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輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter4 伊忌島からの凱歌 前編
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第31話 イビル・アイΛ(シグマ)

 海、と言うのは神秘そのものだ。

人間がどれだけ技術を手に入れようと、大自然の真理を得ることはないだろう。


対して、人とはなんと小さく単純なものか。

感情を持ち、複雑な生き物に見えても、それは幻想だ。

この世の生物と言う道理に生きる限り、結局は大自然の一部に過ぎぬ。


故に、難しいことを考えようと無駄なのだ。

そんな奴とは"波長"が合わない。

もっと、もっと原始的に生きること。


それこそ、人間らしく生きることなのだ。



 「だからこそ、俺は原始的衝動にウズウズしてんだよ」

ヴラドミール・ラインハルトは艦上のドックから青く昏い水平線を見つめ、呟く。


銀の混じる白髪。

粗雑に掻き上げられたウルフカットのオールバック。

そして老獪さを含んだ、胡散臭い目つき。


そんな見た目の『極北の狼』に、首輪を付けられた梟の様な亜人が報告に来た。

「ラインハルト中将、追加の人員2名が到着いたしました」


「あいよフクロウ、ご苦労さん。

じゃあーこれであのチンケな島をぶっ潰す面子は揃ったワケ、だ。

そいつらを入れな」


「ハッ。お入りください」

フクロウ、もといオールアイ・ヴィンヤーズはオドオドとドアの向こうへ話しかける。




ガチャ、とドックの扉が開く。

「エムル・V・ブラダガム、並びにメアリー・ブルーオード。

着任いたします」


「これはこれは皇太子様。

辺境の地への活路を拓いてくださったご本人様自らが、この部隊への配属とは……このラインハルト光栄の極みでございます」

慇懃無礼な態度で、ラインハルトは頭を下げる。



その態度がエムルにとっては鼻につくものだったらしい。

「心に思っていないことを言えたものだ、ラインハルト中将!

父上の命が無ければ、貴様のような男の下などに!」


「おっとぉ、いくらなんでも皇太子様々とは言えそれはいけねぇなぁ?」

頭をゆっくりとあげ、ぎらりと光る眼でエムルをじっと見る。



「皇太子様よぉ、何を勘違いしてるか分かんねえが。

ここの指揮権、トップは俺だぜ?


俺が上、お前らは等しく下だ。

勝手な行動も、理念もあっちゃあ困るんだよ。


波長が合わねえなら、お城に帰っておねんねしてな」

神経を逆撫でする言葉。

それをきっかけにエムルが現上司に噛み付く。



「き、貴様!俺は果たさなければならない使命がある!

それを果たすために、父上に貴様達を与えてもらっただけだ!!」


ドックに緊張が走る。

部隊員には、分かっているのだ。


『これだけの無礼を働かれ、ラインハルト中将がただで済ませるはずがない』

ということを。

しかし、当の本人は違った。




「ハハハハハハァ!!!

偉ぇ人でも所詮ガキだな、なーんも分かっちゃいねぇ!

絶望的になあ!


そこまで暗愚だと愉快だぜ。

聞いてるぜ、お前負けたんだってなぁ?なぁぁぁ??


どうせ、使命とか言って自分に泥塗った敵をよぉ、ぶちのめしたいとかそんなんなんだろ?


しかも専用機を与えられて。

無様で不幸で?

絶望的なシチュエーション。

最高の蜜が、俺んとこに来ちまったなぁーーーあ??」

ラインハルトは、更に感情の波を逆立てる。



「俺が無様で不幸だと?

馬鹿にするのも大概にしろ!


俺は栄誉ある騎士となり、父上に認められることこそ使命。

だから多くの戦功をあげなければならない!


それにヒヅルに負けたのではない、俺はまだ戦えた!」

握り拳をわなわなと震わせ、大声を出すエムル。

一人で勝手にキレ散らかす彼の姿は、傍目には滑稽に映るだろう。



「ダァーーーッハッハッハッア!!

尚のこと愉快だ!!

パパに見てもらえないから、当たり散らしで人殺し。


独りで突っ込んで?

その"ヒヅル"とか言うのに負けて?

絶望に打ちひしがれ?


ザマァねぇな。

馬鹿の一人相撲に付き合わされるヒヅル君は可哀想でちゅねぇ?

理解できまちゅかー?」



「!!!!!!!」

とうとうエムルが手を出した。

震える拳を一直線にラインハルトにぶつけに行く。


しかし、ラインハルトは動きもせず、腕を掴みそのまま地面へ取り押さえた。

「ここが戦場のど真ん中なら、お前は頭吹き飛んでんぜ?


弱え、絶望的に弱過ぎる。

てめえの"りねん"も"ちから"も。


もっと周りと仲良〜く、プリミティブに戦場を楽しむことを覚えな」



腕を離すと、転がるエムルの脇腹に蹴りを入れる。

しかし、エムルは頑なだった。

ぐっ、と小さな声をあげるエムルは再び飛びかかろうとする。


「ラインハルト中将、失礼しました」

が、その様子をメアリーが制した。


「おぉ?物分かりのいい嬢ちゃんじゃねえな。

ガキのうちから可愛い恋愛をしておいでですな?皇太子サマ?」




(ん?コイツはどっかで見たような顔だな……?気のせいか?)

心に波紋のように広がるこの感覚は、一体なんだろう。

ラインハルトには少し気掛かりであったが、気のせいと思うことにした。


「我々は与えられた部屋で、出撃まで待機いたします。

案内していただければ幸いです」


「ハァン、素直な女はいいねえ。オジサン惚れちゃうね。

フクロウさんよ、こいつらの愛の巣を案内してやりな。

巣作りなんて楽勝だろう」



「は、ハッ!」

ラインハルトとエムルの取っ組み合いに、ただオドオドとしていたオールアイが2人をドックから連れ出した。


「ふぅ、全くとんだホビーが増えたな。

さて、ついでに全員に通達しておくか」

全艦に通達されるチャンネルを淡々と開き、マイクに向かう。




「えー、我が艦隊全員に告ぐ!

時は来た!

我々はブラダガム帝国がもっとも、攻めあぐねていた拠点の一つへ赴く!


それは諸君も知っての伊忌島。

我々は明日本格的に侵攻・制圧する。


んでよお、お前らが戦う理由はなんだ?

理想か、使命か、平和のためか?


ケッ、馬鹿馬鹿しい。

戦争や人殺しなんざ、原始的な生物の生存競争そのものよ。


意味を考えるくらいなら、殺しを楽しんでから死にな!


感情なんてもんはねぇ。

ただ作戦立てて効率よく、プリミティブに狩りをしろ。

これが俺の1番の命令よ。


だからこそ、この艦隊に上下はあれど差別はねぇ。

人も亜人も関係なくみんな平等。


平等ってのはどういうことか?

平等に価値なんてねえってことよ。


価値って言葉もなあ、人が作った感情的な概念。

殺しには必要ねぇ!捨てな!!


同じく敵の命も平等に価値はねえ!

だから殺しに戸惑う必要もねえ!


っちゅう訳で、明日からみんな楽しめ!

絶望的で愉快な狩り(ゲーム)をしようぜ!

以上だ!」



オォーッ!と艦隊のあちらこちらで士気があがる。

「ま、殺る気をあげる波立ては必要だがな」

ニヤリと大きく笑い、小さい声でラインハルトが呟く。




時を同じく、格納庫でラインハルトの演説を聞くパイロットがいた。


少女だろうか。

見た目は人だが、耳と尻尾がついた猫のような亜人だ。


「にゃはん!ワクワクするね、この戦争…!」

真っ赤な猫目が月明かりを反射してギラリと光った。


伊忌島の戦いが開戦する前日の夜であった。

【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:東方旧作キャラクター「イビルアイΣ」より。

イビル(悪)、いびる(いじめる)の掛け言葉

Λ→「波長」を表す記号。アルファベットの「L」

ラインハルトの「L」


2 キャラクターについて

・オールアイ・ヴィンヤーズ→ホークアイ・ヴァインヤード。お酒。

鷹からフクロウにチェンジ。

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