第46話 ノッキンオン・デビルズゲート
「逃げろ!奴らキョウトを焼き尽くすつもりだ!」
「子供が!子供がまだ家に!」
「あっちのシェルターは爆撃されたらしい!」
……………。
「地獄への入り口、だな。この攻撃もは。
しかし、祖国を焼け野原にするってのは辛いもんだねぇ」
人っこ1人いなくなった地上。焦げ切った草と肉の臭みが煙の中充満する。
あちこちで、自分達が空から落とした爆撃の火が燃え盛る。
平原と化した大地に生きものの気配は、ない。
「ここまですりゃあ、やっこさんたちももう逆らわねえだろう。
ハハハハハッ!」
ガサッ。
草むらから音がした。
まさか、まさか生き残った奴がいるってのか。
なら殺すしか、ねぇ。
音のした茂みを覗き見る。
そこには。
「少女?片手が吹っ飛んでやがらぁ。
………!!!」
___________。
自室のソファー、目を覚ます。
夢を見た。過去の記憶の。
「そうか思い出したぜ。
東桜の春、あん時だ。あの少女。
円筒型のネックレス、間違いねえ」
凛とした猫耳の少女が敬礼をしながら入ってくる。
「失礼します。キャッフェ・ラッテです。
どうしました、隊長。
具合でも悪いのですか?」
「あぁー、ちょいと昔のことを思い出してただけさ」
身を起こし、テーブルの上に残った紅茶を飲み干した。
当然、すでに冷め切っている。
「ラインハルト隊長。
そろそろ頃合いではにゃいですか?」
「ホウ。人もどきが俺に指図かい、いい御身分じゃあねぇか。
どうしたってそんなこたぁ急に聞くんだ?えぇ?」
タバコの火を灰皿にぐりぐりと押し付ける。
火の紅色が消えて、炭に変わる。
「ご無礼失礼いたしました。
何度も5〜10機の編成で島を攻めては痛み分けで撤退……これを繰り返すこともう1ヶ月以上です。
そろそろ我ら兵士も痺れを切らしている頃でして……。
こんなにもだらだらとした駆け引きににゃんの意味があるのですか」
タバコの焼けこげた匂いが部屋に残る。
その匂いの向こうにいるラインハルトは肩を動かしてやれやれとする。
「ハッ、そんなことも分からずに戦争やってんのかよ。
我が隊ながら教育不足だった、なぁ?
やってることは簡単よ。
俺ぁ、あの島は元より簡単な島じゃねぇことを分かってる。
加えてカンナギとかの合流だろ?
だからまずは、戦力の数と力の差を計ってたんだよ。
だが、それももう十分だ」
窓から夜の闇を見る。
その目線の先は、散々に帝国を苦しめた鉄の要塞。
壊せるか、壊れるものかと全てを阻む、近くて遠いその島が。
「見立てでは戦力差は向こうの4〜5倍、勝てる範囲だ。
イレギュラーがいなけりゃ、な。
おい、オールアイに伝えろ。
明朝に出撃、海上に30機編成、ビスクドールのフライト部隊だ。
PS部隊も出す。
あとは、猫さんよ。
アンタにも出てもらうぜ」
キャッフェに背を向け、そう告げる。
「にゃはん?私の機体"キャッシード"は地上専用ですけどぉ?」
とぼけた口調で軽口を叩く。
「だからテメェが活躍すんだよ。
いや、活躍の場を与えてやろうってんだ」
キャッフェは何かに気づいたらしい。
突然にニヤニヤし始める。
「成程ですねこの戦況。夢のお告げですか?」
「かぁもしれねえな。
下手すりゃあその夢が地獄への片道切符ってか?」
そういうとラインハルトはタバコを取り出す。
「さぁ、火蓋を切ってやろうじゃあねえか。
絶望的なほどに、な」
タバコの煙が、匂いが部屋に残るのみであった。
(にゃはぁん。ようやく攻める気になったってとこ?
裏切る気配無し、と報告しないとねこの人が。
さぁ〜面白くなってきた)
【ライナーノーツ】
1 タイトル元ネタ:97年のドイツ映画「Knockin' on heaven's door」及びボブ・ディランの同名楽曲。
「デビルズ・ゲート」は遊戯王のストラクチャーデッキ「デビルズ・ゲート」から。




