魔術協会に入る 1
大勢の人が楽しそうに道を行き交っています。道のわきにはたくさんの商店が所狭しと並んで客引きをしています。「いらっしゃい、新鮮なお肉揃えてるよー」「今日は特別大特価! いつもなら銀貨三枚のところを銀貨二枚と銅貨五枚!ほら、そこのお兄さん!彼女さんへのプレゼントでどうかい!?」とにぎやかです。
それもそのはず。
ここは世界で一番賑やかであると言われている商店街の一つスピキュールだからです。スピキュールという町は約三百年もの歴史を持つ貿易の中継港で、各地から商人が選んだ商品が絶え間なく搬入されています。今も遠くで船舶の汽笛の音が聞こえてきます。貿易の町として発展できているのはやはりその地理的要因でしょうか。
スピキュールの港は上空から見ると(私が箒に乗って上から見た個人的な見解です)鳥の嘴のような形をしていて、その嘴の陸側に大きな港を構えています。港というのが発達するにはいくつかの要素がありますが、この港では特に二つの点で大きくすぐれています。一つは嘴の形により波が穏やかになっていること。一つは陸側が大きな平地になっていることでしょう。このような波が穏やかになる港というのは、ほとんどの場合は陸側が山になっています。それはその港の成り立ちが関係しているのですが、これはまた今度の話にしましょう。とにかくこのように良好な港に広地があるのは珍しく、また広地があると広場を計画しやすいのでこの場所が貿易の町として発展することができているわけです。
この町に来たのは魔術協会に登録をするためです。私は薬の商人として旅をしていますが、魔法使いでもあります。旅には当然お金がかかります。
そこで魔術協会というわけです。魔術協会というのは世界各地に拠点を置いている、その名の通りの魔法使いの魔法使いによる組織です。
魔術協会に入っておくと、各地での仕事の紹介や緊急時の保険が下りたりします。入会費に金貨一枚、年会費に金貨一枚が必要ですが、旅人という不安定かつ危険な活動をするにおいて、保険に入っておいたほうが賢明だと思います。
魔術協会はこの町の港側にありました。地図を見なくてもわかります。というのも、魔術協会が管理する建物はこの国の重要文化財に登録されているらしく、人の流れがそこに向かっているからです。私もその列に加わって魔術協会に向かいました。