窓の外を流れる風景に視線を向けていた。表情は静かだったが、心の中には微かな波紋が広がっていた。
父・炎は、改造された車を操作していた。この車は、足が不自由な者でも問題なく運転できる特別仕様だ。助手席のカルマは、ときおり炎を横目で見ながら、何か考え込んでいる様子だった。
ふと、カルマが口を開いた。
「アリアンって……ヨルちゃんを襲った若いハンター、セレナの姉なんでしょ?」
炎は前を見据えたまま、低く落ち着いた声で答えた。
「ああ、そうだ。」
カルマは眉をひそめ、少し探るような口調で尋ねた。
「ねえ……五年前の件って、彼女たちと何か関係あると思う?」
炎は数秒の沈黙を挟んでから、慎重に言葉を選びつつ答えた。
「今の段階では何とも言えない。だが、手がかりとして調べる価値はある。何かしら見つかるはずだ。」
後部座席に座るノックスは、両親の会話を聞きながら、胸の内に複雑な感情が湧き上がるのを感じていた。
今回は、自分が外に置かれるのではなく、対等な一員として扱われている──そんな感覚が新鮮であり、少し嬉しくもあった。
しばらく黙って考えていたノックスが、ふと口を開いた。
「今日、セレナが俺に決闘を申し込んできた。」
カルマはそれを聞いて振り返り、軽やかな声で応じた。
「今日は会えなかったのが残念ね。できれば一度、彼女の実力をこの目で見てみたかったな。けど……」
そこで言葉を切り、にやりと笑みを浮かべた。視線には確かな自信が宿っている。
「仮に戦うことになっても、ヨルちゃんならきっと勝てる。……そうでしょ?」
そう言って、カルマは運転席の炎に視線を送った。
炎はルームミラー越しにノックスと目を合わせ、一瞬だけその目に鋭さを宿らせながら、静かにうなずいた。
「……ああ、勝つさ。必ずな。」
-第六章 (完)-




