落下、即バトル
そんな訳で俺の新たな人生、異世界転生編がちゃっかり幕を上げた訳なんだけど……。
現在、転生開始5秒。
視界に広がるは、広大な青空。
全身には重力をコレでもかと言わんばかりに感じてるなう。
今ね、俺ね、地上数千mからのスカイダイビング中。パラシュート?無いんだなぁ……これが。
異世界転生のオープニングイベントがこれとか聞いてない。新章開始と同時に死神との再戦は嫌がらせじゃない?
「普通こういうのはもっとソフト着陸的にやろうぜ部長しぃぃぃぃぃぃぃん!」
絶叫しつつも、恐怖が限界を超えると逆に妙な冷静さが出てくる不思議。
ふと視線を上げれば、雲海の向こうに小さな影。
豆粒ほどの黒い点が、ゆっくりと羽ばたいていた。
鳥かなぁと思ってそれに意識を集中する。
いや待って……あれ、翼の形が鳥じゃないわ。どう見ても……ドラゴンじゃん。
空を悠々と泳ぐその姿を見て、俺はようやく確信した。
「あー……ガチで異世界来ちゃったなぁ俺」
現実感と非現実感が交錯して、脳みそがバグりそう。
だが次の瞬間、再び重力が意識をさらった訳ですが。いや情緒。もうちょっと異世界感を堪能させてくれない?
リターンマッチはお預けにしてもろて。
仕方ないので、この展開に対処する為、俺は魔法を発動した。
呼吸でマナを取り込んで循環。体内のオドと結合させて魔法の元を作ってから……はい、言霊。
『浮遊』
風属性の強化魔法を発動。そう、皆様、これが魔法でございます。いっつふぁんたじー。おーいえー。
ふわり。魔法の効果で体が軽くなる。落下速度を落として、視界の下にあった森の空き地に着地を目指す。
着地の間際、空中三回転から逆回転捻りを加えて華麗に着地。よし、演技は満点。審査員が居たら確実にスタオベよ。
……そう思った瞬間。
「ガルルルルル……」
唸り声が聞こえて来た。
SE間違ってます。ここは観客の歓声な筈だが?
と、声のした方向を見る。近くの木陰にいたのは、全長三メートル級の緑色のドラゴンでした。金色の瞳が、あーしを見事にロックオン。
俺、これ分かる。喧嘩売ってる目だ。やってやんぜマジ卍って言ってる。いや、買わんよ?買う理由ないよね?
「えーと……こんにちは?ご近所の者です」
「ギャオオオオオオ!」
せめて交友的にと思ってご挨拶をしたら、返って来たのは爆音咆哮。耳キーンです。会話通じねえ。まあ、そうだろうさ。
ドラゴンさんは臨戦態勢に入り、翼広げて突撃準備。はい死亡フラグ点灯。
逃げる?背中見せた瞬間に串刺しコースだってそんなん。つまりこの喧嘩買うしかないってことですねちくせう。高い買い物だって知らしめるしかない。
俺は続けて魔法を発動した。
『盤石之固』
はいこちら、土属性の強化魔法になります。めっちゃ身体が硬くなります。新幹線が正面衝突しても余裕です。
「ギュアアアアアア!」
次の瞬間、ドラゴンのぶちかまし発動。大気を割る轟音。凄えぞこれ、どっばきゃーんって感じだった。
しかし、あたいの身体は無傷。逆にドラゴンの前脚の爪はバキバキ、鱗も剥がれてボロボロになってた。しかも突進の威力が高過ぎたせいか、気絶してるオマケ付き。
俺の勝ち?いや、なんもしてないのですが。
「……ご愁傷さまです?」
ちょっと不憫に思ったので、合掌。
止めを刺すのは後味悪いのでパス。でも、折れた爪と鱗は回収したけどさ。
ファンタジーの定番、ドラゴン素材は高額って話だからさ、仕方ないよね。ポーチへポイしとこ。
「ふぅ……」
それから、息を整えて空を見上げる。
なんか開幕から色々合ったけど、多分これで落ち着いて行動が出来ると思う。
とりあえず街を目指そうかなぁ。
さっき上空から東の方角に大きな街っぽい影を見たんだよね。
木の影と太陽の位置を頼りに進むとしよう。
「よし……異世界生活、一歩目スタートだね」
背後でまだ呻くドラゴンを横目に、俺は東へ歩き出した。
心臓バクバク言ってるけど、同時に妙な高揚感もあった。
次は、どんな出会いが待ってるのか。
期待に胸を高まらせながら進む。
ついでにどことなく空を眺めながら、返って来る筈もない問いかけを投げてみる。
「詫び転生って聞いてたんだけど、オープニングこれってマ?」
ふざけんな詫び石はよ。
——2026.06.22——
本文の大幅な改訂を行いました。
この改訂による大筋の変化はありません。




