神様の言い訳
いきなりだけど、異世界に転生することになった。
————うん。その疑問は至極もっともだ。
何が何やら。徹頭徹尾、これっぽっちも。頭からつま先まで、何一つ理解出来ないだろう。
分かる。とっても分かる。大いに分かる。
俺自身も、説明できるもんならしたい所存なんですけどね……残念ながら無理筋。だって俺だって何一つ理解してねぇんだもん。訳分からん通り過ぎて訳わかめよ。
「……うん。そうだね。ちゃんと説明するから、落ち着いてくれるかな?」
「ちょっと待って。情報処理に時間が掛かるっぽい」
「分かった。いくらでも掛けてくれて構わないよ」
「おん。多分これ、脳内OSを異世界転生verに更新した方が早い」
「そんな事出来るのかい?」
「やってやれぬことはなし。なさねばならぬなにごとも」
「人類の進化の可能性は無限大だね」
「人類に対する期待度の高さが染み渡るぜ」
──とまあ、ボケとツッコミの立場が迷子なやり取りを交わしつつ、俺は頭を抱えていた。
そう。唐突に、マジで唐突に、異世界転生の宣告を受けてしまったからである。
その日は、高校バレーボール全国大会の決勝戦の日。
俺、高瀬翼はレギュラーとして出場予定だった。……はずだった。
だが、予定より早く起きた俺は、気分を整えるためランニングに出掛けてトラックに轢かれてグッバイ今世。享年16。
そんで気が付いたら、白一色の空間にいた。白い机、白い椅子。そして、対面に座る金髪碧眼の長身男前。しかもやたら爽やかな笑み付き。
「初めまして。私は神だ」
──自称神様、爆誕。
まじですかい。
そして開口一番。
「君には異世界に転生してもらうことになった」
おいよい。説明不足にも程があるでしょ。コレは聞かねばならねぇ。
「Why?」
「……うちの上司のミスをもみ消す為だね」
「おいよいちょいよいおい」
あまりの答えに、思わず古典的なツッコミが口を突く。
この瞬間、俺は理解した。
そう、この男は「課長神」。そして誤発注をやらかした元凶が「部長神」。
部長神やべーやつじゃん怖ぁ……。
社会経験の不足を理由に東京都ビル群をケタケタ笑いながら爆発させるタイプだって。
飲み会で隣の席とかになりたくないなぁ……。
やっぱり訳が分からなかったので詳しく話を聞くと、課長神いわく。
部長神様が、勤務中にゲームをしていて。
気もそぞろなまま「死神への魂の回収依頼」を出した結果。
本来呼ばれるはずだった「高瀬翠」という女性と、名前が似てた俺が誤って選ばれたらしい。
「字面ニアピンで人生終了列車直行とかマジ乗車拒否案件じゃん」
俺は頭を抱えたくなった。いや、文字通り抱えた。
このまま泣き出したろかい。わんわんと大声でさ。
「悪いのは全面的にこちらだ。許せるはずもないだろう。本来なら生き返らせるべきなんだけど……君の魂はすでに死神に回収され、輪廻から外れてしまった」
「外れるとどうなるの?」
「このまま現世に戻すと、因果律が狂って人類が滅亡する」
「なんで規模がいきなり地球規模なん」
「酷い場合は太陽爆発。発生日は君が蘇った日から一年後」
「世界の滅亡待ったなし」
心の底から声が出た。笑えない。
課長神は続ける。
「最も丸く収める方法は、君の魂を消滅させることだ。でも、それはあまりにも不誠実だと思う。だから提案したい。──異世界に転生して、そこで自由に生きてもらえないか」
「つまり謝罪と埋め合わせで異世界転生コース?」
「そうなるね」
俺は背もたれに寄りかかり、天を仰ぐ。
正直、心の準備は追いつかない。だが、誠意を尽くそうとしてるのは伝わる。そもそもの元凶のくせに顔も出しやがらねえ部長神と違って。
「……わーった。じゃあ、そっちで努力するよ」
「ありがとう。本当に助かるよ」
課長神が、心底安堵したように微笑んだ。
その瞬間、俺の新しい人生──異世界生活の幕が、強制的に開いたのであった。
誤発注とかいうアホみたいな理由で。




