第二十四話「不死の猟犬」③
もはや黒い影しか見えない何かが視界を横切る。
一手早く動いていたプラドさんとその影が交錯したと思ったら、プラドさんが血しぶきとと共に軽く吹き飛ばされる!
「ぐわっ! ば、馬鹿な……このワシが見切れんかった……」
リードウェイさんとバルザックさんが二人がかりで、黒い影の進路に立ち塞がる!
けれども、二人共何かに弾かれたように、あっさりと吹き飛ばされる!
それと僕を隔てるものが無くなった直後、背筋がゾワッと凍りつくような感覚!
ヤバいと思うより早く、衝撃と共にリアカーをパージしたブンちゃんがすばやく移動していた!
ガキンと言う金属音と共に何かがフレームパイプに当たる。
頑丈な芯まで鋼鉄のフレームが大きく削れているのを見て、僕は自分が危うい所で命拾いしたのを知る。
『警告、敵の狙いは高倉准陸尉と推定。シミュレーション結果報告。現状のままでは30秒後に高倉准陸尉のKIAが確定します。援護射撃、誤射可能性ありにつき非推奨……強行しますか?』
……このポンコツAIが何言ってやがる! と毒づきたいのも山々なのだけど。
まさに、冗談のような状況だった……あんな-150度の環境を生き延びて、手練のプラドさんを一蹴するような敵!
なにより、その動きは早すぎて、もはや僕の手には負えないと一瞬で悟ってしまう。
ブンちゃんに乗ったまま、懸命に放水で応戦するのだけど、全く相手の動きについていけていない。
こんな放水の速度程度じゃ、遅すぎて話にならない上に、相手はこっちが何処を狙ってるのかを正確に予測して一手早く動き出している……。
相手の攻撃は間合いが取れているから、まだ届かないし、ブンちゃんもゼロワンの遠隔操作なのか、巧妙に距離を離そうとしているのだけど……。周囲はまだまだアージュさんの凍結魔法でカチカチだから、逃げれる範囲なんてたかが知れてる……その上、相手の移動速度はこっちよりも明らかに早い。
ゼロワンの援護射撃も、多分僕と敵の距離が近すぎるんだ……やれと言ったら、撃ってくれるだろうけど。
向こうが誤射可能性というからには、流れ弾に当たっても文句言うなと言うレベルなのだろう。
何よりさっきもゼロワンのミニガンではまるで効果が無かったのだ……時間稼ぎか動きを止める程度。
一方、僕は流れ弾の一発で致命傷になる……。
この状況で撃てというのは、間違いなく自殺行為だった。
プラドさん達も生きてはいるみたいなんだけど、重傷を負ったのか、皆動いてはいるんだけど、戦える状態じゃない。
ようやっと目が慣れてきたようで、敵の姿も目に捉えられるようになったのだけど……。
人型をしてるだけの、全身が鱗のようなものに覆われたスキンヘッドの怪人……そうとしか言いようがなかった。
一瞬、それの目らしきものと視線が合ったような気がした。
……明らかにそれは笑っていた。
今の僕は、無力な狩られるモノ……それ以外の何者でもない。
そして、空中に飛び上がっって、一気に間合いを詰めてきた怪人が勝ち誇ったような笑みを浮かべた気がした。
あたりの景色がスローモーションになって、先端が剣のようになった両手が伸びてくるのが見える。
それらは弧を描きながら、回り込むように二方向から僕に向かって迫るッ!
確実な死の刃……このタイミングと軌道では避けるのは不可能。
ブンちゃんが無限軌道をロックさせて、急減速するのだけれども、それも読んでいたかのように刃の軌道が変化していく。
これはもう無理だ……終わった……。
……思わず、目を閉じるのだけど。
直後、まぶた越しにも解るくらいの激しい閃光があたりを包むのが解った。
目を開けると怪人は、身体の右半分近くを丸ごと失った状態で目の前に叩きつけられる所だった。
ブンちゃんが急発進するのに合わせるように、僕の背後から、黒い影が飛び越していく!
「うにゃーっ! やらせにゃいっ!」
その後姿は、黒いポンチョみたいなのを羽織ったテンチョー!
このタイミングで駆けつけてくれるとか、君はどこぞのヒーローかよっ!
両手から五本の長い光る爪のようなものが伸びていて、容赦なく怪人へ振り下ろされる。
けれど、怪人も右肩周りをごっそり失っているのに、平然と起き上がってその一撃を刃状にした左腕で受け止める!
「うにゃっ! にゃんだこいつ! テンチョーの「はいぱーくろー」を見切って、受け止めるのかにゃっ!」
続けて、二合三合と打ち合い、鍔迫り合いをいなしたテンチョーは、くるくると空中で回転しながら、シュタッと着地すると油断なく身構える。
相手もすばやく体勢を立て直すと、間合いを取る……。
チートじみた強敵の出現と、絶妙なタイミングでのテンチョーの参戦!
これで勝てる! ……と言いたいのだけど、テンチョーは魔術戦闘が主体。
どうも接近戦用の光の爪みたいなのを使ってるみたいだけど……こんなデタラメな速さで動く敵と、戦えるのか?
敵は歴戦の剣豪プラドさんすらも退けて、銃弾どころかテンチョーの不意打ちをまともに食らって、体の半分近くが吹き飛ばされても、生き延びて、今もテンチョーと互角に打ち合ったような不死の怪物!
いくらテンチョーでも勝てるかどうか……。
「ご主人様っ! 無事だったかにゃー? 助けに来たにゃー!」
戦ってる最中なのに、満面の笑顔を浮かべて、こっちへ振り向くテンチョー!
「バカッ! こっちを気にしてる場合か! 前を見てっ!」
当然、敵もそれを見逃さずに今度は腕を10本の触手に変化させて、一斉に複雑な軌道でテンチョー目掛けて、打ち出す!
けれど、テンチョーは軽く一歩下がると背中を向けたまま、長く伸ばした光り輝く尻尾を無造作に振り回すとその触手を全て薙ぎ払ってしまう。
……なにそれ! そんな事も出来るのか!
「うにゃにゃにゃにゃっ! 背後をとったとか、思ったのなら甘いニャーッ! 猫耳は360度何処にいたって解るし、尻尾がある以上、テンチョーに死角なんて無いんだにゃ! こいつは、お釣りにゃ! とっとけにゃー!」
返す刀ならぬ、返す尻尾で尻尾自体を包んでいた光が、そのまま怪人へ向かって飛んでいく。
ちなみに、射出モーションは……お尻でドンッ! って感じ……。
怪人も横っ飛びで、その光の槍を避けようとするのだけど、光の槍はテンチョーが尻尾をクネクネ動かすとその通りに動き、ぐるぐると周囲を高速で回転したと思ったら、唐突にカックンと不自然な軌道を取って、怪人に直撃、大爆発ッ!
ええぇ……なにそれ? 思念誘導弾とかどんだけだよ!
「やったにゃー! しょーひぜー分はサービスだにゃー! まいどありなんだにゃー!」
それにしても、テンチョー相変わらず、ノリが軽い。
相当ハイレベルな敵なのに、余裕たっぷり……今までの僕達の戦いは何だったのだろう?
けれど、爆炎が晴れると、腕を大きなシールドのような硬そうな感じのものに変化させて耐えきったらしく、怪人は跪いたようなポーズで耐えていた。
……次から次へと芸達者な奴だな!
「うにゃっ! はいぱーしっぽランスが効いてないにゃ! こらーっ! 何が、どんなヤツでも一撃必殺だにゃ! 嘘つきにゃー! もっと凄いヤツ、とっとと教えるにゃっ!」
……何ともだっさいネーミングだった。
でも、思い切り効いてるっぽくない?
シールドっても一発でもうボロッボロだし、鱗もボロボロに禿げてるし、目っぽい部分からは血の涙みたいなのを流してて、片膝付いて、いかにも苦しそう。
すぐに動こうとしないのも動かないんじゃなくて、動けないんだ。
よく見れば、跪いている様に見えるだけで、右足の膝から先がごっそりなくなってる。
どうやらシールドで守りきれなかったらしい。
これ……もう、2、3発くらい当てれば済むんじゃないかな……?
けれど、見ている間にもその足が再び生えてきて、吹き飛ばされた右腕もニョキニョキと生えてきている。
デタラメな再生力……これでは銃弾程度、いくら浴びせても効かないわけだ。
たぶん、アージュさんの凍結魔法も身体が凍る矢先から、高速再生して乗り切ったんだろう。
ああもうっ! 不死身の高速再生持ちとか、クソ面倒くさい難敵の定番じゃないかっ!
テンチョーもより強力な魔術を習得中なのか、カーテンみたいなバリアーを僕と自分の周りに張って、目をつぶってブツブツやってる。
戦闘中にそんな事するなと言いたいけれど、多分これがテンチョーの戦闘スタイル。
敵が強いなら、それに合わせてより強力な魔術を習得して、よりパワーアップする。
神代の超魔術とか封印魔法とかそんなもんだろうが、お取り寄せしまくり……。
ただ、これは大きすぎる隙だった……このままでは相手も完全回復して、仕切り直しになってしまうし、賢明な相手なら、ここは撤退の絶好の好機と見るだろう。
ここで僕の取るべき手は……僕が時間を稼ぐ! 女の子に頼りっぱなしじゃ、男がすたる!
戦う理由なんて、それだけで十分だろ?
テンチョー推参ッ!
ちなみに、新魔法として
はいぱーくろー(白兵戦用ビームクロー。爪自体も飛ばせるし、誘導可能)
はいぱーしっぽらんす(尻尾が伸縮自在のビームサーベルになる上に、飛ばせて思ったように誘導できるよ)
むてきカーテン(敵と味方の間に張るバリアーだ。防御力はWBの左舷並みだぞ!)
この辺を実装してます。(笑)
ちなみに相手の方は、寄生獣の「後藤」
まさにあんな感じの化物ですがな。




