407話 警視庁問題対策委員会
――西タレイアン、吸血鬼ギルド王都支部。
「マークウッド同盟盟主代理セプティマス・ファンテイジ殿より仰せつかり、不肖ながら、私、エゼルワルド・ユースティス・エステルヴァインが委員長を務めさせていただくこととなりました」
会議室で、上座に座ったユースティスは、警視庁問題対策委員会の委員の面々を見回しながら委員長として挨拶を述べた。
「微力を尽くしてまいりますので、ご理解ご協力のほどよろしくお願いいたします」
トンプソン警部補の幽霊とダフから、警視庁の内部不正の証拠品を託されたファウスタが、事件の解決をマークウッド同盟に委託した。
そのためマークウッド同盟は、事件の解決に努めるため『警視庁問題対策委員会』を発足させた。
正確には、ファウスタに頼まれたティムが、それをユースティスに丸投げしたため、ユースティスが段取りを組んだ。
魔道士ギルド長バジリスクスの協力の申し出をファウスタが受け入れているため、警視庁問題対策委員会という体裁をとり、バジリスクスには委員として参加してもらっている。
警視庁問題対策委員会のメンバーは、いつものレグルス心霊探偵社の面々、ヴァーニー、プロスペロー、タニスの三人。
それに加えて、最初にファウスタにこの件を依頼したダミアン、そして支援を申し出たバジリスクス、ティム、そしてティムの従者の狼男ドリーだった。
「ダフが保管していた写真乾板を現像いたしました。まずはこの写真です」
ユースティスは手元にある写真の一枚を示した。
「警視総監補フリードマン氏が新世紀派の集会に参加している写真です。左から、フリードマン氏、教祖ダイセシウスの長男グラナシウス、そしてタレイアン公爵です」
ユースティスは写真を一枚一枚解説して、解説を終えた順に皆に回した。
「こちらも新世紀派の集会です。警視総監補フリードマン氏の隣りは、新世紀派タレイアン本部長ニキウス」
「ほう……」
「なるほど……」
皆が手元に回って来た写真を興味深そうに眺め、感心するように唸った。
「……」
次々と回されてくる写真を見ながら、ティムだけがだんだんと表情を暗くしていった。
「これらの証拠写真は、まずは保安局に渡すのが最善かと思います」
写真の説明と回覧が終わるとユースティスは言った。
「警視総監補を解任できるのは内務大臣と王都知事です。まずは内務大臣と王都知事に働きかけ、フリードマン氏を警視総監補の地位から追い落とします。その後に、警視庁での不審死とフリードマン氏の関連性が再調査されるよう、世論も含めて誘導します」
ユースティスは淡々と計画を述べた。
皆がそれぞれ、考えるような表情になる。
「並行して、犯人に動きがあるか、警視庁と保安局を監視します」
ユースティスがそこまで説明すると、ふいにティムが声を上げた。
「フリードマンって奴が犯人じゃないのか?」
「フリードマン氏も犯人です。しかし犯人は複数居ます」
ユースティスは普段とは違う丁寧な口調でティムに説明した。
「写真を見ての通り、トンプソン警部補はフリードマン氏と新世紀派との繋がりを突き止めていました。トンプソン警部補はフリードマン氏に知られないように、これらの証拠を提出しようとしたはずです。トンプソン警部補がこれらの証拠を提出した相手、あるいは相談した相手が別にいるはずです。その相手が、新世紀派にトンプソン警部補を売ったため、トンプソン警部補は殺害されたと見て間違いないかと」
それまで暗い顔をしていたティムの目に輝きが戻った。
「犯人は、フリードマンって奴より偉い奴だろ!」
「その可能性は高いと言えます。しかし難しい案件なだけに、誰かに相談した可能性もありますので、上司と決めつけるのはいささか早計かと。案件の性質上、その者は警視庁か保安局にいる可能性が高いかと思いますが……」
「警視庁でフリードマンより偉い奴は誰だ?!」
「警視総監補の上は警視総監です」
「じゃあ警視総監が犯人だろ!」
威勢良く言い放ったティムに、ユースティスは貼り付けたような笑顔を向けた。
「それを確かめるために、これから監視をつけるという話をしています」
「ダミアン君、ちょっと話がある。部屋に来てくれたまえ」
警視庁問題対策委員会での話し合いが終わり、魔道士たちの見送りを終えると、ティムは気取った口調でダミアンを呼び止めた。
「大事な話がある」
「おいティム、ダミアンは仕事があるんだ。あんまり迷惑かけるなよ」
従者のドリーがティムを窘めたが、ティムはしかつめらしい顔で反論した。
「大事な話なんだ」
ダミアンとドリーは目と目を見交わし合い、首を傾げつつもティムに従った。
「ダミアン、警視総監って奴について教えてくれ」
ダミアンを私室に招き入れるやいなや、ティムは必死の形相で言った。
「トンプソンに勝つには、もうそれしかないんだ!」
「え……? トンプソン警部補に?」
話が見えずにダミアンが戸惑っていると、横からドリーが口を挟んだ。
「ティム、トンプソン警部補と勝負する必要はないだろう。敵は警視庁だぞ」
「いや、これは俺とトンプソンとの勝負だ」
「何がしたいのかちゃんと説明しろよ」
ドリーのその質問に、ティムは一気にまくしたてた。
「このままじゃトンプソンに全部持っていかれちまう。警視庁の偉い奴の写真に、クソガキ王子より偉いタレイアン公爵の写真まで撮ってやがった。トンプソンに新聞の一面を取られちまう!」
ティムは悲愴な表情で頭を抱えた。
「俺はライバル写真家を発掘してしまった!」
「なるほど、解ったぞ」
ドリーは得たりと頷いた。
「トンプソン警部補が隠していた写真が、みんなを驚かせたから、写真家ティム・ウッドはそれに脅威を感じたわけだ。それでもっと凄い写真を撮りたいと」
「そそ」
ティムはドリーに雑な返事を返すと、必死の形相でダミアンにせがんだ。
「トンプソンに勝つには、警視総監って奴の凄い写真を撮るしかない。ダミアン、頼む! どこのどいつなのか教えてくれ!」
「そのくらいのこと、委員会でユースティス様に聞けば良かっただろう」
ドリーが半ば呆れたような顔でそう言うと、ティムは眉間に皺を刻んだ。
「あいつに聞くと説教もセットだから嫌なんだよ。余計なことするなとか、絶対に説教が始まるだろ」




