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第21話 焔ちゃんをテレビで見て大興奮の甚助

 ―――ゼラムス視点―――


 ……ガンジョラの失敗を知った俺は怒りに任せて机を叩く。


「無能な奴め……っ」


 シルバーライトになどうつつを抜かさなければ成功していた。

 強力な怪人ではあったが、人格面に問題があったのだ。


「次の作戦を考えなければな。なにか良い方法は……うん?」


 机の上に置いてある新聞の記事が目に入る。


 人気イケメンアイドルの九条直哉が、同じく人気アイドルホムラとの熱愛を匂わせる発言とか言うくだらない記事だ。


「そういえばこいつ、探索者としても優秀だったか」


 S級探索者の資格を持っており、神龍というS級パーティにも所属している。アイドル件探索者という二足の草鞋を履いているということでも、人気になっているらしい。


「シルバーライトの正体はこのアイドルホムラだ。これはもしかして使えるか?」


 シルバーライトはドラゴンブラックと懇意だ。動画でもドラゴンブラックがシルバーライトに好意を持っているような感じがある。この記事の真偽はともかくとして、九条をホムラに近づければドラゴンブラックの油断を作れるかもしれない。


 次に行う作戦の起点を思いついた俺は、頭の中で計画を練り始めた。



 ―――零乃甚助視点―――



 今日は焔ちゃんがアイドルの仕事で配信活動はお休みだ。

 なんでもお昼に放送される生番組に出るということで、俺は居間にあるテレビの前で待機をしていた。


「テレビで見なくても、毎日会っとるじゃろう?」


 雄太郎さんもテレビの前にはいるが、俺ほど楽しそうではない。


「それはそうですけど、普段の焔ちゃんとテレビのホムラちゃんって違うじゃないですか。それを楽しむって言うか……」

「どっちも一緒じゃろ」

「えー。全然違いますよー。普段の焔ちゃんは明るくて快活。テレビのホムラちゃんはクールビューティーじゃないですか。他の視聴者はこのクールビューティーホムラちゃんが本当の性格だと思ってるけど、俺だけは本当の焔ちゃんを知ってるってことを考えながら見ると、なんか優越感に浸れて嬉しいんですよ」

「いや、わしも知ってるけど」

「じゃあ一緒に優越感に浸りましょうっ」

「別にわしはそんな気分にならんのう。お、始まったぞ」


 時間になり、生番組が始まった。

 内容は今人気のアイドルに話を聞くというトーク番組だ。スタジオには観客も入っており、賑やかな雰囲気だった。


 他のアイドルはどうでもいい。焔ちゃんがなにを話すのかだけ楽しみだった。


「はーい。こんにちは。アイドルの芯に迫る超追求番組『直撃』の司会を務めさせていただく、アナウンサーの木藤綾香きふじあやかでーす。さあ、本日スタジオに来ていただいたアイドルさんは豪華ですよー。なんと、今女性に大人気のイケメンスーパーアイドルの、九条直哉さんに来ていただきましたー。どうぞー」


 アナウンサーの呼びかけで、九条直哉が現れる。

 瞬間「きゃあああっ!」と、音響兵器のような黄色い歓声がスタジオに響き渡った。


「こんにちは。九条直哉です」

「きゃあああっ! 九条さーんっ!!」


 九条が発言するとふたたび黄色い歓声が。


 どうしたら名乗るだけで女から歓声を浴びれる男になれるのか?

 30歳になってもそれはわからなかった。


「すごい歓声じゃのう。わしも一度くらいは女性からきゃああなんて言われてみたいもんじゃったわい」

「俺は言われたことありますよ。前を歩いている女性が財布を落としたのでうしろから声をかけたらきゃああって言われました」

「それを聞いてわしはどんな反応をしたらいいんじゃ……」

「笑えばいいと思うよ……」


 嫌なことを思い出し、なんか悲しくなってきた俺は両手で顔を覆った。


「はあ……もうほんとイケメン過ぎ……。あ、し、失礼しました。あ、えっと、すごい歓声ですねー。九条さんくらいイケメンですと、幼いころから歓声は浴び慣れているんでしょうね」

「ええまあ、そうですね。僕が産まれたときに母親と看護師さんが歓声を上げてましたよ」

「きゃああああっ!」

「なに言ってんだこいつ?」


 つまんねーこと言ってら。


 しかしイケメンならつまらないことを言っても女は大喜び。対して俺みたいな男が必死でおもしろいことを言っても、必死でキモイと思われるだけだ。


「あははっ。さすがはイケメンスーパーアイドルの九条さんですね」

「僕なんてそんなにイケメンじゃないですよ。普通です普通。もっと全然、格好良い人、世間にはいっぱいいますから」


 こいつがイケメンじゃなかったら俺はなんだ?

 岩に打ち付けて顔面を潰したハダカデバネズミか?


「そんな馬鹿なっ! 九条さんにくらべたら世間の男どもなんて岩に打ち付けて潰れた顔面にゲロを塗りたくったハダカデバネズミ……し、失礼しました。つい本音が漏れてしまいました」


 もっとひどかった。


「けれど九条さんはイケメンに加えて海外の有名大学を卒業された超高学歴。それにバスケット選手のような高身長。そしてお父様はなんとあの世界でも有数の大企業であるトヨカの経営者。しかも探索者としてもS級として活躍されているパーフェクトな御方なんですよねぇ」

「はは、ええまあ」


 それに対して俺は30歳の無職。顔は凡庸。学歴普通。身長普通。親父は普通のサラリーマン。探索者どころか級すら持っていない。


「いやー素晴らしい。さて、それじゃあもうひとりのスーパーアイドルをお呼びしましょう。アイドルのホムラさんです! どうぞー!」

「わああああっ!」


 今度は低い声の歓声が響く。


「うおおおおっ! 焔ちゃーんっ!」


 俺も一緒に歓声を上げた。


「いつも会っとるのに、テレビ越しでよくそれだけ興奮できるのう」

「テレビ越しだから思いっきり興奮できるんですよっ! 側で興奮してたら変態じゃないですかっ!」


 まあ表に出さないだけで、めっちゃ興奮はしてるけどね。


「こんにちは。ホムラです」


 普段の焔ちゃんとは違い、無表情で冷たくあいさつをする。

 しかし実際の焔ちゃんは明るくて快活な女の子だ。


 他のファンが知らない真実を知っているという優越感。

 それはもうなんて言うか、感動に近い喜びであった。


「ホムラさんもすごい歓声ですねー。ちっ、これだから男は……。あ、失礼しました。ホムラさんも幼いころから異性にはモテたんでしょうねー」

「いえ全然」

「そんなことないでしょうー? 絶対にモテてましたってー」

「無いです」


 俺も絶対にモテていたと思う。

 同級生にこんなかわいい子がいたら絶対、好きになるし。


「雄太郎さん、やっぱり焔ちゃんは小さいときからモテてましたよね?」

「うん? いや、小学生くらいのころは地味な子での。モテるどころか友達もおらず、ひとりで漫画やアニメを見たり、ゲームをしてることが多かったのう」

「そ、そうなんですか?」


 今の明るい焔ちゃんからは想像もできないが。


「それがあるときからなぜか快活になってのう。なんと言うか、引っ込み思案だったのがなにかを切っ掛けに自信を持ったようなのじゃ。それからダンジョンで犯罪者を倒す活動を始めてのう。そののちに街でスカウトされてアイドルにもなったんじゃ」

「へー先にダンジョンでの活動をやっていたんですね」


 てっきりアイドルを先に始めたものだと思っていた。


 しかし快活になったきっかけってなんだろう?

 ちょっと気になった。


「いやー美男美女が並ぶとまるで映画のワンシーンのようですねー。眩しいと感じているのはわたしだけじゃないはずですよー」


 実際、俺も眩しく感じている。

 まるで王子様とお姫様だ。俺なんかと並んでいるときは、お姫様と召使いである。


 本当に眩しい。いや、本当に……。


「って、なにしているんですか雄太郎さん?」

「なにって、頭に汗をかいたから拭いているんじゃ」


 ハンカチで拭かれた雄太郎さんの輝く頭が俺を照らしていただけだった。


「今日はせっかくこのお2人が揃っているということなので、みんなが気になってるだろうことを直撃してみまーす」

「みんなが気になっていることって……あ」


 そういえばSNSとかニュースで話題になっていた九条の発言を思い出す。


「九条さん、以前、好きな女性のタイプを聞かれたときに、クールな女性、例えばアイドルのホムラさんのようなかたと答えたことがありましたよね? あの発言は大いに話題となりましたけど、ぶっちゃけホムラさんに好意があるんですか?」


 かなり突っ込んだ質問だ。

 しかしこんなの正直に答えるわけもないだろう。


「ありますよ」

「ええーっ!」


 即答する九条。

 直後、悲鳴にも似た声がスタジオに響き渡った。

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