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 第十三話 ミストウッド。魅惑のキノコのステーキ


 馬を走らせていると薄もやに包まれる。周りには緑深い森があるように感じられる。紙の独特な香りと森の香りは似ている。アレティスはそれだけで嬉しくなる。本のない生活なんて考えられない。石版の謎なんてとっとと終わらせて本に囲まれていたい。ちょっとしたホームシックにアレティスはなっていた。泣きそうになりながら母の言葉を思い出す。

『王女の矜持を持ちなさい』

「それが私の得意分野ね。泣いてたまるもんですか! さぁ、ムーンセレナーデ、行くわよ」

 さらに速度を上げる。気づいたときもうミストウッドの街の入り口だった。

「飛ばしすぎだ」

 レイスが後からついてくる。

「潰れてもしらんからな」

「ここで休養とらせるわよ。さ。何をおごってくれるの?」

「ここは森と霧の街だ。森の恵みがたんまりとある。しかたないな。俺のとっておきをおごるさ。まずはそれを食べさせてくれるおやっさんの宿に行かないとな」

「レイスはここに来たことがあるの?」

「そりゃそうだろ。図書館に行こうとすれば通る街だ。俺の事情の方も向こうの方がわかってるようだな」

 へぇ~と馬の手綱を引きながらアレティスは歩く。白馬の雌馬は街の中で非常に目立つ。

「どうして、そんな目立つ馬にしたんだ。お忍びだろ?」

「だって。私のツレはこの子だもの。ずっと乗り慣れた方がいいでしょう?」

「まぁな。と。ここだ」

「エンチャンテッド・シャンティ? あ、ここから森の景色が楽しめるのね」

 その宿屋は街の真ん中と言うよりは森の入り口にあった。

「ここの魔法のキノコのステーキが絶品なんだ。マジカル・ムシュルームステーキという。おやっさんー。また世話になるぞー」

 レイスが叫ぶとおう、と野太い声が返ってきた。

「よ、よろしくお願いします~」

 レイスが余りにも元気良すぎて面食らったアレティスはか細い声で挨拶する。

「ここに遠慮はいらない。俺も最初はそうだった」

「おう。レイス、また会ったな。お。嫁さんか?」

「な、訳ないでしょ!」

 すかさずアレティスが突っ込む。

「元気な嫁さんだ」

「だからー」

「遊ばれてるだけだぞ? 何、ムキになってるんだ?」

 涼しい顔してレイスが言う。

「そうなの?」

 世間知らずのお姫様は冗談もわからないのだ。

「じゃ、どう返せば良いのよ」

「嫁さんです、と返しておけばそのまんまだ」

「あんたの嫁さんなんて御免だわ」

 ツン、とそっぽを向くと宿屋の主人が大きな笑い声を響かせる。

「振られたな。残念だったな。レイス」

「俺も、コイツを嫁になんてやだね」

「いーっだ」

 アレティスは口を伸ばして言うと、さっさと宿屋の奥に入る。

「おい。部屋まだとってないぞ!」

「あ。そうか」

 さっきの不機嫌を残してくるかと思えば、素知らぬ顔で戻ってくる。

「ツンデレと天然が入り混じっているのか。レイス、苦労するな」

 ぽん、と肩を叩かれるが、やはり涼しい顔だ。

「たいしたことない。いつものことだ」

 ほう、と宿屋の主人バースが見る。

「おじんは若者の恋には入らないようにするよ」

「若者の恋!」

 二人で叫ぶ。

 二ヒヒ、と気味の悪い笑みを浮かべて、宿屋の手続きを済ませるとあっという間に消えた。

「変な人」

「悪口言うな。あれからキノコをあれから取りに行くんだから」

「今から?!」

「取れたでないと作れないんだよ」

「へー。手伝ってこようっと」

「おひっ」

 興味に思った事はとことん追求するらしい。

「勝手にしてろ。俺は寝る」

 早朝の出立に疲れていたレイスは部屋で寝具に寝転ぶとマルコムが貸してくれた古代言語の教本を取り出す。ぱらぱらめくっていく。いつしかレイスは夢の中へと引き込まれていた。

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