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1「異世界召喚」

 気が付いた時、俺は見知らぬ場所にいた。


「え……?」


 先ほどまで、俺は大学に向かっていたはずだ。横断歩道で信号待ちをしていると、なぜか視界がぼやけた。数秒後、視界が戻るとそこに横断歩道はなく、あったのは石畳が敷き詰められた細い路地だった。


 両脇には、赤茶けたレンガ造りの建物が隙間なく並ぶ。頭上を見上げれば、電柱も電線もない。ただ青空だけが広がっていた。


「何だ……ここは」


 道を歩く人々の服装も、日本では見かけないものばかり。ローブ姿の老人、革鎧を身につけた男性、腰に剣を携えた女性、等々。


 映画の撮影か、テーマパークか。そんな考えが頭をよぎる。しかし、周囲を見渡してもカメラは一切無い上に、スタッフらしき人もいない。可能性は限りなく低いだろう。


 つまりこれは、すべて現実に起こっていること。作り物ではなく、全て本物。その瞬間、俺の脳裏に一つの可能性が浮かび上がった。


「異世界……召喚?」


 重度のアニメオタクでありライトノベルを読み漁った俺が、その可能性にたどり着くのに時間はかからなかった。


「まじかよ……」


 何度も妄想はした。ラノベの主人公のように異世界に召喚され、チート能力を授かり無双する。そんな妄想を。


 だが、現実に起こってみると不安で仕方がない。元の世界に帰ることはできるのか、どうやって生きて行けばいいのか。等々、今後のことを思案してしまう。


 妄想は、妄想のままだからいいのだ。叶えばいいってもんじゃない。


「とりあえず、歩くか」


 情報収集の意味も込めて、とりあえずその辺を歩いてみることにした。



※ ※ ※



 それから、小一時間ほどは歩いただろうか。歩き回っているうちに、いくつか気が付いたことがあった。まず、言葉は通じる。道を歩いている人に話しかけてみると、普通に会話ができた。どうやら、こちらの言葉を理解できるらしい。


「不幸中の幸いってやつか」


 だが、安堵したのも束の間。別の問題が見つかった。店先に並んでいる商品を見てみると、そこに書かれている文字がまったく読めない。見たことのない文字だ。看板も、値札も、何が書いてあるのかさっぱり分からない。


「おいおい、困ったぞ……」


 会話はできる。なのに、文字は読めない。そのことに気が付いてからは、街を歩くのが少し不安になった。この世界について知ろうにも、看板や掲示物を読めなければ情報を集めることができない。


「金も使えないよなぁ……」


 ポケットから財布を取り出し、中身を確認する。千円札と小銭。この世界で使えるとは思えない。スマートフォンもある。当然ながら圏外なので、ただの板と化しているが。


 持っていたカバンの中には、教科書やノート、筆記用具のみ。勉強している場合じゃないので、これも役立たず。つまり、持ち物は何も役に立たないということだ。


「……詰んでねえか、これ」


 無知蒙昧、無一文、そして文盲。状況としては最悪にも程がある。だが、嘆いていても何も始まらない。とりあえず、この世界についてもっと知らなければ。


 そう考え、とにかく人の多い場所を再び歩き続けた。歩いて、歩いて、歩き続け……いつの間にか大通りから外れてしまっていたことに気が付く。


「……あれ?」


 人通りがほとんどない。目の前には、建物の間を縫うように続く細い路地が続いていた。


「こっち……じゃないよな」


 引き返そうと思った、その時。


「ねえ、お兄さん」


 声が聞こえたので、目をやる。視線の先には、数人の少女が立っていた。

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