↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻創世 アルヴァーナ  作者: ひやニキ
Chapter5 The Breaks
PR
101/120

第81話 その心、感じあって ~We Belong Together~

 本国に戻り2週間が経った。

修理の進捗も7割と終わったところだと言う。

そんな最中であろうとも、ヒヅルはこの2週間ずっとマサヒコにいやがおうに稽古に付き合わされていた。


「おーやおやぁ。できるようになってきたねぇ。

おじさん、少し嬉しくなってきたよ?」


そう言いつつあっという間に籠手(こて)を叩き込み一本を取る。

ヒヅルは立ったの14日間という時間の中で、マサヒコのつかう"見えない剣"の絡繰(からくり)を解き明かし始めていた。

振る直前まで見えているのに、『振った瞬間に認識ができなくなり、消えたように見える』ところまでは掴めた。


尚且つ、間合いや仕掛ける・引くの読み合いなど、試合における立ち回りを覚え始めている。

相手に誘われず、隙を見せた瞬間をさらに見極める。


……が、一本とて取れぬのは未だ変わらない。

目隠しをしている相手にも関わらず、だ。


「なぜその状態で見えているのですか?」

「ん?」


その日の稽古終わりに、ヒヅルが尋ねた。

ずっと気になっていた。

物凄く強く、攻めと引きの駆け引きが超人的なこと、そこまでは理解した。

だが、見えぬ中でごくごく普通に見えるように振る舞うことは理解の範疇を超えていたのだ。



「そうさなあ!視覚ばかりに意識を持ってかれてないことが肝要だなあ。

相手を見るな、更にその奥……心を感じろ。

としか言えんな!」


明朗快活に笑いとばす。

背も外見も自分たちと、そう大差を感じぬ師が笑う。

ヒヅルは眉をひそめた。マサヒコの言葉は、いつもながら謎めいていた。


「心を感じる…ですか」

「そ!剣は単なる道具だ。大切なのは、それを持つ人間の心だ。それは銃でも剣でも変わらん。

君がラインハルトに勝ったのは、それに少しでも近づけたから、じゃないのかね?

もしくは無意識だったかな?」


マサヒコは柔らかな笑みを浮かべながら説明を続けた。

ヒヅルは黙って頷いた。

理解はできないが、何か重要なことを聞いたような気がした。


「さて、今日はここまでにしよう」


マサヒコは立ち上がり、目隠しを外した。

そうだ、目隠しハンデがあっても彼の動きには追いつけない。

そんな自分が、まだまだ未熟なことをありありと感じてしまう。




己の未熟さについて考えながらも、訓練終わりのヒヅルは休憩室の静かな一角で休憩を取っていた。


「心を感じろ、かぁ。簡単に言ってくれるよなあ」

「あらあら、難しいことを考えてらっしゃいますのね」


ヒヅルはその声のする方を向き、そして驚かざるを得なかった。

声のする方には、長い髪を揺らしながら近づくコトハがいた。

穏やかな雰囲気は間近に見るほどに高貴で、そして珠のような肌が煌めく美しさを醸し出していた。


「ヒヅル様、何を悩んでらっしゃいますの?」


コトハは優しく微笑んだ。


「あっ、えっ、、?」


突然の出来事にヒヅルの脳が停止した。

眼前にはこの国で最も尊い存在が微笑み、まっすぐ自分を見つめている。


「そんなに驚かなくても大丈夫ですわ。ヒヅル様は本当に不思議なお方。

ところで、何を悩んでいらっしゃるのですの?」


隣に座りながら、微笑む。

不思議なのは貴女の方だ。

自然と、自然となんでも話せてしまうような、そんな安らぎを感じる。

つい先程の経緯を話してしまった。


「それで、『心を感じろ』と言われて……そんなの分からなくて。どうしていいか」

「それはそれは……難しいことですわね。

心とは、常に隣にいる人のそれすら、分からなくなる程に感じ取って汲み取ることが難しいものです」


ふと、コトハは遠くを見つめる。

少し寂しげな色が瞳には浮かんでいた。

「私は妹の気持ちひとつすら、感じ取ることができません。不出来な姉です」

「妹君がいらっしゃったのですか。

すいません、僕が不勉強なあまりそんなことも知らなくて」


ふふっ、と微笑み彼女はヒヅルの目をまっすぐに見る。

とても照れ臭く、そして緊張する……が、なぜだろうか。

彼女の顔を間近で見るのは、なんというか初めてであり初めてではない気がする。


「私を尊敬してくれている素敵な妹ですわ。

でも私も妹……シュウカの努力家で、時に大胆な行動をできる瞬発力を尊敬していますの。

ところがある日……」

「ある日?」


「私のもとを飛び出してしまいました。

『お姉ちゃんは天才型だからなんでもできるのが羨ましい。

自分で自分の身もある程度守れちゃうし、私は,いらないの?

なら、私はお姉ちゃんにできない形で自分のできることをする』

って。

私は止めることも、言葉をなげかけてあげることもできませんでした。

だって、私にはシュウカの気持ちが、心がわからなかったから」


休憩室の窓から広がる、広大な曇り空を見上げながら貴人は一息に語る。

じっとヒヅルは考える。コトハ様の気持ち、妹さんの気持ちを。

気持ち……心、か。



「んー……きっと妹様は、コトハ様のことが何より大事なんだと思います」

「え?」


ヒヅルは少し躊躇いながら先を続ける。


「妹様は、もしかしたら。

もしかしたらですよ、コトハ様のためにできる何かを探して、飛び出していったのかもしれません」


コトハは驚いた表情を浮かべる。

よーし、きっと合ってる気がするし、このまま言葉にしてしまおう!


「例えばですが、

『自分で自分の身を守れちゃう』

『お姉ちゃんにできない形で自分のできることをする』

という言葉。

その裏に、コトハ様を守りたいという強い思いがあったのではないでしょうか。

コトハ様の心にも、妹様の心にも、お互いが強く存在しているからこそですよ」


静かにヒヅルが頷く。

自分の言葉に正直、絶対の確信なぞ持てない。

だがきっと正しいだろう、今は少しだけそう思える何かがある。

自信の色がメラメラと湧くヒヅルの目をまっすぐ見つめ、コトハは言葉を失ったように黙り込む。

そして、少しだけ悟る気持ちを交えては微笑んだ。


「そう……かもしれませんね。

そうであるならば、それは実にあの子らしいことです。

ありがとうございます。

あなたの言葉で、シュウカの行動の意味が少し見えてきた気がします」


きっと何か、支えになる言葉は与えてあげられたのだろう。

時には、当てずっぽうの自信でも人に何かを与えることは、できるものなのだなあ。


『心を感じる』


それはまだ確かにヒヅルには難しいことかもしれない。

でも、それがどんな動き方をするのか。

それがほんの少しだけ、ヒヅルには分かったような、そんな気がした。


【ライナーノーツ】

1 タイトル元ネタ:「We Belong Together」:マライア・キャリーの有名曲。元カレへの未練を歌った曲です。Who's gonna take your place? There ain't nobody better (あなたの代わりになれる人は誰?そんな人なんていない)

コトハもシュウカもお互いをどこかでそう想っているはず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。