プロローグ はじまりは婚約破棄と国外追放から
新作です✌︎('ω')✌︎
「アイシャ・レオナード!貴様との婚約を破棄する!」
イグルー王国の王都にこれでもかという程豪華に建てられた王宮で開かれている、王立学園の卒業パーティー。
そんな晴れやかな場で突然そんな空気を読まない場違いなことを言い出したのは、第2王子であるランド・イグルー殿下。そしてアイシャ・レオナードとは私だ。
突然だけど、私には前世の記憶がある。
ラニアケア超銀河団・おとめ座超銀河団・おとめ座銀河団・天の川銀河・オリオン腕・太陽系第3惑星である地球のアジア州東アジア地方、西洋からは極東と呼ばれる日本列島と周辺諸島を国土とする日本国で生きた、一般男性としての記憶が。
そう、私はなんと公爵令嬢にTS転生したのだ!
いやー、転生したと気づいた時は興奮したよね。何せ、憧れの『女に転生』を体験したのだから!前世は一般オタクだった私だが、百合とか女体化とかがとにかく好きだった。「TS転生キター!」って喜んでたよ、幼少期は。
だが。だがである。
幸か不幸か、私は公爵令嬢に転生したのだ。たくさんの可愛い・美しいメイドに囲まれて育ったのは間違いなく幸せだったけど、求められることが多すぎるのだ。スタイルの維持、マナー、服装、髪型etc...。
とにかく、貴族して最上級の爵位にあたる公爵令嬢として、求められる令嬢像のハードルが高すぎた。死ぬ気でなんとかやってきたけど!
あと、私は前世が男だから男との結婚など以ての外、死んでもお断りだと自分の中では思っているのだけど。
悲しきかな、政略によって私の知らない内に第2王子ランド殿下との婚約が決まってしまっていた。
しかも、その顔合わせの時の殿下の態度が酷いったらありゃしない。王宮という温室でぬっくぬくの状態で育てられたとしてもこんな酷いかねと疑いたくなるレベルで酷かったし、今も酷い。
けどまあこれも運命、しかも王家との約束を違えたら一族郎党クビ(物理)になるのは目に見えているので、私が耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍べばいいと思っていたところに今日のこれですよ。
殿下はこの政略の意味を理解していないのだろうか?
第1王子のスカイ殿下とその婚約者であるレイア・ハロルド公爵令嬢様(死ぬほど美人)の実家であるハロルド公爵家率いる貴族派──王家の権力を縮小し、各貴族により自治権を与えようという一派──に対抗して、第2王子であるランド殿下の婚約者に私を据えることでレオナード公爵家率いる王権派──王家に更に権力を集中することでより強力な中央集権を図る一派──の勢力を伸ばそうというのが殿下と私の婚約だったんだけど。
いや、この王子態度だけでかくて馬鹿だったからなぁ、分かってないかも。
「衝撃で言葉も出ないか?」
回想してたら、嘲笑うような口調で言ってくる殿下。
いや、衝撃というか呆れて声も出ないんだけど…。
「婚約破棄の理由は、貴様が在学中、このアイナ・ベアトリス嬢に度重なる嫌がらせを行っていたこと」
そう言う殿下の隣でハムスターのようにプルップル震えるアイナ嬢。いやいや殿下…ベアトリスって、ベアトリス子爵家でしょ?貴族派の一派やないかい。ハニトラか?ハニトラなのか?馬鹿なのか。馬鹿だったわ、うん。
周り見てみなよ、みんな呆れてるよ。私、学園では優等生で通ってたんだよ?ちょっと女の子とイチャついてただけで。
「そしてもう1つ、貴様が同性愛者ということだ!」
瞬間、周囲がザワッとなったのが分かった。レズビアンやゲイを含む同性愛は、この国で主流として信仰されている女神教──女神ステラを唯一神とする、人間族の大陸国家で広く信仰されている宗教──では異端とされ、許されざる者という扱いを受けている。
そっかー、バレてたのかー。これはしくった。いや、私的にはノーマルな恋愛なんだけどね?ガワはガールズラブというか、ビアンというか。
ていうか、私がビアンだって分かってるならアイナ嬢に嫌がらせする理由なんて無いでしょうに。
「衛兵よ、異端者を捕らえよ!アイシャ、貴様の沙汰は追って伝える!神妙にしておくんだな!」
衛兵がこちらにやって来る。
さて…ここまでずっと日本人の側を表にしていたから、公爵令嬢として、死ぬ気で育てられた成果をお見せしましょうか。
まったく、下心を隠しもせず、ニタニタと近づいてくるなんて。衛兵失格だよ。
「衛兵のあなた方、わたくしを捕らえることの意味を理解していらして?」
なんだなんだと怪訝になる衛兵ども。
「わたくしの沙汰は追って伝える…そう仰いましたわね、殿下?」
「そ、そうだ」
えぇ…ちょっと強めに言っただけで勢い消えたよあの王子。
「では、今のわたくしはレオナード公爵家の長女であるということ。一介の衛兵であるあなた方がわたくしにどう接するべきか…ご存知ですわよね?」
瞬間、衛兵たちの顔色がサーッと青くなった。大方粗末な牢かどこかにぶち込んで、楽しむ(意味深)つもりだったんでしょうけど。そんな不敬が許される訳がない。
「さて、王家に仕える由緒ある衛兵の皆様?わたくしをどのようにお連れして頂けるのかしら?」
ずっと口元を隠していた扇を閉じて、アルカイックスマイルを浮かべて口撃。
衛兵はどう出るかな?
「お、お連れ致します!」
「ええ、よろしくてよ」
衛兵風情が最高爵位の公爵家に逆らえる訳がない。それに、王権派筆頭のレオナード公爵家の人間に下手なことをして、レオナード家が王権派から離脱したらどうなる?
衛兵も縮小され人事整理があるだろうね。それを理解してる衛兵がどれだけいるか知らないけど。
私は衛兵に壊れ物を運ぶように丁寧に連行され、王宮の客室に軟禁されることになった。食事を持ってきたり入浴や着替えの手伝いに来るメイドや執事(王宮なので公爵家よりもレベルが高い)にそれとなーく聞いたところ、第1王子のスカイ殿下が裏から介入していたようだ。これでレオナード家を貴族派に取り込みたいという思惑だと思うね。
コンコン
ノックがあった。あれ、お食事はさっき貰ったけど、なんだろ。
「どうぞ」
「やぁ、失礼するよ」
「す、スカイ殿下!?」
なんと入ってきたのは第1王子のスカイ殿下だった!
まさかのスカイ殿下と2人きりである。こうしてまじまじと殿下を見るのは(レイア様に申し訳なくてしてこなかったが)初めてだけど、童顔というか、ちょっと中性的というか。
平たく言えば、女の子っぽい雰囲気がある。スカイという名前と同じく水色の髪はサラサラとしていて、お手入れがしっかりされているのが分かる。
「そんなに見られると、流石の私でも恥ずかしいな」
「あっ、し、失礼しました」
「いや、いいんだよ。それより、こちらこそ申し訳ない。こうして客室に軟禁というところまでしか介入出来なかった」
なんと殿下は私に向かって頭を下げた!
「で、殿下!頭を上げてくださいまし!そんな簡単に王族が頭を下げるのはよろしくないですわ!?」
「こうでもしないと私の気持ちが許さなくてね。…ランドの奴、父上と母上のいないタイミングで事を起こしやがって」
国王陛下と王妃陛下は、外交の為他国へ公務に赴かれている。だからこそランド殿下の暴走が鎮圧されていないのだけど…。
「そういえばだけど、アイシャ嬢が同性愛者というのは本当なのかな?」
「えっ!?え、えーっと…」
あ、終わった。サヨナラ私の人生。
なんて思ってたら。
「いや、私は特に罰しようなどとは思っていないよ。実際、他の宗教なんかでは許されているものもあるしね」
「そういえば、スカイ殿下の学園時代の専攻は宗教学でしたわね」
「そうだよ。そんなアイシャ嬢は地質学だったか。論文を読ませて貰ったが、思いもしていない視点で面白かったよ」
「あ、ありがとうございますわ」
ごめんなさい殿下、前世の知識なんです。地震頻発地域の推測とか、土砂災害危険地域予測とか。
「さて、あまり長くここにいるとメイドやレイアに勘違いされそうだから、私はこの辺りで失礼しよう。なんとかアイシャ嬢が追放にならないよう尽力してみるさ」
そうだよね、婚約者がいるのに私とあんまり長話してたらランド殿下と同じ穴のムジナになっちゃうよね。
けど、私は1個だけ、聞いておきたいことがあった。
「殿下、なぜ殿下はそれほどわたくしに助力を?やはりレオナード家を貴族派に引き込む為ですの?」
「聡明なアイシャ嬢だから、派閥のことにも気付いているとは思っていたが、やはりか。まあそれもある。だけどね、アイシャ嬢」
そこでスカイ殿下は1呼吸置いて。
「私はね、例え同性愛者であることが判明しても、堂々としているキミの姿が、とても眩しく感じられたからなんだ」
じゃあね、と言ってスカイ殿下は退室なされた。まあ宗教学専攻だし、女神教の教義に縛られてないんだろうな。
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そしてその2日後。スカイ殿下の尽力虚しく、私は国外追放になった。
スカイ殿下は馬車が出発するその瞬間まで、すまないと何度も言っていたけど、こればっかりは仕方ないでしょ。
窓の1つもない馬車に乗せられ、どこかへ運ばれる私。1度御者に聞いてみたところ、私は国境に生い茂る大森林、通称魔の森に捨てられる予定らしい。御者はだいぶ言葉を濁していたけど、それくらい察せるっての。
1週間くらい馬車に揺られ、流石に身体が持たんわとなっていた頃。
「それでは、わしはここで。ご武運を祈ります」
「ええ、ありがとう」
私は魔の森に捨てられた。御者がそっけない態度なのは、国外追放に処された者に協力すると、協力した者も罪に問われるから。
馬車に乗る時、服装の指定はなかったから学園の運動着──動きやすく、女子服でも長袖・長ズボンであり肌の露出が極力ないようになっている──を着用してたけど、正解だったな。
さて、これがそんじょそこらの箱入り娘なら悲嘆に暮れ野垂れ死ぬのだろうけど、私を舐めてもらっちゃ困る。前世の私は学生時代に登山部に所属していたし、学園では地質学に付随して薬草学もそれなりに履修していたのだ。食べられる野草の知識はそれなりに持ってる。
折角ここまで生きてきたんだ、このまま国境を越えるまで生き残ってやらぁ!
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なーんていっちょ前に威勢のいいことを言っていたのが懐かしい。
私は見事に魔の森で彷徨っていた。
魔の森が魔の森と呼ばれる所以である、魔物たち。私は魔力がそれなりにあったおかげで魔法で魔物の撃退ができるけど、終わりが見えない。
ほら、また狼型の魔物──確か、ダークウルフとかそんな名前だった気がする──が3匹こんにちは。
「『風弾』!」
風を弾丸状──イメージはNATO弾の弾頭みたいな感じ──に圧縮したものを、これまた風魔法で高速で射出する。弾丸はダークウルフの眉間を貫き、魔物を即死させる。
「タンパク質が欲しい…魔物肉を食べるべきかしら…」
今の私の1番のピンチ。タンパク質が足りない。炭水化物も足りない。主食は草。流石に森を越えるのは無理かもしれないと、弱音が頭を支配しようとしてくる。
そろそろ国境を越えるだろうか。それともまだ王国領をぐるぐる彷徨っているんだろうか。
やばい、意識が飛ぶ。あかん、死ぬ──
「あらあら、こんなところに人間がいるなんて」
意識がサヨナラする直前、そんな声が聞こえたけど。
その声に反応することも、顔を動かすことも出来ずに私の意識は落ちたのだった──。
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