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第三十八話
翌朝、一日の始まりを告げる鐘の音と共に虎千代は飛騨に出立した。
見送りに出た光育に、段蔵は深々と笠をかぶったまま軽く会釈だけすると、一言も言葉を交わすことなく踵を返した。
「よいか虎千代、鬼斬り丸の眩惑に……」
旅支度をした虎千代が出発する直前まで光育は虎千代に鬼斬り丸の攻略法を口酸っぱく言い含める。
「はい、はい、光育様。もうわかったから。大丈夫だから。安心して酒饅頭でも食べて待っていてくださいよ。必ず鬼斬り丸を持って帰ってくるからさ」
虎千代は軽い口調で言うと、先を歩く段蔵の背を追った。
光育は朝日に向かい歩を進める虎千代の背に、冥福を祈るように、数珠を這わせた手を合わせた。
「御仏のご加護が有らんことを」
光育が唱える経が周囲を包む山塊に響き渡った。




