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俺の不幸を意に介さず女は鹿爪らしい顔をして話を続けた。
「しかし彼奴らからすれば『楽園』が欠けた状態であることが許せんのじゃろう。個としてはあまりに歪であるがゆえに全に固執することはわからんでもない。妾や主様の意思に関係なくという点ではやはり独善的に過ぎるがな。妾とて知性を得る前ならまだしも……いや、以前も嫌悪のきもちはあったように思うが、今となってはどうでもいいことじゃ。とにかく主様もきもちのわるい妹御にあれほど慕われてはたまらんじゃろうて、同情を禁じえぬよ。クククッ」
「きもちわるいとか言うな。あいつはめっちゃ可愛いだろ!!」
思わず布団から顔を出し声を大にして言う俺だった。
たしかにきもちわるいけども、人に言われると腹が立つのだ。
「……訂正じゃ。あの妹にしてこの兄あり、じゃな」
「なんか余計に悪くなってねえか?」
「いいわけがあるか。シスコンもたいがいにせい」
ジト目で睨まれてしまったので俺は再び布団ガードを再開した。
まあ俺が妹に感じた不気味さやおぞましさがこいつの言った部分に起因することは頷けたし、こいつが知性を名乗るだけの博識を持ち合わせていることにも一応納得だった。
「話が逸れてしもうたが、つまりは知恵の実を齧った猿どもが知性を得たことで楽園を失ったように、妾もまた知性が芽生えたことにより楽園を拒絶するようになった、ということじゃな。猿畜生ごときが何を偉そうに知性とかほざくか、とは思うが」
「蛇畜生ごときが何を偉そうにほざいてんだ!?」
「だってだって、妾は神様じゃもん。様が付くくらいじゃから猿よりも人よりもずっと偉いのじゃぞ?」
「神様が『だって』とか言うな!」
威厳も何もねーよ。ていうかこれが神とか信じられねーよ。
「だいたい神なら簡単に姿を現すなよ。消えることもできるんだから、俺の心が狭かろうとなんだろうと出てくるなってんだ」
これだけお喋りな奴にあんな何もない空虚ところ(自虐)に居続けろというのも酷な話かもしれないが、可哀想だからといってこいつを認めるわけにはいかないのだ。このままでは俺のSAN値が下降の一途を辿り日常が崩壊するのは目に見えている。
だが予想通り、両手を振り上げて――逆さまなので振り下げて、激しく抵抗の意を示してくる自称・神。
「厭じゃ厭じゃ!! 一人は退屈なのじゃ!! 妾はもっと主様とお話がしたいもん!!」
「おまえさっき『個』の幸せ語ってたよね!?」
基本的には大人びた雰囲気なのに、不意討ちのように童女よりも童女らしいところを垣間見せやがる。人間離れしているというか、見た目二〇くらいの女の言動じゃねぇよ。
「……今は主様に合わせて妙齢の女子の形をとっておるが、姿はある程度替えがきくのじゃ。主様よ、よもや忘れてはおらんじゃろうな? なんなら今すぐに思い出せてやろうか? 妾の本当の姿をな――」
「出てきてもいいからどうかそのままでいてくれお願いします」
俺は布団の中で土下座した。
昨年、地獄の夏に首だけの姿となったこいつと出くわしてしまったことはいまだ記憶に新しい……どころか、それから何度となく悪夢の中で見せられているスプラッタな光景を忘れられるはずがなかった。
夢の中ならまだしも、自室でリアル首ちょんぱ女なんか見せられたりしたらSAN値がピンチどころの話じゃない。もうやだよこんな不条理……。
「不条理を受け入れる勇気!」
「なんでも『勇気』をつければ簡単に受け入れられると思ったら大間違いだぞ!?」
あくまで聞こえが良くなるだけだ、それは。
もうこいつのことはとことん無視して寝てしまうが吉だな、と俺は改めて布団を頭までかぶり直した。
出てきてもいいとは言ったが、相手をするとは言ってないし。
「ところで主様よ、どうやら妾のないすばでーには妹御の肌着は合わんようじゃ。胸がこうきつくては乳が変形してしまうぞ。なんで現代の女子どもはこんなもの付けておるのじゃ? 動きづらいし窮屈じゃろうに」
「人の妹の下着を勝手につけてんじゃねえよ!?」
今は空き部屋になっているあいつの部屋にはほとんどの家具が手つかずに残ったままなのだが、そこから拝借してきたに違いない。
思わず飛び起きた俺は、天井にいる妖しい女が着物を大胆にはだけてアクロバティックなストリップを演じているのを見てクラリと眩暈がした。
「ふむ。ぱんつというのか、このふんどしみたいな布キレの方はまあ、今めかしいフリフリが可愛らしくて気に入ったぞ。どうじゃ? 似合うであろ?」
俺は再び倒れこむと、布団どころか枕まで頭の上にかぶせて死にそうな声を出した。
「……メアリー、頼むから悪夢は夢の中だけにしてくれ……」
とまあ、一人暮らしのマンションの一室では今日も俺のひとり言の数が着実に増え続けていたのだが、それもまた物語とは無縁の関係のない出来事でしかなかった。
とっぺんぱらりのぷぅ。




