無表情はアナタです。
日曜日になり、待ち合わせ場所の近所のコンビニに向かう。沈黙のガマン大会にならなければいいんだけど。
ガマン大会の心配があるとはいえ、服は女の子らしくしてきたわよ。今日も慣れないけどスカート。それなりに、見栄ってもんがあるじゃない?
コンビニに着くと、もう原田君の車が到着している。近づいていくと、助手席の窓が開いて、原田君が覗き込むように言う。
「おはよう。」
「おはようございます。待ちました?」
「今、着いたところです。どうぞ。」
助手席のドアを開けて乗り込むと、すぐに車を発進させる。
「どこか、行きたい所はありますか?」
「いえ、特には。」
「じゃあ、水族館に行きませんか?」
「そうですね。」
よかった。行きたいところ考えていなかったから。水族館なら、なんとか耐えられそうだわ。
…しかし。水族館に着くまでの一時間弱、またしても沈黙。本当は私、そんなに物静かなタイプじゃないのに、何を話したら良いのかわからなくなっているの。
「あの、どうして誘ってくれたんですか?」
水族館に着いて、館内を歩き始めたとき、思い切って聞いてみた。
「いえ、その…。」
モゴモゴ言う原田君を見ていると、やっぱり顔を立てるために誘ってきたように思えてくる。今日までのお付き合いかも。
順路に従ってゆっくりと歩く間も一応並んで歩くけど、やはりまた無言。とりあえず見ながら進んでいくと、少し明るくて開けた場所に着いた。大きなガラスの向こうにたくさんのペンギンがいるのが見えた。
「あ。ペンギンのエリアに着いた!」
「ペンギン、好きですか?」
「はい。」
思わず声を出すと、原田君が微笑んだ。
ヨチヨチ歩いているコもいれば、水にすうっと飛び込んで陸地に上がるコもいる。飼育員さんに甘えているコもいる。かわいい!沈黙のガマン大会はつらいけど、ここだけは来てよかった~!
「ああ、やっと笑いましたね。」
ペンギンを見てはしゃいでいると、原田君が言った。
「え?」
「いや、その。ずっと無表情だったから。」
…あのう、ほぼ無表情なのはアナタですけど。もういい。この人は空気ということにしよう。せっかく来たんですもの。ペンギンを思う存分愛でて行くことにしよう。ああなんて可愛いのかしら。
「可愛かったなぁ~。」
ペンギンを見て、そのまま順路に従って見て回ってから出口を出たときに思わず声を出した。
「それは良かった。また来ましょう。」
…また?この人、ますますわからないわ。