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第12話:次元監視官、新たな脅威に立ち向かう

(次元監視官…責任重大な役目だけれど、私はこれまでの全ての経験を活かして役目を果たさなければ)


王宮の新設された「次元監視局」の窓から、レイナは王都の景色を眺めていた。マグナスとの決戦から一ヶ月が経ち、街は平穏を取り戻しつつあった。しかし、表面的な平和の下には、まだ解決されていない問題が潜んでいた。


「報告書の準備ができたよ」


シンジ・カイトが書類の束を手に、オフィスに入ってきた。彼もまた、レイナと共に次元監視官に任命されていた。


「ありがとう」


レイナが書類を受け取る。それは行方不明の転生者たちに関する調査結果だった。


「十三名が特定されたけれど、実際に居場所がわかっているのは三名だけ」


シンジが地図を広げ、印のついた場所を指差す。


「東の港町に一人、南の山岳地帯に一人、そして西の国境付近に一人」


「ダリウス・レイヴンの行方は?」


「まだ不明」シンジが首を振る。「マグナスの右腕として最も危険な人物なのに…」


その時、ドアがノックされ、セバスチャンが入ってきた。彼は次元監視局と真実の天秤の連絡役を務めていた。


「重大な情報です」


セバスチャンの表情は緊張していた。


「古代遺跡で異変が発生しました」


「古代遺跡?」


「北の森の奥にある**『迷いの神殿』**です。魔法の光が突然強まり、周辺の村で異常現象が起きているとの報告が」


レイナとシンジが視線を交わす。


「行きましょう」


北の森、迷いの神殿への道


厚い木々に覆われた北の森は、昼でも薄暗く、神秘的な雰囲気に包まれていた。レイナ、シンジ、セバスチャン、そして魔法専門家としてエヴァも同行していた。


「この神殿、何か情報はありますか?」


馬車で揺られながら、レイナが尋ねる。


「『迷いの神殿』は王国最古の遺跡の一つとされています」


エヴァが古い書物を開きながら説明する。


「建国以前からある建造物で、誰がいつ建てたのかさえわかっていない。ただ、次元間の壁が薄い場所と言われていて、時折奇妙な現象が起きるそうです」


「次元間の壁?」


「異世界との境界のことね」エヴァが続ける。「場所によっては、他の世界との距離が近くなっている場所があるわ。特に魔力の集中する地点では」


「転生者と関係があるかもしれませんね」レイナが推測する。


「可能性はあるわ。私たちの魂は他の世界から来ているのだから」


シンジが窓の外を見つめる。


「それにしても…この森には不思議な力を感じる」


レイナも同様の感覚を抱いていた。森全体が微かに脈動し、魔力が渦巻いているような印象だった。


「到着しました」


馬車が止まり、一行は降り立った。目の前には、巨大な石造りの神殿が聳えていた。緑の蔦が絡まり、時を経た風格が漂っている。


「村の報告によると」セバスチャンが情報を確認する。「三日前から神殿が青く光り始め、周辺では時間の流れが不安定になっているとのこと。若返る老人、一瞬で成長する植物など」


「時間軸の歪み…」


シンジが眉をひそめる。


「次元の境界が揺らいでいる証拠だ」


神殿の入り口に立つと、中から確かに青い光が漏れていた。そして、不思議な音楽のような、機械音のような音が聞こえる。


「用心して」


レイナが前に出る。


「何が待っているかわからない」


迷いの神殿、内部


内部は予想以上に広大で、天井は見上げても見えないほど高かった。中央には巨大な円形の台座があり、そこから青い光の柱が天井に向かって伸びていた。


「これは…」


エヴァが息を呑む。


「次元の門!」


光の柱の周りには、複雑な魔法陣が描かれ、その上に見覚えのある機械装置が設置されていた。


「あれは新世界創造計画の技術ね」


レイナが指摘する。


「魔法と科学の融合技術…彼らが何かを試みている」


「誰かがいる!」


セバスチャンが光の柱の向こう側を指差す。


影のような人影が複数、作業をしている様子だった。


「近づいてみましょう」


慎重に接近すると、三名の人物が魔法装置を操作していることがわかった。その中の一人は…


「ダリウス・レイヴン!」


シンジが声を上げる。


黒髪の男が振り返る。確かに、マグナスの右腕だったダリウス・レイヴンだった。


「やはり来たか…転生者たちよ」


彼の声は冷静だった。


「何をしているんです?」


レイナが問いかける。


「主人の救出だ」


ダリウスが光の柱を見上げる。


「マグナス様は異次元に閉じ込められた。だが、この門があれば…」


「狂気の沙汰です!」


シンジが叫ぶ。


「次元の門を開けば、この世界の安定性が崩れる!」


「犠牲は必要だ」


ダリウスの目に狂気の色が浮かぶ。


「新世界の創造には、古い秩序の破壊が必要なのだ」


彼の背後の二人も前に出てくる。一人は白髪の老科学者のような風貌、もう一人は若い女性だった。


「紹介しよう」ダリウスが言う。「アルフレッド・テスラ博士とマヤ・クロノスだ。彼らも主人に忠誠を誓う転生者たち」


「あなたたちが何をしているのかわかっていません」


レイナが説得を試みる。


「次元の壁を破れば、両方の世界に甚大な被害が出るはずです」


「それがどうした」


テスラ博士が冷淡に答える。


「我々は科学と魔法の完全なる融合を目指している。次元の壁など、乗り越えるべき障害に過ぎない」


マヤ・クロノスが付け加える。


「時間と空間は、操作可能な要素。恐れることはない」


光の柱が強まり、神殿全体が震動し始める。


「止めなければ!」


シンジが叫ぶ。


エヴァが魔法の詠唱を始め、セバスチャンが剣を抜く。


「行くぞ!」


戦闘が始まった。


ダリウスは強力な魔法を操り、テスラ博士は科学兵器のような装置を使用。マヤ・クロノスの能力は最も厄介で、時間を局所的に操作し、動きを遅くしたり早めたりした。


「手強いわね!」


エヴァが防御魔法を展開する。


「でも、私たちにも秘密兵器がある」


レイナとシンジが互いに目配せする。二人が手を取り合うと、アリシアとセオドアの力が共鳴し、白と青の光が渦を巻いた。


「転生者の共鳴…!」


ダリウスが驚愕する。


光が周囲に広がり、敵の魔法と科学装置を一時的に無効化する。


「今です!」


レイナとシンジが次元門に向かって駆け出す。


「止めろ!」


ダリウスが叫ぶが、二人は既に光の柱に到達していた。


「どうすれば?」


「門の核心部に、私たちの力を」


二人が光の柱に手をかざすと、不思議なことが起きた。光の柱が二人を包み込み、レイナとシンジの意識が引き込まれていく。


次元の狭間


レイナとシンジが目を開くと、そこはどこでもないような、どこでもあるような不思議な空間だった。青と白の光が交錯し、遠くに無数の星のような光点が見える。


「ここは…次元の狭間?」


レイナがつぶやく。


「そうだ」


振り返ると、見覚えのある姿があった。アリシア・ヴェルディとセオドア・ライトブリンガーの霊体だった。


「アリシア!」


「セオドア!」


二人が驚きの声を上げる。


「私たちはまだ完全に消えたわけではない」


アリシアの声が響く。


「魂の一部は転生者であるあなたたちの中に、一部は次元の狭間に」


「ここはあらゆる次元が交差する場所」


セオドアが説明する。


「そして、マグナスが目指していたのは、この狭間の力を支配すること」


「彼はどこに?」


シンジが尋ねる。


「封印されている」アリシアが答える。「あなたたちの力で」


「でも、ダリウスたちが開こうとしている次元の門が完成すれば…」


「解放される可能性がある」セオドアが厳しい表情で言う。


「ならば、門を閉じなければ」


レイナが決意を示す。


「方法は?」


「次元の核心を安定させる必要がある」


アリシアがある方向を指差す。そこには、渦巻くエネルギーの中心に、ひとつの水晶のような物体が浮かんでいた。


「あれが次元の核…門の源だ」


「でも、あそこまでどうやって?」


「私たちの残りの力を使って」


アリシアとセオドアが手を差し伸べる。


「最後の援助だ」


四人が手をつなぐと、エネルギーが循環し、レイナとシンジは核心に向かって浮遊し始めた。


「行って」


アリシアが微笑む。


「これが私たちの最後の別れになるでしょう」


「アリシア…」


「心配するな」セオドアが力強く言う。「君たちは私たちの意志を継ぐ者だ。だが、これからは自分たちの道を歩め」


二人が核心に近づくにつれ、アリシアとセオドアの姿は薄れていく。


「さようなら…そして、ありがとう」


彼らの声が消えていった。


次元の核心


青く輝く水晶のような核心に、レイナとシンジは手をかざした。


「感じる?この力」


シンジが言う。


「ええ。想像を超える膨大な力…」


レイナは核心を通して、無数の世界を垣間見る感覚を覚えた。彼女の前世の世界、そして他の数え切れない世界。


「この門を安定させるには…私たちの力を注ぎ込むしかないわね」


「そうだな。でも、全ての力を使えば、私たちは…」


「普通の人間に戻る」


二人は覚悟を決めた。転生者としての特別な力を手放す覚悟を。


「始めましょう」


レイナとシンジが核心に触れると、激しい光が広がり、彼らの体から転生の力が核心に流れ込んでいく。記憶は残るが、特別な力は失われていく感覚。


核心が安定し始め、次元の門が徐々に閉じていく。


最後に見たのは、アリシアとセオドアの安らかな笑顔だった。


迷いの神殿、現実世界


「レイナ!シンジ!」


セバスチャンとエヴァの声が聞こえ、二人は現実世界に引き戻された。


光の柱は消え、神殿は元の静けさを取り戻していた。


「大丈夫?」


エヴァが駆け寄る。


「ええ…」レイナが弱々しく答える。「門は閉じました」


「敵は?」


「逃げた」セバスチャンが悔しげに言う。「光の柱が消えると同時に、何か魔法を使って姿を消した」


レイナとシンジは互いを見つめた。二人は感じていた。転生者としての特別な力は失われ、通常の人間に戻ったことを。


「力は失ったけど」レイナが微笑む。「記憶と知識は残っている」


「それで十分だ」シンジが頷く。「私たちはもう、過去の因縁に縛られない」


王都、王宮での報告会


「次元の門を閉じることに成功したものの、ダリウス・レイヴンたちは逃走した」


レイナが国王と顧問たちに報告する。


「そして、私たちは…転生者としての特別な力を失いました」


静かなざわめきが広がる。


「しかし」シンジが続ける。「前世の記憶と知識は健在です。次元監視官としての務めは果たせます」


国王アーサー四世が頷く。


「君たちの犠牲に感謝する。王国は永遠に恩義を忘れない」


「ただ、問題は残っています」


レイナが慎重に言う。


「ダリウスたちが逃走し、まだ多くの転生者が行方不明。そして、『迷いの神殿』に残された技術…」


「継続的な監視と調査が必要だな」


レオナルドが意見を述べる。


「次元監視局は存続させ、引き続き転生者問題に対応すべきだ」


「同意する」国王が宣言する。「レイナ・サクラとシンジ・カイト、力は失っても、君たちの知恵と経験は王国にとって貴重な財産だ」


次元監視局、その夜


「特別な力はなくなったけど、なんだか気が楽になった気がする」


レイナがオフィスの窓から夜空を見つめながら言う。


「ああ」シンジが隣に立つ。「もう過去生の因縁に縛られなくていい」


「これからは純粋に私たちの人生を生きられる」


二人は静かに微笑み合った。


「でも」レイナが真剣な表情になる。「ダリウスたちはまだ自由なままだし、他の転生者たちも」


「だから我々の仕事は続く」


シンジが頷く。


「力は失っても、知恵と経験は残っている。それを活かして、この世界の謎を解き明かしていこう」


「そうね」


レイナが夜空の星を見上げる。


「それに…まだ解明されていない謎がある」


「何だ?」


「この世界で転生が起こる理由。次元の狭間の真の姿。そして…」


彼女は少し間を置いて続けた。


「私たちはなぜ特別な使命を持って転生したのか」


「それは今後の冒険で解明していこう」


シンジが笑顔を見せる。


「新しい章の始まりだ」


夜空には、明るい星が輝いていた。それはまるで、アリシアとセオドアが見守っているかのようだった。


翌日、王都の朝


「新たな調査の計画ができました」


セバスチャンが地図を広げる。南の国境付近に印がついていた。


「情報によれば、ダリウスたちの新たな拠点がこの辺りにあるとか」


「早速調査に向かいましょう」


レイナが決意を新たにする。


「力は失ったけど、私たちにはまだできることがある」


「真実の探究は、力ではなく知恵の戦いだからね」


エヴァが微笑む。


「では、出発の準備を」


新たな冒険の幕が上がろうとしていた。


特別な力を失っても、前世と現世の知識を併せ持つ彼らは、依然として強力な存在だった。


真実を追い求める旅は、まだ始まったばかり。


レイナは窓から見える朝日を見つめながら、心の中で誓った。


(アリシア、ありがとう。あなたの意志は私の中に生き続ける。そして今度は、私自身の力で真実を追求していく)


新しい朝、新しい旅立ちの始まりだった。

完結済みにしておきます。

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