第二十四話「不死の猟犬」④
「ゼロワン! 命令だ……敵のボスへミニガンで射撃! 敵は再生中で無防備だ……損傷が酷い右半身を集中して狙え! 容赦するな! 完膚なきまでに粉砕しろ! 撃ち方はじめっ!」
……自分でもびっくりするような明確な殺意を持った言葉。
けど、これは紛れもなく僕自身の意志だ。
生きることは綺麗事じゃ済まされない!
僕だって、戦うべきなのだ……守られるだけじゃなく、皆と一緒に!
『了解。射撃命令受領。陸准尉及びT01、散布界外の安全距離を保てていると確認。支援射撃シーケンス開始』
さすが、命令即実行!
バウンバウンと言う爆音のような射撃音が響き渡ると怪人がぶん殴られたように真横に吹っ飛ぶ!
秒間100発もの射撃速度を誇るミニガンの射線がマトモに通過した結果、一瞬で再生中だった手足と頭まで吹っ飛ぶ!
けど、力尽きたように無造作に地面に横たわりながらも、またしてもムクムクと失われた部位が回復していく。
まだ再生するのか……。
いくらなんでも限度ってものがあると思うのだけど、その限度が見えない!
おまけに頭が吹っ飛んでも平気だなんて……。
そういや、パーラムさんが言ってたな。
帝国の不死兵って……たぶん、コイツラの事だったんだろう。
こんなの、どうやって倒せば良いんだ?
確か、炎を操る女神の使徒が倒したとかなんとか……。
考えろ……こう言う不死身の敵を倒すには……。
一瞬で全部の細胞を焼き尽くすとか、氷漬けにするとか、それ位だよなぁ……。
でも、氷漬けにするのはアージュさんの極悪凍結魔法を食らって生き延びたくらいだから、無理っぽい。
なにより、アージュさんは魔力枯渇でもう戦えない。
超高熱で一気に焼き尽くすっても、そんなの下手すればこっちも巻き込まれる……。
けど、無限の再生能力なんてありえないから、敵の再生能力を上回るダメージを与え続ければあるいは……?
ゼロワンはここぞとばかりに、敵のボスにミニガンの集中射撃中!
地面が掘り返されるくらいの勢いで文字通り蜂の巣にされているのだけど、撃たれながらも次々と再生して、グググと起き上がってきている。
やっぱり、銃弾の点の攻撃じゃスカスカ貫通しちゃって、大したダメージにならないんだ。
それでも、ミニガンのアホみたいな弾幕で上から無理やり、押し潰してるって状況なんだけど、これで倒すのは多分無理だ。
なんかもう、ここまで不死身っぷりを見せつけられると、どうにかなるような気がしない。
けど、時間稼ぎとしては十分やってくれている!
『警告、銃身加熱により、銃身温度が危険域に達しました。射撃不能。当機はこれより上空へ退避、以降情報支援に徹する。貴官の命令に応えられず、慚愧に堪えない。高倉准陸尉の武運長久と勝利を祈る』
ゼロワンが上空へと退避していく……なんか、すっげぇ悔しそう……。
銃身加熱か……それはもう仕方ない。
機関銃ってのは、こう言う欠点があるんだよな。
あんまアニメとか漫画じゃ描写されてないから知られてないけど……。
機関銃って、撃ちっぱなしで弾がある限り、ずっと撃てるようなものじゃあないんだ。
撃ち続けると、銃身が焼けてまともに撃てなくなるから、休み休みとか、銃身自体を取り替えて、冷やしながら撃ちまくる……そう言う兵器なんだよなぁ……。
戦場なんかだと、本来一人で運用するんじゃなくて、銃身交換手なんて専用の要員がいるくらい。
戦闘機なんかだと、何本もの銃身を並べたり、ガトリングガンみたいに束ねて撃ったり……。
水冷式の強制冷却装置なんかを付けて対応するんだけど……。
連続射撃が続くとやっぱり、加熱して撃てなくなってしまう事には変わりない。
どのみち、ゼロワンはしばらくは、戦力として期待は出来そうもなかった。
「けど……時間稼ぎとしては十分だったよ。ゼロワングッジョブ!」
ビシッと上空に向かって、親指を立てて、ゼロワンに謝辞を送る。
機械だろうが、一緒に戦ったならもう戦友ってヤツだろう……この気持ち伝わると良いんだけど。
……背後からブワッと熱風が吹いてくる。
振り返ると、まさに異形……そうとしか表現できない何かがいた。
「にゃはっ! ご主人様! 見てにゃーっ! これ白炎の魔装って言うすっごい鎧なんだって! 不死身の怪物なら灰になるまで、焼いちゃえばいいじゃんって言われたにゃー!」
テンチョーは細身の幾重のものスリットの空いた白い甲冑のような姿に成り代わっていた。
ご丁寧に猫耳と尻尾までついてて、頭部も猫の顔を模したような形になっていて口の所にはデカい牙が生えている。
……猫の鎧?
その無数のスリットから一斉に青白い炎が吹き出すと、テンチョーも四つん這いになって姿勢を低くする。
……と言うか、どう見ても体型からして変わっている。
後ろ足なんて、完全に逆関節の鳥みたいな足……どっからどう見ても猫の足だ。
鎧の中身はテンチョーのはずなんだけど……。
……その姿はもはや燃え上がる猫の形をしたナニカだった。
「……えっと、その……熱くないのかなー? ははは……」
もはや、乾いた笑いしか出ない。
とりあえず、ゼロワンも空気を読んだらしく、ブンちゃんを遠隔操作して、怪人とテンチョーの側から、そろそろと抜け出させてくれる。
上からは何も言ってこないけど、これから始まるのは人外同士の頂上決戦……さっさと逃げろと言われてるような気がした……。
「全然熱くないにゃ! これ近づくもの全てを燃やしちゃう無敵の鎧にゃんだって! これならもう、どれだけしぶとくても、あっという間に灰になっちゃうにゃー! こうなったら、テンチョーも本気だすにゃ! にゃははっ! 狩りの時間の始まりだにゃー!」
なんだか、めちゃくちゃ物騒な事を明るくサラリと言ってのける。
でも、その声は間違いなくテンチョーの声。
そう言えば、キリカさん達も本気を出す時は、獣の姿になるとか言ってたし……テンチョーもそんな感じなのかも。
テンチョーは、猫科特有の狩りのポーズ……頭を下げて、お尻を上げたポーズのままジリジリと前に出ていく。
タイミングを測ってるのか、逸る気持ちを抑えようとしてるのか……地面をバリバリとひっかく仕草まで、猫まんま。
ただし、その引っ掻いた地面はたちまち赤く溶けたようになっていくのだけど……。
なんだか、やってる事はしまらないんだけど……図体が人間サイズな上に青白い炎の発する熱量は尋常じゃないらしく、熱気がここまで伝わって来ている。
……あれの正面にいたらもはや死を意識するとか、そんな感じなのは間違いない。
不死身の怪人も、如何にもヤバそうだと思ったらしく、再生途中にもかかわらず、強引に起き上がると拳法のような構えをしながら、すり足でゆっくりと間合いを測るように等距離を保ったまま、円周上に動き出す。
人間離れした容姿ながら、その動きはまるで達人のように一つのムダも無い。
こいつももしかしたら、もとは人間だったのかもしれない……そんな事も思ったりする。
耐熱装甲のつもりなのか、鱗状の装甲がのっぺりとした黒い縞模様のようなものへと変わっていく。
これ……まさか、カーボンファイバー装甲? 確かにあれなら、相当な高熱にも耐えられる……テンチョーの姿を見て、炎に耐えられるように自己進化したってのか!
やはり、こいつ……帝国軍でもトップクラスの戦力の個体とかそう言う手合だ……とんでもない敵だ。
案外、いつぞやのワイバーンに乗ってたのもコイツか、その同類だったのかも。
この不死身っぷりなら、確かに1kmの高さから落ちようが、雷撃をまともに食らっても生き延びそうだ。
もしかしたら、あの時点から、帝国の侵略は始まっていたのかも知れない……テンチョーだって、あの後もワイバーンが遠巻きに様子見に来てるって話をしてたじゃないか……。
にも関わらず、僕はのほほんと無警戒に……心底、自分の平和ボケっぷりを思い知らされる。
いずれにせよ、この戦いは僕が手出しを出来る領域なんかじゃない。
僕はもう、ブンちゃんのフレームにしがみつきながら、その様子を見守るだけだった……。
両者の間に沈黙が走る……すでに、どちらも微動だにしない。
それは、お互いにとって、すでに必殺の間合いに入ったということに他ならなかった。
伏せたまま、射るような視線で、怪人を見つめるテンチョー……ゆらーりゆらーりと尻尾が揺れているのは、多分無意識なんだろう。
対する怪人ももはや、一歩も動けない様子で凍りついたようになっていた。
もはや、人外の領域に達したテンチョーと不死身の怪物……。
それはあたかも二人の剣豪同士の死闘に似ていた。
どちらかが、僅かでも隙を見せたら、その瞬間に一撃で勝負は決まる……これはそう言う戦いだった。
どちらも、無意味な口上を述べたりなんかしない……双方、全神経を相手の一挙一動に集中している。
一瞬のようで……長い時間が過ぎていく……。




