1話 知らない天井
「うーん…はっ」
目が覚めたら、知らない天井でした。
まさかこのセリフを本当に言う時がくるとは。
「あら、お目覚めかしら」
ガチャリとドアが空いて、1人の女性が入ってきた。
その女性は深紫のロングストレートの髪にそれなりに際どく、かつ優雅な衣装に身を包み。
そして、頭からは1度ループした山羊のような角、背中からは一対のコウモリのような翼、腰からはキュートな尻尾が生えていた。
「あ、あなたは…淫魔?」
「あら、あなた、私たちのこと知ってる割に冷静なのね。もっと恐れられたり嫌悪されたりするかと思ってたわ。私はミリア、この屋敷の長と思ってもらえれば大丈夫よ」
この世界において、淫魔は魔族と呼ばれる種族に分類されている。
「それは微妙に違うわ。淫魔は淫魔族、魔族とはまた違う種族よ。まあ、魔国に住む国民という意味なら魔族になるかもしれないけれど…その場合だと、『魔人』というのが正しいかしらね」
「へっ?今、声に出てました?」
「いいえ?ちょーっとだけ心を読んだだけよ?」
「平然と読心術を使わないで下さいまし!?」
「ごめんなさいね、もう読まないわよ。本当に不思議な人間族ね、私を恐れないどころかツッコむなんて」
からからと笑って言うミリアという淫魔。
イグルー王国では淫魔は魔族と教わったけど、それは間違いだったらしい。
訂正訂正、淫魔は淫魔族と呼ばれる種族に分類される。そして淫魔は魔国という国の国民だそう。魔国は恐らくイグルー王国から見て魔の森の反対側に国土を持つと思われる。
彼女らは全員が女性だといわれ、度々人間のテリトリーに侵入しては男の精を搾り尽くし、殺してしまうということで恐れられている。
だけど、考えてみると、こんな超絶美人(さらにたわわなものをお持ち)に搾られるということは必ずしも悪いことばかりではないんじゃないか。前世が男な個人的にはそう思う。
だからだろうか、淫魔のことを知ってもこの世界の人間たちが持つ恐怖や憎悪の感情を持つことなく、むしろ彼女らに好意的な感情を持つのは。
「まあ…色々と。それよりも、助けて頂きありがとうございますわ。わたくしはアイシャと申しますわ」
恐らく彼女が助けてくれたのだろう、なぜなら私は魔の森で行き倒れたはずだからである。目が覚めたら知らない天井だったというのなら、助けられたか拉致されたかの2択だからだ!
「それはミィシャに言ってあげて頂戴。あなたをここまで運んできたのはあの子だから」
「そうなのですね、後でお礼に行かなくてはなりませんわね。……それで、人間を襲う(意味深)と有名な淫魔がわたくしを助けるというのは、何が目的ですの?」
正直なんの打算もなく助けるとは思えない。たとえ私がどれだけ淫魔Loveだったとしても、それはそれ、これはこれ。これは政治の話だ。
「あら、別に取って食おうだなんて考えてないわ。それに人質として扱うつもりもね。第1、淫魔が全員人間を襲うなんてことないのよ。あれは、1部の馬鹿共がやらかすだけ。私たちも別に精がなければ生きていけない訳じゃないし、贅沢品みたいなものね。そもそも私たちも無断で他種族を襲った淫魔は制裁するようにしてるの。だからとは言わないけど、とりあえずは安心して頂戴」
ちょっと待って欲しい、学園では一切習わなかった衝撃的事実が色々と陳列されたような気がする。
けどまあ、淫魔がみんな襲ってくる訳じゃないっていうのは朗報かな。………それを伝えようにも私国外追放なってるから無理だけど!いいもんいいもん、イグルー王国の人間なんて無駄に淫魔のお姉さんたちに恐怖してればいいんだ!
「よいしょ…あぅ」
起き上がろうとしたら目眩がしてベッドに倒れ込んでしまった。
「まだ安静にしてなさいな。あなた、運ばれてきてから丸2日寝てたんだから」
「えっ」
うそ、私そんなに寝込んでたの!?
「とりあえず、食事を手配するわね。少し待ってなさい」
「あ、はい…。ありがとうございますわ」
「あぁ、それと服も洗濯に出してるんだったわね。後で持ってこさせるわ」
「ありが…へ?」
恐る恐る確認してみると、なんと私はすっぽんぽんだった。そういやなんかスースーする気がしたというか、なんかどこがとは言わないけどやたら擦れる気がしたというか…それにも気づかないとは、相当疲れ果てていたようだ、私は。
「安心して、脱がせたのは私と同じく淫魔だから。というかこの屋敷には男はいないの。それにしても、あなた人間の割にいい乳してるわね。見つけたのが淫魔じゃなかったら性奴隷になってるか、牛娘の牧場で乳牛になってたでしょうね」
「ヒェッ」
国外追放された挙句性奴隷ENDか搾乳ENDは嫌すぎる。改めて淫魔に拾ってもらえてありがたく思う私なのだった。
それからミリアは部屋を出ることなく、私の会話相手になっていた。そしてしばらくした後──
『失礼します、お食事をお持ちしました』
「来たわね。入って頂戴」
「失礼致します」
入ってきたのは、ワゴンを運ぶメイド服の女性。特徴は、人間では耳があるはずの部分がふわふわした鳥の翼のようになっていることと、背中から天使のはね(ランドセルではない)が生えていること、そしてこれまたたわわに実った2つの果実がメイド服を押し上げていることくらいか。
「彼女はうちの料理人でね、有翼人とハーピーのハーフなの。だから両方の種族から煙たがられて、うちに住み込みで雇ってるのよ」
「ハピ、と申します。お料理の簡単な説明をさせて頂きます」
そう言ったハピさんの運ぶワゴンには、割と人間各国でも見られる料理が並んでいた。正直魔人の屋敷だし、もっとゲテモノ(人間比)が出てくるかと思ってた。
「我が国に住まわれている人間族の方の料理を再現させて頂いております」
あ、そうなんだ。意外、人間各国の国民たちって、魔族とかの他種族への偏見強いからね。移民とかいるんだ。
「ではこちらから。蒸し鶏のローパーソースがけでございます」
「ローパーってのは魔物の1種ね。魔人でも魔物は敵対生物だし、1部で言われている魔人が魔物を操っている説は完全な誤りよ」
「こちらはスライムゼリーサラダです」
と言われたモノを見ると…これ、ジェローサラダですか?と言いたくなるものがそこにはあった。世界恐慌時代のアメリカで生まれたとされ、子どもには不評なやつ。
「元々は人間族の開発した料理らしいけれど、魔人も子どもは嫌いだというわね。けど身体が弱ってるでしょうから、流し込みやすいものということで」
こっちでも不評なようでした。
「そしてこちらはわたしの産んだ卵を使った、ポーチドエッグとなっております」
「えっ」
「ハピは、定期的に産卵するの」
「直近で種付けを受けた経験はありませんので、無精卵です。ご安心ください」
違う、そうじゃない。気になるのそこじゃない。てことはこの蒸し鶏も…?ってなっちゃうじゃない。
「この鶏肉はただの鶏肉よ」
良かった、お母さんの目の前で娘だか息子だかを食べるという最悪の展開だけは避けれた。…いや、卵食べてるなら結局食べてるのでは?アイシャはいぶかしんだ。
あ、料理はどれも美味しく頂きました。
さっぱりしてて美味しかったです。
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