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デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第五章

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縁 (6)

 ノックスが部屋に戻ってしばらくすると、カルマがマグカップを手に、そっと彼の部屋のドアを押し開けた。


  彼は机に向かって資料をめくっていたが、その目は虚空を見つめているようで、意識は明らかに別の場所にあった。

 額には疲労の色が濃く、眉間には深い皺が寄っている。


「ヨルちゃん、お腹は空いてない?」

  カルマはドア枠にもたれながら、軽やかな声をかける。

 けれど、その瞳には隠しきれない心配の色が滲んでいた。


 ノックスはぼんやりと彼女を一瞥し、首を横に振った。

「……大丈夫、食欲ないから。」


 カルマは無言で彼の机にマグカップを置くと、傍の椅子に腰を下ろした。

  「さっき、パパがギルドに連絡して確認したらしいわ。

 今日あなたを襲った少女、今最年少のデビルハンター——名前はセレナっていうらしい。」


 そう言ってから、彼女はほんの一瞬だけ言葉を切り、まるで情報の重みを測るように視線を逸らした。

  「ただ……なぜ彼女があなたを狙ったのかは、まだ不明よ。」


「……最年少のデビルハンター……」

  ノックスは小さくつぶやき、セレナの紅い瞳と冷酷な殺意を思い出す。

 あの一瞬の凍てつく気配が脳裏を過るたび、背筋がぞわりとした。


 だが、すぐに別の疑問が頭をもたげる。

  彼はふと視線を上げ、疑念を込めた口調で言った。


「……俺が襲われたっていうのに、君たちの反応、ずいぶん落ち着いてたよな?」


 カルマは片眉を上げ、皮肉気に微笑んだ。

「そんなに緊張してほしかった?」


「そうじゃない。」

  ノックスは首を横に振る。


「ただ……まるで、こうなることを最初から知ってたみたいだったから。」


 カルマはその言葉にしばし沈黙し、ふっと苦笑する。

  「……図星ね。正直に言えば、私たちの家には、昔からちょっとした厄介事がつきまとうのよ。

 理由は……まあ、色々とあるけど。だから、小さい頃からあなたに戦う術を教えてきた。

 いざという時のためにね。」


 その言葉に、ノックスは思わず眉をひそめた。

  自分の家庭が普通でないことは、薄々感じていた。

 けれど「襲撃に慣れている」と言われるほどとは、予想の範囲を超えていた。


「だったら……なぜ学院では戦闘の授業を受けさせない?」

  彼は、疑問を率直にぶつけた。


「目立ってほしくなかったのよ。」

  カルマは肩をすくめて言う。

「あの場所じゃ、目立つ子は何かと面倒を呼ぶでしょ。」


「……目立つな。」

  ノックスはその言葉を反芻し、胸の奥に違和感が広がるのを感じた。

  彼が今日、鋭い直感で攻撃をかわさなければ、今ここにはいなかったかもしれないのだ。


 沈黙の後、彼は意を決して口を開いた。

「……五年前、一体何があった?」


 カルマの笑みがぴたりと消える。

  一瞬、目が揺れた。言葉が喉に詰まったように、彼女は口を開きかけて、閉じる。


「……今は、話す時じゃないわ。」

  マグカップを指差しながら、まるで話題を逸らすかのように、明るい口調で言った。

  「もう遅いし、それ飲んで早く寝なさい。明日も授業あるんでしょ?」


「答えたくないんだな。」

  ノックスの声には、静かな怒りが滲んでいた。


 カルマは立ち止まり、ふと振り返って小さく息を吐く。

  その目にはどこか申し訳なさが漂っていた。


「……ごめん。でも、今は本当に……まだ早いの。」

 そのまま彼女は部屋を後にした。ドアが閉まる音が、やけに重く響いた。


 ノックスは椅子に座ったまま、扉を見つめていた。

  指先で机をトントンと叩きながら、胸の奥に渦巻く無力感と苛立ちを抑えきれなかった。


 この家には、語られない秘密が多すぎる。

  父と母の静けさ、五年前の謎、今夜の襲撃——すべてが、何かひとつの見えない線でつながっている気がした。


 ノックスは拳を握りしめ、心の中で静かに誓った。


「……話してくれないなら、自分で突き止めるしかない。」

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