↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デビルアカデミア~ 悪魔学園の禁断の封印を解くのは俺だけでいい ~  作者: 雪沢 凛
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/112

家族(2)

「目玉焼きも作ったわよー!」

 カルマの明るい声が、ノックスの思考を断ち切った。


 顔を上げると、母が湯気を立てる目玉焼きの皿を運んできた。

  その笑顔は、いつもと変わらず柔らかかった。


「ありがとう、ママ」

  ノックスは小さな声で言い、フォークでぷすりと目玉焼きを突く。

  心の中のもやもやを、ひとまず押し込める。


 アイデンもコーヒーを片手に、テーブルの料理に目を落とす。

 焼き加減ばっちりの目玉焼き、トーストにはチーズがきれいに散らされ、

  かぼちゃのポタージュからは優しい香りが立ち上っている。


(昔は、生卵すらまともに割れなかったくせに……)

 アイデンは心の中で苦笑した。

  何年も前、カルマが「人間の朝ごはんを作る」と意気込んで、

  玉子を全部ぐちゃぐちゃにした惨劇を、今でも覚えている。


 それが今では、こんなにきれいな食卓を用意できるようになったのだ。

  アイデンは、心から感心していた。


 カルマは、最後の一皿――香ばしいソーセージをテーブルに置き、

  エプロンの裾を拭きながら笑った。

「さあ、食べて食べて。特製よ!」


 アイデンはカップを置き、冗談交じりに言った。

「まさか、あの生卵クラッシャーだったカルマが、

  こんな朝食を出せるようになるとはな。見直したよ」


 カルマはふふっと得意げに笑い、ノックスの肩を軽く叩いた。


「でしょ? 努力したんだから!

  このふたりを養うの、ほんっとに大変なんだから」


「別に、そこまで頑張れって頼んでない」

  炎(エン)は窓の外から視線を戻し、ぼそりと返す。


「だよね」

  アイデンも軽く笑いながら同意する。


「なによ!」

  カルマはエプロンをぱたぱたと叩きながら睨んだ。


  「全部あんたたちのせいでしょ。

  私がここまで頑張るようになったのは、あんたらが推したからよ」


 アイデンは肩をすくめ、悪びれもせずに言う。


「ノックスのためだろ?

  “家の中だけでも、普通の人間みたいに暮らさせたい”って、君が言ったんじゃないか」


 カルマは一瞬だけ目を細め、コーヒーを一口すする。


「……言ったけどね。簡単に言わないでよ。

  こっちは生まれつき、人間じゃないんだから」

 彼女は自分の胸を指差し、冗談めかして付け加えた。


 アイデンはくすっと笑い、からかうように言う。

「でも、今じゃちゃんと卵も割れるもんな」


 カルマはカップをテーブルに置き、にっこりと笑った。

「またそれ言う? そんなに言うなら、あんたの朝ごはん、卵抜きにするわよ?」


 ノックスは静かに彼らのやり取りを見つめながら、ふと口元をわずかに緩めた。

  こんな光景を眺めていると、家の空気もそれほど重苦しいものではないように感じられた。

  むしろ、珍しく心地いい――そんな風にすら思えた。


 けれど、胸の奥には、拭いきれない疑問が渦巻いていた。


(どうして、俺は“普通の人間”みたいに生きなきゃいけないんだ?

  母さんは悪魔、父さんは人間。……じゃあ俺は、一体何なんだ?)


 ノックスはふと視線を上げた。

  すると、父――炎(エン)の目線が、まっすぐ自分に向けられていることに気づいた。


 赤い瞳は一見穏やかに見える。

  だが、その奥に潜む鋭さは、静かに、けれど確実に、ノックスの胸を突き刺した。


「どうした?」

 炎(エン)が不意に声をかけた。

  声は大きくないが、どこか抗いがたい圧を持っている。


 ノックスは一瞬戸惑ったが、すぐに首を横に振った。

「……なんでもない」


 平然と答える。

  炎(エン)はノックスの表情をじっと見つめたが、それ以上は何も言わず、ゆっくりと頷いた。


 カルマはこの短いやり取りを見て、くすりと笑った。


「ほらね、アイデン。

  この親子、本当に無口で困っちゃう」


 アイデンは笑いながら、コーヒーカップを置いた。

「ノックス、なんでもかんでも抱え込むなよ。

  せっかくだから、学校で何か面白いことでもあったら教えてくれよ」


 ノックスは一瞬、迷った。

  符紋室のことは、ここでは口にできない。

  特に父の前では。


 少し考えた末、なるべく当たり障りのない話をすることにした。


「特に何も。

  普通に授業と、あと……実戦観戦があったくらい」


「実戦観戦か、いいじゃないか」

  アイデンは興味深そうに眉を上げる。

  「何か面白いバトルでも見たか?」


 ノックスは、特異科の対決について簡単に触れた。

  もちろん、カイルの挑発や風刃の一件はきれいに省略して。


 言葉もトーンも淡々としていて、聞く者にはただの学院の日常にしか聞こえないだろう。

 そんなノックスに、カルマがすかさず突っ込んだ。


「まさか、また見学中ずーっと固まってたんじゃないでしょうね?

  石像みたいにさ?」


 ノックスは肩をすくめ、短く答えた。


「結界がしっかりしてた。

  騒ぐ必要なんてなかった」


「へぇ、親父譲りだな」

  アイデンが笑う。


  「どんな時でも冷静、簡単には動じない。

  まるでエンそっくりだ」


 炎(エン)は黙ったまま、コーヒーを飲んでいる。

  が、その口元が、わずかに緩んでいるのをノックスは見逃さなかった。


 カルマは大きく伸びをして、にやりと笑った。


「実戦観戦かあ……いいなあ。

  朝ごはんも食べたし、私もちょっと体を動かしたくなってきたわ」


 ノックスがスプーンを置くと、カルマはすでに席を立ち、アイデンに向かって声をかけた。


「アイデン! 例の結界装置、ちゃんと用意してるでしょうね?」


 アイデンはにっこり笑い、親指を立てた。

「バッチリさ」


「よし、じゃあ準備して! すぐ行くから!」

 カルマはぐいっと顎をしゃくって、次はノックスに振り返った。


「ヨルちゃん、あんたもグズグズしないで早く食べなさい!」

 ノックスは心の中でため息をつきながら、残りの朝食を急いでかき込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。