力を求める者(笑)
そんなこんなで俺は東を目指して歩いていた。
木の根元や影、太陽の位置を頼りに進路を確認。偶に木に登って方角を確かめるんだけど、そのたび近くの鳥が一斉に飛び立つのは何なん? 俺、そんな怖いの?
途中で立派な角を持った熊を見つけて、おお、異世界産魔物! と興奮したら、目が合った瞬間にひっくり返って気絶。え? 俺何かした? ただ見ただけよ?
さらには遠巻きに見てた巨大狼に手を振ったら全力疾走で逃げるし、小鬼の群れはチラチラ振り返りながら走り去っていく。……なんだこれ、師走か? 何でみんなそんなに急いでんの。
気づいたら、俺だけ妙に避けられてる気がする。……いやいや、まさかな。ドラゴン撃退(?)の影響? だとしても、俺、ほぼ何もしてないぞ? 街で誰かに聞けば分かるかもな。
そんなことを考えながら進んでいた矢先。
「汝、力を求める者か?」
「んぁ」
唐突に声をかけられた。振り返ると、そこには黒い巨体に金色の鬣――雑な麒麟みたいな生き物がいた。
……いや、何だこれ。見た目が雑。劇画タッチの漫画から抜け出してきた本物の麒麟を100とすると、こいつは児童向け絵本の10くらい。いや、それをさらに雑に描き直した感じ。情報量が足りない。なのに、確かに立体。不思議。脳がバグる。
「汝、力を求める者か?」
また聞いてきた。今度は顔を近づけてながら。近い。それは純然たる事実として存在するのに、情報量が少ないせいで遠目なのか近いのか分かりずらい。感覚おかしくなるからやめろ。怖いって。
「……求めてなぁい」
とりあえず顔を押しのけて距離を取る。おお、本当に触れるんだ。見た目からは想像出来ないくらいしっかり鱗を触ってる感覚がある。不思議だぁ…。
「力を求める者ではないのか?」
「人違いですぅ」
俺がそう返すと、麒麟もどきは怪訝そうにしつつも、「そうか……失礼した」と言って去っていった。最後に「力を求めし者が現れたら、彼方に向かうよう伝えよ」と、来た道を前足で指し示して。
……いや何なのマジで。存在そのものが矛盾。輪郭はのぺっとしてるのに、冷たくて硬い。重そうなのに軽そう。立体なのに二次元感ある。説明不能。属性:混沌。
「む?」
「ん?」
考え込んでたら、正面からまたそいつが歩いてきた。君さっき西に行ったよね? なんで目の前から再登場? ワープ? テレポ? 仕様バグ?
マジで本当に意味が分かりません。
「やはり汝が力を求める者だな」
「いやいやいや。違うって。絶対俺じゃない」
我が意を得たりとでも言いたげにニヤリと笑って断定してくる麒麟もどきに、俺はNOを叩きつけた。私はNOと言える日本人。
てかお前その情報量の少なさで表情分かるのなんなん?
「しかし資格を持つ者は汝のみのようだが?」
「資格試験受けた覚えはございません」
「汝ならば我が力を十全に扱えるようだが?」
「そうだとしても望んでません」
質問攻めに全部NOで返す俺。麒麟もどきは困った顔で考え込む。やめろ、その「お前しかいない」みたいな王道展開やめろ。俺はまだチュートリアル終わったかどうかも怪しいんだから。
「……まだ刻ではないということか」
「絶対“刻”って書いて“とき”って読んだよな?」
厨二センサーが反応した。黒炎とか氷の力とか出してくるやつだろこれ。ちなみに俺は黒炎派。
「では資格者よ。汝が力を求めし刻は、我を喚ぶが良い」
「あ、はい。スルーですか。分かりました」
渾身のツッコミを華麗にスルーして去っていく麒麟もどき。嫌いじゃないぜ。俺もベターな選択を選ぶ。
「……じゃあ、さようなら」
深追いする気はゼロ。よく分からんものに深入りはしない方が吉。
……んでも、何故かこいつ結構な頻度で関わってくる気がするんだよなぁ。
でもそれは考えても仕方ない気がするので、とりあえず街を目指して再び歩き出す俺であった。




