第37話 怒る相良の逆襲
―――相良秀視点―――
仮面ドラゴンブラックの正体があの零乃だと聞いた俺は怒りに打ち震えていた。
「あんな男のせいで俺のキャリアに泥が……」
DGのエースと言われていた俺が、仮面ドラゴンブラックに手も足も出ず敗北をした。そんなことがあったせいで、ダンジョンを支配していると言ってもいいほどに影響力を持っていたDGが侮られるようになってしまった。
お前らとは違う。
そんな風に蔑んできたDGの連中からは嘲笑を受けた。この俺がゴミどもから嘲り笑われたのだ。人類の頂点であるこの俺が。
俺は子供のころから常にトップを走り続けてきた。敗北など一度も無い。勉強でも運動でも常に勝ち続け、敗者を一方的に虐げてきたのだ。
その俺が敗北をした。
栄光を歩んできた俺の人生。海外の一流大学を首席で卒業し、鳴り物入りでDGに入りエリートとして活躍。その活躍を糧にいずれは政界入りをし、父の地盤を引き継いで国会議員になる。その俺が……。
「地べたを這いつくばって生きているような、あんなゴミムシ野郎に敗北をしたというのかっ!」
怒りのあまり自分の部屋で俺は叫ぶ。
人生で初めて受けた敗北の苦しみもある。
しかしそれ以上に、零乃なんかに負けたことが悔しくてしかたなかった。
「あの野郎、絶対に殺してやる。いや、デッツに引き渡して洗脳させたほうがいい。奴を邪悪な怪人にしてやる」
なにが正義のヒーローだ。あんな奴が持て囃されるなど不愉快極まりない。邪悪な怪人として世間から蔑まれればいいのだ。そうなれば俺の受けたこの恥辱も、少しは晴れるというもの。
だがあれを捕らえるのは困難だ。ブラックドラゴンの遺伝子を持つあいつと正面から戦って勝つのは不可能。なにか策が必要になるが……。
「……いや待て」
なにも、変身したあいつを相手にする必要はない。
本来の奴は零乃甚助というなんの価値もない雑魚の敗北者だ。そんな奴を捕らえることなど、難しいわけはなかった。
―――零乃甚助視点―――
今日の俺はバッチリとキメている。
床屋じゃなくて美容院に行って髪型をセットしたし、服は高級なブティックで見立ててもらったものを着ている。
普段は外見なんかいいかげんな俺が、なぜこれほどにめかし込んで繁華街の喫茶店なんかにいるのか? それは昨日にこんなことがあったからだ。
……
「ねえ甚助さん、あさってわたしとデートしない?」
「えっ?」
一緒にゲームをしていると不意に焔ちゃんがそんなことを言う。
「デ、デート? 焔ちゃんと誰が?」
「もちろん甚助さんとだよ」
焔ちゃんはニッコリと笑顔でそう言う。
そんな馬鹿な。
焔ちゃんは世界で一番かわいい17歳の女子高生スーパーアイドル。対して俺はイケメンでもない普通のしょぼくれた30代だ。
こんなつり合わない2人がデートなんてありえない。
なにかの間違いじゃないかと思った。
「お、俺と焔ちゃんがデート? 本当に?」
「うん。まあデートって言うかちょっとしたお出掛けかな。ダンジョン以外で甚助さんと出掛けたことってないし、たまには外で一緒に遊ぶのもいいじゃない?」
「けど俺と一緒に出掛けても、焔ちゃんは楽しくないんじゃないかな……」
自慢じゃないが俺は女の子とデートなんてしたことがない。
同年代とのデート経験すら無いのに、焔ちゃんのような若い子と出掛けて楽しませるなんてできる気がしなかった。
「それは行ってみないとわからないでしょ?」
「けど……」
「嫌なの?」
「嫌だなんてとんでもないっ」
焔ちゃんとデートができるなんて夢のようだ。
しかし嬉しい反面、幻滅されたらどうしようという不安もあった。
「じゃあ決まりね。楽しみー」
「う、うん」
もう行くことが決まってしまった。
幻滅されないため、入念に準備をしなければ。
俺はダンジョンへ行くときよりも気合を入れて準備することにした。
……
そして今日に至る。
焔ちゃんは自宅から来るということで、喫茶店で待ち合わせることにした。
外見はできる限りなんとかしたが、元が元なので限界がある。どうやっても焔ちゃんとつり合う姿にならないのはしかたがない。
一緒に歩いていて恥をかかせたりしないだろうか?
パパ活だとか思われたりしないだろうか?
とにかくいろいろと不安であった。
約束の時間まではまだある。
しかし1分1秒が恐ろしく長く感じられ、心臓は常に早鐘を打っていた。
「――ちょっとそこのお兄さん?」
「えっ?」
焔ちゃん……ではない。
別の女性が俺に声をかけてきていた。
「あ、あの……」
ひとりの若い女性が俺の座るテーブルの横に立っていた。
清楚風なかなりの美人だ。
俺なんかに声をかけるような女性には見えないが……。
―――相良秀視点―――
帽子を深く被って顔を隠した俺は、喫茶店の端に座って様子を見る。
女が零乃に接触した。
あとはうまく誘き出せればいい。
零乃はどう見ても女にモテない。
若くて綺麗な女に話しかけられれば間違い無く引っ掛かる。
あれは俺が付き合ってやっている女のひとりだ。
事情は話していないが、誘き出すだけならばその必要もないだろう。
うまく誘き出せたら1日付き合ってやると言ったら、理由も聞かずに喜んで協力をすると言って来た。女なんてみんな俺の奴隷みたいなものだ。俺が声をかければどいつもこいつも喜んで尻尾を振ってくるのだからな。
しかし零乃は違う。
中学時代もまったく女に縁がなかった奴だ。あのときとさほど外見に変化はないし、今も女にモテないだろうことは明白だった。
その零乃があれほどの美人に声をかけられれば間違い無く誘いに乗る。
そしてうまく誘い出したところで……。
俺は懐へ忍ばせた注射器へ目をやる。
これを打てば一瞬で昏倒させることができる。
あとは意識の無い零乃を車へ積み込んでデッツに引き渡すだけだ。
実に簡単じゃないか。今まで怪人を使って必死にあいつを捕らえようとしていたデッツの連中がマヌケに思えた。
しかしあんな連中でも組織はでかいので金はある。うまいこと利用をすれば、いくらでも稼ぐことができた。
連中が手こずっている奴を捕獲してやるのだ。今回の報酬は数億ほどふっかけてやってもいいだろう。公務員であるDGの給料は安い。あんな安月給だけで偉大なこの俺が満足などできるはずはないのだ。
辛酸を舐めさせられはしたが、俺が大金を稼ぐ糧になってくれたのだ。そう考えると俺の溜飲も下がり、零乃へ感謝の気持ちすら沸いてきた。




