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20話 真夜中の森の決着

 ドスン ドスン ドスン

 大きな足音が、あかりとイブランクが身を隠している所にまで聞こえてきた。

 どんどん近づいてきているようだ。


(魔物に見つかった?)

 心臓が早く脈打ち、手のひらがじわりと汗ばんだ。


「あかり様、見つかるのは時間の問題です。私が魔物を引き付けますので、隙を見てお逃げください」

「えっちょっと待って…」

 あかりの返事を聞かずイブランクは行ってしまう。

(あんなに怪我してるのに、ひとりであの魔物に立ち向かうなんて無茶だ)



 イブランクが暗闇の中、目を凝らすと少し離れた場所で一つ目の魔物がキョロキョロと辺りを探っていた。自分達を探しているのかもしれない。


 気づかれないよう静かに魔物の背後から近づくと思い切り剣を振り下ろした。

 ガキッ

 剣を持った手が痺れる。

 魔物の皮膚が想像以上に固く、ダメージを負わせることができなかった。

 魔物は素早く振り向くと、顔の中心にある大きな一つ目でイブランクを睨み、拳を振り下ろした。


 ドスン

 イブランクは避けたが、魔物の拳が当たった地面に大きくひびが入った。これをまともにくらったらおしまいだ。

 続けざまにもう片方の拳が飛んでくる。イブランクはなんとか避け続けるが、一つ目の魔物は図体が大きいわりに動きが速かった。

 いつもの状態であれば対応できたが、怪我を負ったイブランクには避けるのがやっとだ。


「つっっ」

 狼の魔獣にやられた背中の傷が痛み、イブランクの動きが少し鈍る。

 ガシッ

 一つ目の魔物はその隙を逃さずイブランクの片足を掴んだ。

「しまった!」

 そのまま魔物はイブランクを力いっぱい投げつける。

 ミシミシミシ

「うっっ」

 近くの大きな木の幹に激突し、イブランクは痛みに顔を歪めた。


 ドスンドスン

 一つ目の魔物は目を輝かせながら、木の根本にずり落ちたイブランクに近づいていく。


「やめてーっ」

 ボフッ

 あかりが放った火の玉が魔物の背中に直撃した。

(やった、当たった!)

 煙があがる。

 しかし魔物はびくともせず、背中を痒そうにかいただけだった。

 魔物はくるっと振りかえるとあかりを睨み付け、ドスンドスンと近づいてきた。

(逃げなきゃっ)


 魔物の大きな目があかりを虫けらでも見るように見下していた。足がすくんで動けない。

 あかりの目の前まで来ると魔物はあかりを踏み潰そうと足を振り上げる。

(潰されるっ!!)

 あかりは反射的に目を閉じた。


 ドシンッ

 すんでのところでイブランクがあかりを抱えて魔物の攻撃を避けた。

 土埃があたりに巻き上がる。


「あかり様!何をしてるんですか!早く逃げて!」

「嫌です。わ、私も戦います!」

「何を言っ!?」

 ドシンッ

 魔物の拳がまた飛んできて、イブランクが剣で防ごうとしたが弾き飛ばされてしまう。

 勢いよく飛ばされ地面に転がるイブランクを魔物が大きな手で掴まえた。


「イブランクさん!!」

「ぐっ」

 魔物はイブランクを自分の頭の高さまで持ち上げると、その手に力を入れていく。


 一つ目の魔物はイブランクを握る手にどんどん力を加えていく。握りつぶそうとしている。

「がっっ」

 イブランクが吐血する。

 魔物の顔がイブランクに近づくと、その大きな瞳が三日月のようににやりと細くなった。楽しんでいる。


 あかりはゾッとした。と同時に思い出した。

 三日月のように細くなったあの魔物の醜い目が、あかりが嫌っていたあのくそおやじ課長にそっくりだということを。

 同僚の前であかりを叱りつける課長の目が、ほんの一瞬細くなり、まるであかりを嘲笑っているかのように感じることがあった。

 すごく不快だった。

 あかりの全身に鳥肌が立った。


「くそおやじ、やめろおおお!!!」

 ほとんど無意識にあかりは叫んでいた。また信じられないくらい大きな声が出た。


 その瞬間、一つ目の魔物は電気が走ったように体を震わせ、動きをとめた。

 イブランクを拘束していた手の力も緩む。


 その隙にイブランクは魔物の手を抜け出すと、残っている力を振り絞りそのまま魔物の腕を駆けあがっていく。

 そして魔物が防御するより速く、その大きな一つ目に剣を突き刺した。


 ギィヤーーー

 魔物の大きな悲鳴が夜の森の中に響き渡った。

 ドシン

 一つ目の魔物は崩れ落ち、動かなくなった。


 イブランクは地面に着地するとそのまま倒れこむ。


「イブランクさん!」

 あかりが急いで駆け寄る。

「っっ…あかり様…お怪我は?」

 あかりの心配をしている場合ではない。イブランクは全身傷だらけでボロボロだった。


「イブランクさん…仇…討てましたね」

 あかりは泣きたいのを必死に堪えて微笑んだ。


 不意にイブランクの目にあかりの姿と亡くなった弟、ケイリーの姿がまた重なって見えた。

 イブランクがあかりを強く抱き締める。

「!?」


「っっケイリー…ケイリー…っ」

 イブランクの目から涙が溢れた。次から次へとこぼれ落ちる涙をしばらく止めることができなかった。


 静かになった森の中、あかりの耳には声を押し殺して泣くイブランクの荒い息づかいだけが聞こえていた。


 いつの間にか夜が明け、空が白みはじめていた。


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