幕間の四 密談会議(後編)
『ペナルティ鬼ごっこ』の、最終的に鬼を保有していた者に対する罰。それが即死でなかっただけ、幸運ではあるが——
「なかなか、つらいね」
「……ええ。ですが、致命的ではありません。公には隠そうと思います」
HP半減。単純にして明快な、相当のハンデだ。しかも一時的なものではない。
この先モンスターや他の転移者、どちらと戦っても足枷となるだろう。
アンティルか、彼に鬼を譲渡された者も同様の措置を受けている可能性が高い。一応、レイブンとは別のペナルティを受けている可能性も否定はできないし、さらに言えばアンティルに鬼を渡したのはアレンだ。
アレンの『鬼』は、シンリのものと統合されていた。だからペナルティも二つ分……というのは、希望的と言うか、願望が混じっている推察だろうか。
「バベル攻略や指揮に支障がでないよう、か。建前はなんて言うのかな?」
「ユニークスキルの剥奪。そういうことにします、元々使いづらいスキルですし」
「へえ、いい嘘だ。むしろ好都合ってわけね、嫌らしいことを思いつく」
多くの転移者たちが最も頼るものはボーナスウェポンでも、クラススキルでも、増してや仲間でもない。
ユニークスキルだ。低消費のSPで戦況を覆す効果を現す、武器や見た目から読まれることがほとんどない、戦闘における命綱。
それの永久剥奪というのは、それなりにリアリティがある。
<エルピス>にブラフと疑われても、その疑念を事実と断定することは難しい。なぜなら知りうる限りで、というか九割九分、最終確定した鬼は二人だ。<エルピス>側の鬼のペナルティが同じくHP半減であっても、レイブンは別のペナルティとしてユニークスキルの剥奪が行われたとて、不思議ではないのだから。
そして隙を見せたところに、本当は健在のユニークスキルを叩きこんでやればいい。
「どうも、とっても嘘つきの先輩がいるので。口八丁を真似させてもらいました」
「……ハハ」
「ふふ」
くつくつと笑い合う。
ユウは、レイブンのユニークスキルを知っている。ユウに言わせれば使いづらいなんてとんでもない、むしろ汎用性に長けて恐ろしく強力な能力だったが——それを厭う気持ちもまた、理解できた。他者を踏みにじることを前提とした、犠牲を強いるような能力だ。
それでも敵に対してであれば、必要に迫られれば使うのだろうが。性質が気に食わないという理由で、普段は高火力のクラススキルである『閃光斬裂』に頼っている。
「……で。これから<ギルド>はどういう方針で行くんだい? 犠牲者が出てしまったのは残念だったけど、考えるべきことは多そうだよ」
「そう、ですね。足踏みはできません。……実はどうにも、気になっていることが一つあります」
「——イベントの開始時期」
「ええ。流石ですね、お見通しでしたか」
「いやあ、これに関しては町中が疑問に思ってるでしょ。そもそも予告自体早かったしねえ」
元々告知も開催も決まった日にちと時間ではなかったが、今回のゲーム内イベントは、告知開催どちらもも定例の傾向から約一週間ほど早かった。
こんなことは今までに一度たりともなかった。半年間、一度も。
異常だ。そしてこの異常がこれに留まらないという懸念。それを、いささか数を減らしてはしまったものの、<ギルド>の大人数を率いるレイブンは考えなくてはならない。
今回は一週間早かった。なら、次は? 二週間早いかもしれない。その次は三週間早いかもしれない。
要は、ゲーム内イベントの開催ペースが上がる可能性がある。そしてそれは死者の続出を意味する。
「バベル攻略を早めます。これまで安全を重視して、ゆっくりと進めてきたことが裏目に出た……! 現在攻略が済んでいるのは未だ四十三階層まで、頂上の百層目にはまだ折り返しですらない」
「まあ、裏目ったのは結果論だけど、急ぐべきだろうねえ。HPの半減した身で前に出るわけだ」
「どの道慎重に進めていましたから。今の階層であればこれでも問題はないはずです」
死を誘う、ゲーム内イベントのペースアップ。
それを危惧し、一刻も早くバベルを登りきることでゲームクリアを目指す。その必要があった。同時にユウの、バベル以外のエンディングを探すという役目も、これまで以上に停滞を許されない。
「だけど、その先は? まだ皮算用かもだけどさあ、八十とか九十に行けばHP半減した体じゃキツいでしょ」
「もちろん、危険は承知の上です。そしてその上で、<泰平騎士団>に——ジークさんに救援を求めます」
「! 攻略組と自警団、その枠組みを築いた当人が崩すと?」
「致し方ないでしょう。それに元々、ジークさんはもっと上層で手が足らなくなったらいつでも手伝うと申し出てくれていましたから……本当に勇敢なひとです」
そうか、とユウは息を吐き、浮きかかった腰をソファに沈め直した。同時に改めて意識する。
今回のイベントは本当に、多くのものを動かした。騎士団団長に直接助力を願うのはかなりの大事だ。騎士団側に反感を買われてもおかしくない。が、それでも戦力の増強にもっとも確かな手段なのは確かだ。
街は燃やされ、レイブンの最大HPは半減し、<ギルド>は<泰平騎士団>にバベル攻略の救援を求めることになり、イベントは開催がどんどんと早まっていく可能性がある。
(……動くなら今だ。それをレイブンもわかっている)
<エルピス>は残ってはいるが、半壊状態だ。アンティル、ローリエ、ストレインと首魁に幹部らしき者らは残っているが、全体で見れば半分は殺した。それに根城も追われ、しばらくは動けまい。
仮にイベントが早まるのなら、これからの数日間が千載一遇の機会かもしれない。
そして、今回のイベントで変わったのは町やギルドの情勢だけではない。
人の心もだ。
ユウは在り方を変質させた、させてしまった彼のことを想う。
この隙、イベント終了直後のこの時期中にユウは、未踏地域——南にあるダルナ山岳地帯の先を目指したいのだ。だが<ギルド>と急がねばならぬバベル攻略、<泰平騎士団>は街のことに加え<ギルド>に助力を求められる。
そこでアレンたちだ。少々危険な旅にはなるが、それでも<ギルド>の先鋭パーティにもそう引けは取らない。アレンはプレイヤースキルがどうかしているし、リーザも前衛をそつなくこなせて普通にスペックが高い。マシロは連れていくのに反対されるかもしれないが、ユニークスキルがかなり有用だ。
シンリは……まあ。留守番だろうか。
ともかく、この機を逃せない。
バベル以外のゲームクリアへつながる手立てがあるのなら、それを早く見つけなければ。ゲーム内イベントや<エルピス>に妨害をされる前に。
そう思い、アレンらに同行を頼もうと考えるユウだったが——彼は、まだ知らない。
アレンが今、とある事情から、なによりも優先度の高い目標が課せられてしまっていることを。
それについてユウが話を聞くのは、団長室での密談から翌日のことだった。




