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十四話


週末


俺は展示場にいた。


なるほどな。

一瞬、レイヤードのライブに連れて行かれるかと思ったが、そんなことはないらしい。


「それにしても、今日は何の展示会があるんだ?トモヤのことだからアイドルかエロゲ絡みかと思うんだけど。」


そう、驚くほどトモヤの趣味は偏っている。



「前から思ったけど、シンヤって失礼なヤツだな。まぁ、そういうツンデレなヤツは嫌いではないぜ。」


なぜだかトモヤは親指を立てる。



「いや、トモヤはツンデレという言葉を一度広辞苑で調べてみたほうがいいぜ。」

まぁ、広辞苑には載ってないけどな。



「まぁ、冗談だ。ほら着いたぜ。並ぶぞ」

トモヤの視線の先にはなが〜〜〜い行列があった。まるで京○銀行みたいだ。



「結局、これってなんの行列なんだよ?」

そう、完全にやっていることはミステリーツアーと変わらない。


「まぁ、並んでいれば分かるぜ。」


ドヤ顔がなんとなくムカつくのは俺の心がせまいからだろうか?それともトモヤがイケメンだからだろうか?



「今気付いたけど、これってまさかお一人様一点限りとかそんなのじゃないのか?」


そう、俺は行列ならび要員に駆り出されただけなのか?



「ははっ、んなわけねぇだろ?俺は親友を利用したりなんて死んでもしないからな。俺が面白いと思える事をシンヤと共有したかっただけだ。」


イケメンに真顔でそんな事を言われたら惚れ‥‥はしないけど、なんかコイツのこういう真っ直ぐなところはなんとなくズルイ気がするのは俺がひねくれているからなんだろうな。




「あぁ、案内表示も見えたし、疑って悪かったな。」


そう、握手会。

レイヤードの握手会だったのだ。



握手会ごときでこの混雑か?




「握手券が14枚。一枚約6秒だから84秒。24秒分お前にやるから話すこと考えておくんだぜ」

トモヤはドヤ顔だが何円つぎ込んだか聞くのが怖い。



「わかった。何話したら良いんだ?」



「思いの丈を話せば良いんだよ。ミサミサが好きなら自然と言葉は出てくるぜ。」

トモヤは簡単に言ってくれるが、そもそも前提から間違っている。



「悪い。別に好きでも嫌いでもないんだが。」

俺は呆れたようにつぶやく。



「そんな気持ちでどうする?俺がお手本を見せてやるよ」

ちょうどトモヤの番になったので俺は彼の頼もしい背中を見送るのだった。



「ちわー、ミサミサ、先週のライブ。朝の部はすごく気合い入ってたよね?」

トモヤは普段は出さない爽やかな声をだしながら手を差し出した。


ただでさえイケメンなのに、これは反則だろ?


「‥‥がと。」

ミサミサは手を握りながらボソッと答える。

やはり、コミュし‥‥大人しいのかもな。



「それなのに、夕方の部はどうしたのさ?何かあった?」

トモヤは続けて言葉を紡ぎ出す。

やはり場慣れしている。



「えっ‥‥‥‥」

しかし、ミサミサが絶句してしまった。



沈黙があたりを包みこむ。


‥‥‥?


‥‥‥‥?


‥‥‥‥‥?


何秒経っただろうか?



「はいっ、お時間でーす。」

警備の人がトモヤをミサミサから離した。



トモヤの様子を見てみると、トモヤは今からどこかに売られて行くような悲しい瞳をしていた。


完全に失敗じゃないか?



つ、次は俺の番か?

まさか、、俺もあんな目に合うのだろうか、、、


まぁ、トモヤが涙目になっている間にちゃんと話の流れは考えていた。


『こんにちは、ミサミサさん』←俺

『こんにちは。』←ミサミサ

『先週ライブ見ました。カッコよかったです』

↑俺

『ありがとう、応援してくれてたんだ?』

↑ミサミサ

『はい、これからも頑張って下さい』←俺

‥完璧だ。こんな流れで行こう。



自分で言うのもなんだが、自分から話題を提供したりするのは苦手だ。

受け身な性格だから、これくらいキッチリ考えて行った方がいいだろう。



俺はひと匙の勇気を握りしめてミサミサの前に歩み出る。


「こんにちは。」

俺は引きつった笑みを浮かべた。


「えっ、橋本君?来てくれたんだ?」

ミサミサにそう言われて、俺の笑顔か固まる。



「あっ、、あれ?」

なぜ俺の名前を知っているんだ?



「本当は私のファンだったんだ?全然そんな素振りなかったよね?」

いや、その前になんで話しかけてくるんだ?

当初の予定とは全然違う。



予想外の出来事で、一瞬頭が真っ白になってしまう。まるで、下着ドロ事件の時の秋山Pみたいだ。



しかし、俺は次の瞬間には再起動を始め、当初の予定通りの会話を頭に浮かべた。


「先週、ライ「私の何処が好き?」

そして俺が予定通り話そうとしたが、ミサミサに潰されてしまった。



「橋本君の好きなタイプは?」

「今日は1人で来たの?」

「橋本君の好きな食べ物教えて。」

ミサミサが更に畳み掛ける。


なんだが格ゲーでボコボコにコンボを決められているような気分になってくる。


「はいっ、お時間でーす。」

警備の人が俺を掴んで引き剥がしてくれたお陰で、なんとかトドメをさされずに済んだ。


そう、俺は虫の息だった。



「あっ、橋本くんっ、まだっ」

それが俺とミサミサが最後に交わした言葉だった。



「おいっ、橋本。何であんなにミサミサと話ししてるんだよ。というか名前呼ばれてたぞ」


終わったら早速トモヤに詰め寄られてしまう。

その際に首根っこを掴まれてしまったのはご愛嬌だ。



「いや、俺もよくわからない。というか質問考えてたのにあっちが一方的に喋って、全然俺が話せなかったな。」


『俺の努力を返してくれ』と言いたい。



「本当か?今までミサミサがあんなにファンに話しかけることなんてなかったぞ」

トモヤの目は俺がクロだと決めつけている警察の目だ。カツ丼とか頼んでいいかな?



「いや、そう言われても、まったく違う橋本くんと勘違いしたんだろ?それにしても」

そう、周りのファンから注目を集めている。

きっと、あのミサミサと仲よさそうにしていたからなのだろう。



舌打ちとか聞こえるんだが‥‥

しかも連打だ。


何も良い思いしてないのにヘイトだけガッツリ稼げちゃうとか誰得なんだろうな?


疎ましげにミサミサを見ると目があった。


なぜかファンと握手していないほうの手をブンブン振ってアピってくるのだが。もしかして、コンボを決めた後はキッチリトドメを刺さないと気が済まない性質『タチ』なのか?


そこら中に濃密にヘイトが充満していつ爆発してもおかしくない状況だ。


もちろん俺はまだ死にたくない。

だから、俺のとる行動は決まっていた。



「橋本くん。お前にミサミサが手を振ってくれているぞ」

俺は平然とトモヤを橋本くん呼ばわりした。

いわゆる生贄スケープゴートだ。



「えっ、おいっ。殺意で身が焼けそうなんだぜ。俺に擦りつけるのはやめるんだ。」

トモヤは必死に抵抗を試みるが、俺の決意はそんな事では揺るがない。



「ごめん、橋本くん。言ってることがわからないよ。早くミサミサに手を振り返してやれよ。」


俺はトモヤにそう言いながらスゥーっとこの場から逃げようとするが、


「くっそー、シンヤ。後で覚えてろよ。凛花ちゃんに言いつけてやる。」


トモヤがまさかの禁じ手を使った。

凛花にこれ以上呆れられるのはちょっとヤダ。



「橋本くん。凛花ちゃんって君のいい人なのか?ミサミサっていう大事な恋人が居ながら彼女以外にも仲のいい女の子がいるんだ?」


しかし、そんなことで手を緩める俺ではない。

俺はトモヤを容赦なく突き落とす。




「橋本、何言ってるんだぜ。さっきまでミサミサと仲が良いってさんざん自慢してただろ?もう、この際、俺だけ地獄行きじゃなかったらなんでもいいぜ」


トモヤは後半は周りに聞こえないよう声を落としていたが、完全に道連れにするつもりだ。




ファン達による橋本×2包囲網がだんだん出来上がっていく。


奴ら、不健康そうなクセになんで、軍隊並みに統制のとれた動きが出来るんだ?



しょうがない。

奥の手はなるべく使いたくはなかったがな。

使い時を誤ると奥の手は奥の手たり得ない。



いくぞっ。



「あっ、ミサミサが脱いでる」



俺の発言につられてファン達が一斉にミサミサに視線を注いだところで、一気に包囲網を抜けて走り抜けた。



もちろん、彼らの鬱憤ばらしにトモヤは置いてきた。




って、トモヤは俺と並走している。



「やるな、シンヤ、見直したぞ。」

咄嗟の機転に素直に感心してくれるのはありがたいが、トモヤを置き去りにしようとしたなんて言えない。



その後、トモヤに昼飯を奢ってもらい、罪悪感でご飯がのどを通らず、ご飯三杯しかお代わりできなかった‥‥


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