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第87話 触れるな!危険!王都の女子会!


前回のお話

 インウィデア グリトのところ 来て 言った 「これ喰え」

 

「ぐぐぐ……悪いもんでも喰ったかの……」


 狩りの期間の仮住まいとした洞穴の中で、グリトは酷い腹痛に苦しんでいた。その理由は推測がつく。インウィデアが持参した金属塊を彼が勧めるままに喰らったからだろう。ギリギリと腹が痛む。こんなことは初めてだった。


 ドワーフにして七極(セプテム)のグリトは、その小さい身体に宿った能力により、あらゆるものを「喰らう」ことが出来た。これまでにも、1滴で数万人を殺せる猛毒を持つ魔物や、街一つの住民を呪い殺すような大悪霊をも「喰って」きており、何ともなかったのだ。しかも、グリトは喰った対象の能力やエネルギーを貯めておき、ここぞと言う時に解放して、自身に宿すことができる。かつての大戦時には、その力を解放し、大巨人と化して恐れられたものだ。様々な魔物の長所を併せ持った大巨人が七日七晩暴れまわり、敵対勢力に多大なる損害を与えた。


「ぬぬぬ、わしの腹に消化できぬモノなどあるはずない!!」


 グリトは自身の能力に絶対の自信を持っている。あらゆるモノを喰い、その力を得る。それが七極(セプテム)の一角、大巨人グラ・グリトであるのだ。その自信ゆえに、インウィデアが喰えと言ってきた金属塊を気にせずに飲み込んだ。決してインウィデアを疑わなかったわけではない。どういう思惑があろうと、グリトが消化してしまえば、関係ないはずだったのだ。


「ぬぐぐぐぐぐ」


 だが、グリトの喰った何かは、確実に彼を蝕んでいる。唸り続けるグリトの腹の中で、何かが起こっているのは間違いなかった。インウィデアは既に立ち去り、問い質すこともできない。暗い洞穴の中で、彼の身体は少しずつ膨れ上がっていき、その身体からは醜悪な瘴気が漏れ出ていた。



 ************************



「ユキトとアウリティアさんって仲良いわよね」


「同郷って仰ってましたね。そんな偶然もありますのね」


 ここは王都の中でも人気の喫茶店だ。落ち着いた店内にある丸い木製テーブルに、サブシアからやってきた女性3人が座っている。ファウナとフローラとストレィだ。3人とも、格好は旅用の冒険者装備ではあるが、その繕いの丁寧さなどを見るに、下級冒険者には手の出ない高級品であることは明らかである。サブシアは儲かっているのだ。


 なお、ここでイーラは別行動である。遠慮したのか、勝手気ままにショッピングでも楽しみたいのかは不明だ。見た目は幼女だが、七極(セプテム)の一人であるし、危険はないだろう。そんなわけで、3人は喫茶店で王都流行りのハーブティーを楽しみながら、ガールズトークを繰り広げていた。


「エルフが紙の製法を知っていたのもそういう理由だったのね」


「お二人の知識を合わせたら、さらに凄いことになりそうですわ」


「でもぉ、あの2人って仲良すぎじゃない? 聞いた話だと男性同士の恋愛ってのもあるらしいわよぉ」


 しばらく続いていたファウナとフローラの平和なトークだが、そこにストレィは爆弾を投げ込んだ。教会の司祭をしていた彼女は、遠い国の様々な文化を見聞きする機会もある。男性同士の恋愛もその知識の1つだ。


「な、ななな……なんば言いよると!?」


「ええっ、何ですか!そ、その不道徳な概念は!」


 ファウナもフローラも初耳だったのか、目を見開いて、ストレィの方を見る。特にファウナはあまりの衝撃にそのまま固まってしまった。思ったより2人の反応が良かったことに気を良くしたストレィは、そのまま続きを話す。


「聞いた話よぉ? 世界には男性同士の恋愛を認める文化もあるらしいわよ? そもそもユキトくんもアウリティアさんも異世界出身なんだから、全く違う文化だとしても、おかしくはないんじゃないかしらぁ」


 もちろん、この世界(ディオネイア)の教会は、同性愛を認めていない。だが、ユキトが異世界出身の『まろうど』となると文化が全く違ってもおかしくはない。理屈は通っている。


「まままま、まさか、そげんことなかやろ……」


「ファウナさん、口調が……」


 完全に動揺しているファウナをフローラがフォローしているが、そのフローラも平静ではなさそうだ。


(あら? 意外と動揺が大きいわねぇ)


 焚きつけたストレィ本人は、異世界でようやく会えた同郷の友人なのだから、ユキトとアウリティア程度の交流は普通だろうと思っている。ユキトもこちらの世界に単独で迷い込んたわけであるし、アウリティアに至っては600年ぶりというではないか。


(そもそも、あの2人のやり取りって、恋人同士ではなく、悪友同士のそれだものね)


 ストレィはそう思っているが、あえて口には出さない。ファウナとフローラが動揺しているのが面白いからだ。特にファウナは男性同士の恋愛という新たな価値観に触れて、完全にキャパオーバーしている。


「ど、どげんするよ!? どげんするよ!?」


 何をどうするつもりかも不明だが、とにかくファウナが慌てているのは確かだ。


 だが、女性が慌てているのを「隙」と見做す男というのが一定数は存在する。ここ王都でも例外ではなかったようで、慌てているファウナの背後に人影が立った。


「どうした? お嬢さん。何か困り事かい?」


 声を変えてきたのは、ファウナ達と同じく冒険者風の男だった。20代に見える若い外見だが、装備を見る限り、そこそこにやり手だろう。C級程度の実力はあるかもしれない。優男風ではあるが、視線がストレィの胸に向いているところを見るに、好色の類だろう。


 ストレィは男と目を合わせないようにして、拒否の意を示す。


「特に困ってないわ。またね」


 だが、その程度でめげるような男であれば、初めから知らない女性に声をかけるはずもない。


「おいおい、邪剣にするなよ。これでもC級冒険者『疾風のハンス』って頼りにされてるんだぜ?」


 男は聞かれてもいない名乗りを上げた。女性によってはC級の冒険者と聞いた時点で、興味を惹かれるものもいるかもしれない。強い男を好む女性は多いのである。目の前のハーブティーが入ったカップを眺めながら、そんなことをストレィは思う。


 もっとも、ユキトにせよ、ファウナにせよ、フローラにせよ、C級の冒険者が束になっても敵わない相手だ。フローラの場合は、1兆度の火炎球(ファイアボール)がオーバーキルどころの騒ぎではないので、ナンパを撃退するには使えないのが困るところだが。


「男にでも振られたかい? もしそうならこのハンスが……」


 ハンスはファウナの背後からキザな口調で語りかける。だが、その単語はチョイスを間違えたわねとストレィは内心で溜息をついた。この場において、振った振られたなどの単語は、第3者が軽く口にするには些かデリカシーに欠ける言葉である。


「ふ、振られたりとかしとらんけんね!!! 男になんか負けんけん!!」


 案の定、ファウナには刺激が強すぎる言葉だったようで、彼女は立ちあがってムキになって反論した。実にわかりやすい反応である。エルフのとんがり耳が先端まで赤い。


「おお! 君、美人だね! 話を聞こうじゃないか。どうしたんだい?」


 振り返ったファウナの顔を見て、ハンスはテンションを上げた。残念なところも多いファウナだが、その外見は金髪の美女エルフであるのだ。


「おや、なんぞトラブルかのぅ」


 面倒なことになりそうだからとストレィが昏倒効果のあるスプレーを取り出そうとした時、3人と1人に向かって声がかけられた。ストレィ達が良く知る人物の声だ。ストレィは内心でニヤリと笑う。


「あら、七極(セプテム)のイーラさん。おひとりで観光じゃなかったのぉ?」


 ストレィはあえて、七極(セプテム)という言葉を口にする。この言葉によって、店内中からギョッとするような視線がこちらに集まった。


「うむ、買い物の途中に喉を潤そうと、この喫茶店に立ち寄ったまでじゃ。で、どうしたのじゃ? (わらわ)を退けるほどの実力があるお主らがトラブルに巻き込まれるはずもないじゃろうが……」


 イーラもストレィの意図を酌んで、あえてそのような物言いをしているようだ。その証拠に彼女もニヤニヤと悪戯めいた笑みを浮かべている。店内にざわめきが広がっていく。


「い、イーラ様……」


「あの方が七極(セプテム)の? 見た目は幼いのに……」


「イーラ様を退けたってことは、あの方達がシジョウ様のお仲間の方かしら」


「確か、A級のファウナ様とフローラ様だったか」


 店内でこそこそと会話がなされる。シジョウ卿がイーラを撃退して、和睦した話は王都内に公布されているのだ。世界最強と目される七極(セプテム)を退けたということで、王都でも大評判だったのである。


「あのハンスってやつ死んだな」


「可哀そうに……」


 ハンスがファウナ達に絡んでいるところを見ていた他の客らは、既に視線を戻して、ハンスの冥福を祈るポーズである。胸元で神への法印をきっている者までいる。


「あ、いや……あの、大変失礼をいたし……」


 ハンスからは滝のような汗が流れ出ている。あの時のハンスの表情は実に傑作だったとストレィは後に語った。


ここまで読んで頂きありがとうございます。忙しい時期ですが可能な限り更新していきますので、よろしくお願い申し上げます。


ブクマ、評価、ありがとうございます。励みになります。また、本作のレビューも頂戴することができました。感謝で小躍りしております。ありがとうございます。


今後とも、どうぞよろしくお願いします。

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