姐さんアタック
※今回も視点が少々入れ替わります。
お車、お車、わぁ~い、わぁ~い♪
幼稚園児ヨロシク的な歌(?)を心の中で口ずさみながら横に座っている姐さんを見る。
怒っているかと思えば、そんなこともないらしい。
ただ、何か不機嫌なのは間違いなさそう。
ちなみに男装ではなく、ちゃんとした女性の格好をしておられます。
しかし、俺は服に詳しくないので、○ーコのようにファッションチェックが出来ないのが残念!
「一応言っておくが、デートのつもりはないからな?」
「……姐さん、今日はどちらへ?」
「話をそらすな! ったく……お前は何処に行きたいんだ?」
意外や意外。まさかあの姐さんが俺に意見を求めてくるなんて……。
「あ、えっと、そうですね~。姐さんってゲーセン行きます?」
馬鹿だ。こんなボケをかますなんて、なんて俺らしくないのだろう?
まさか……緊張してる? でもゲーセンは流石にナシだろ!?
「ん。いいな、ゲーセン。行くか!」
マジですか!? マジで採用されちゃったよ。
「久々にストレス解消できるしな!」
あぁ~そういうことですか。ってことはあれですか? パンチングマシーンとかですか? 一気にMAXでぶっ飛ばしますか、姐さん??
「しばらく行ってないし、新しいの入ってるだろうなぁ」
「はい、きっと入ってますよ。姐さんは何をなさるんすか?」
「川端さん、日の出町のゲーセンまでヨロシク! そうだなぁ……やっぱあれだろ?」
「あぁ、それですか……」
姐さんが着くに早々向かった先はダンスゲームだった。
画面に出てくる矢印をタイミングよく床のパネルで踏むんでいくという、一昔流行っていたDSM(Dance Step Master)だ。
「さて、早速……と」
ポケットから何かを取り出した。
「……姐さん、それは?」
「ん? “メモリーカード”だが? 見ればわかんだろ?」
これまた一昔に主流だったゲーム機のメモリーカードだった。
そうか、姐さんの家は二世代ほど遅れているんすね……
それを差し込むと、プレイした曲が記録されて、家庭ゲーム機でも遊べるらしいのだが……
「姐さん、今それって対応してるんすか?」
「ん? 差込口には入るけど?」
姐さん、今のゲーム機と前のゲーム機のスロットの大きさは一緒ですよ。
てか、今日の俺はツッコミ係っすか? 姐さんって天然だったんですか??
コインを入れて選曲し始めた姐さん。
どうやら一番妥当(?)なレベル5、“Ganash D”を選んだようだ。
「さて、やりますか!」
曲が始まり、華麗に足を動かしていく。姐さん素敵だ~~!!
んで、終了。ランクは……Sぅ!? さすがっす!
「おい、ネェちゃん。俺とやらねえか?」
終わると同時にガラの悪そうな男が絡んできた。
肌がどす黒く、耳にピアスを3個付けてるいかにも不良って感じだ。
うわっ、姐さんのピンチ!助け……に行かんでもいいか。
「ん? あんた強いのか?」
「へっ、強気なネェちゃんじゃねえか? おっし、賭けるか! 俺が勝ったら今日一日付き合ってもらうぜ?」
「じゃぁ、俺が勝ったら……そうだなぁ全裸でこのゲーセン一週……いや、2週しろ!」
それに切れ気味になったヤンキー男は、
「じょ、上等だぁー!」
拳を作って叫んだ。
いや、ちょっと待ってよ! 姐さんが負けたら俺どうなんの?
「おっし、んじゃこれな」
そんなことは露知らず、姐さんが選曲したのは、“Parallel 300”。レベルは……ぶっ!!
MAXの8!?
姐さ~ん、やめてけろ! それってばアーケードゲームの覇者、“AGE”でも最後までいかなかった曲っすよ? 何年かブランクがある姐さんじゃ無理ですってば!
「……大きくでたな。ま、最後までいかなくてもスコアで決まるからいいがな」
ヤンキー男は引きつった顔で言う。
プレッシャーの問題ですな、こりゃ。
曲が始まる。
始めはたいした事もなかったが、どんどんハードになってくる。
そして、目を疑った。全方向の矢印が連続で出てきたのだ。
おぉ、我が敬愛する神よ、どうか姐さんをお救いください。
胸の前で十字を切る俺。
ヤンキー男はそれを→と↓を足で踏んで、←と↑を体を前に倒して両手で押さえる。
なんて奴……って姐さんも!? 今日の姐さんはスカート! そんなことしたら姐さんのパンブハっ!!
<<柳視点>>
「つっ、キツイな」
私は半年ぶりにするだけあって流石に体が堪えてきた。
さっきの全方向ステップだってあの男の見てなきゃ見逃してた。
こんな男の言いなりになんてなってやるものか!
昔から自分のこの顔が憎い。いつもいつも変な野郎が寄ってたかっては誘ってくる。
お袋殿! あなたの遺伝子、私はとても嫌いです。
テンポがどんどん加速していく。
おっし、ここで挽回!
一方向の連続。タイミングをずらすと大きく減点されるとこだが、生憎私は得意だ。
そして、曲が終わった……。
「う、うおぉぉぉ~~~!!」
後ろからいつの間にか集まった野次馬から歓声があがる。
「ん? ってあれ? だらしねぇ奴」
絡んできた男はその場で失神していた。画面にはゲームオーバーの文字が……
自分の判定は……
「ちっ、Bか……」
残念だ、Aはいけると思っていたんだがな。まぁ、勝てたからいいけど……
「ね、姐しゃん、流石です。 世界記録ですよ! “Parallel 300”最後までできたのは姐さんがはじめてっすよ!」
「ん? あぁそう」
何故か鼻血を出ている馬鹿は大ハシャギしていた。
いまいち言ってる事がわからないが、すごいらしいな、Bで。
まぁ、記録らしいから、ランキングのAGEの上にYNG(YaNaGi)と刻んでやった。
<<竜輔視点>>
あ~、姐さん、今日は一段と美しい。
ダンスゲームは一流、容姿も一流。最高だ。もう俺、死んでもいい。
「……目が“はあと”になってるぞ!」
「う~ん、姐さんにメロメロぉ~」
「はぁ~……腹減ったから飯にするか?」
「はいぃ~」
姐さんに促されるまま、側にあった“ラーメン屋”に入った。
「いらっしゃいませ~。 って、竜輔じゃない? 休みの日に来るなんて珍しいわね」
しまった、誤算だ。ふらっと寄った店がよりにもよって「木城式」~?
まずい、いや……これはいい機会だ。ここで俺と姐さんのラブラブ振りを見せ付けてやるぅ。
「そちらの方はぁ? はじめまして」
美佳は姐さんを見る。
「あぁ、聞いて驚け、この方は俺のカノジブハっ!」
「はじめまして。この馬鹿の言う事は気にしなくてもいいから。お……私は氷見院柳。
心配しなくてもただの“お友達”だから!」
愛の鉄槌を腹に受けて意識が吹っ飛ぶ俺だった。
「はい、ラーメン2つお待ちどうさま~!」
美佳さんが注文した醤油ラーメンを持ってきた。
「あ、ありがと、美佳……うう、腹が……今日はなんか堪えるな」
復活した馬鹿が腹を押さえながら答えた。
「全く、人前で余計な事を言うからだろ?」
「あはは、お二人は仲いいんですね?」
「何処が!」
吐き捨てるように私は言った。
「……なんか氷見院さんって男って感じですね。あ、御免なさい。悪気はないんですよ」
美佳さんが私を見て呟く。
「あぁ、一応男っぽくしてるつもりだから、気にしないで。(ズルズル)」
ラーメンを食べながら答える。
「そうなんですか……。ちょっと竜輔! 伸びちゃうわよ!?」
「ふぇ~い。(ジュルジュ)」
この光景……なんか違和感がない。絵になっている。
ダメ夫と真面目な妻。
ここまで似合っていると自分が孤立しているように感じる。
馬鹿の側にいるのは私ではなく……彼女……
はっ、何1人で考え込んでいるんだ!?
てか、何これ?嫉妬? 馬鹿馬鹿しいにも程がある。
私は……この馬鹿とはクラスメイトで付きまとわれてる不幸な女。
そうだ、何を迷う必要がある! それ以外に何があるというのだ!
ちょっと伸び気味のラーメンを平らげ、コップの水を一気に飲み干した。
「おいしかった♪ 美佳ぁ、昔の馴染みでまけてぇ~な」
「い・や!」
冷たいなぁ。それでも幼馴染みに対する態度?
俺は財布を渋々取り出す。
「あ、ちょっといい、氷見院さん?」
「え、お、私?」
美佳は姐さんを連れ出し、店の奥に消えた。
むむむ、まさか美佳の奴、俺の姐さんを……いやいや考えすぎだ、落ち着け俺!
<<柳視点>>
「ねぇ、氷見院さんと竜輔は付き合ってるの?」
「ぶっ!!! そ、そんなわけないじゃない」
私はいつの間にか女言葉になっていた。
「ふぅ~ん、じゃあ何で一緒なの?」
それは話せば長くなる。というわけで話を逸らしてみる。
「美佳さんはあの馬鹿が好きなの?」
「え!? あはは、面白い事言うのねぇ。そうだな~、昔ちょっと付き合ってたかな?」
やっぱりそういう関係だったんだ……
「でもぉ、昔のことだよぉ? 最近は会いに来るのも少なくなってきてるし」
「昔のあいつってどんなんだった?」
ちょいと疑問に思っていた事もついでに聞いてみた。
「ん~~、頼りなくはあったけど、優しくはあったかな? でも、私がいなきゃ何も出来なくてさ」
あの馬鹿がねぇ……
「氷見院さんって、もしかして口説かれた?」
「う、うん。それで今困ってる」
「……竜輔はいいやつだよ。優しくしてあげれば本当にいい奴だから、かまってやって。
あいつはさ……」
そして、美佳さんの口から衝撃的な事実を聞いた私は凍りついた。
<<竜輔視点>>
「あ、美佳! 俺の姐さんに変な事してないだろうな?」
「大丈夫! ちょっと仲良くしてただけだもん。ねぇ?」
美佳は姐さんに相づちをうつ。
「……うん」
怪しい。解釈の仕方ではかなり“あっち”方面な取り方もできるぞ。
それに、なんだか姐さんの元気がない。
「じゃぁ、氷見院さんの分だけナシにしてあげる! あんたの分は払いなさいね!」
「ふぇい」
木城式醤油ラーメン650円を支払う。
「何回も言うけど、月に一度は必ず顔だしなさいよ」
「おう、また来るよ」
美佳にテキトウに返事をして姐さんと店を出た。
「次は何処に行きます、姐さん?」
「……」
お~い、どうしました? 姐さんってば元気ないよぉ~。
俯いたままって感じだ。
「姐さん、どうかしました? まぁ、そういう陰鬱な顔も素敵っすけど……」
「……」
むむむ、俺ってば次は何した!?
「ははぁ、俺よりさっきの不良の方が好みでした?“そうだ”なんて答えた日には俺、首吊りますよ? ぜ、是非止めに来てくださいね!」
「……」
ツッコミすらなしですか?
「……ば……か……」
「え? うわわ」
姐さんはいきなり俺の手を掴むと裏路地みたいなとこに連れ出した。
うひゃ、姐さんってばもしかして大胆にもここでおっ始める気?
「聞いた……」
「え、何をですか?」
「全部」
「ううう? 話が見えんのですがねぇ」
姐さんが睨んできた。
「お前、母親いないんだってな?」
「はぁ~……美佳に変なこと吹き込まれたんすか? あいつ、余計な事を」
嫌だ。こんな話を他人と、しかも姐さんとすることになるなんて。
冗談じゃない! 俺は姐さんとは一緒にいたいけど、そんな話なら別だ。
「姐さん、今日は帰ります。急用を思い出しちゃって」
「俺……似てるのか?」
「っ!!!!!!」
美佳の馬鹿! 姐さんにいらんことを吹き込んでんじゃねえぞ!
くそっ、これじゃ全部丸潰れだ。
「姐さん、俺はそんなんで軽々しく人を好きになんてなりませんよ」
「じゃあ俺を好きになった理由を聞かせておうか」
困った。確かに姐さんがさっき言ったのでおおむね合ってる。
だけど、何だかんだ言って俺にかまってくれる姐さんの心の広さにも……それでいいじゃ
ないかって? 男には譲れない場面もあるのさ。
「あ~~~、わかりました。今後一切姐さんに近づきませんから許してください。俺、なんか勘違いしてたみたいっす」
「勘違い?」
「俺、姐さんと一緒にいれば……かあちゃんがいつも側にいてくれるような気がしたんす。でも違った。それは無理やり自分に言い聞かせてただけで、本当はここにいつもいたんです」
俺は胸に手を置いた。
「……そうか」
「なぁ~んてね♪ ちょっとカッコよく言ってみましたぁ~。でも、別の意味でも姐さんのことは好きですからね。ってわわ!!」
姐さんが抱きついてきた。
そして、肩に顔をうずめて言ってきた。
「わかった、付き合ってやるよ。俺のこと好きなんだろ?」
一瞬耳を疑った。
「あ、あああの同情だったらこっちからお断りっすよ?」
「馬鹿、今度は俺の気持ちを確かめるんだ!」
姐さんの確かめるため……そうですか。
それならいい。
純粋にお互いを気持ちを確認し合いながら一緒にいるのなら今よりいい関係を作れるかもしれないしな。
「んじゃ、これからよろしくおねがいします!」
「あぁ、よろしくな」
こうして俺と姐さんは付き合い(?)始めたってわけだ。
第一部的なものが完結しました。
次回から学園生活メインになります。




