第十一話「猫耳オーナー、覚醒の時!」③
「ランシアさん……魔法の中で一番、射程距離があって、弾のスピードが早い魔法ってどんなの?」
距離が離れてるなら、もう弾のスピードで勝負するしか無い……だから、とにかく早く遠くまで飛ぶ魔法があれば……。
テンチョーなら、こんな感じの魔法……みたいなアバウトな説明でも、ヒントさえあれば、それを即席魔法にするくらいのことはやってのけそうだ。
「速度が速い魔法ですか? テンチョーさんの光の弓矢も相当早い部類なんですが……。あんな遠くまで真っ直ぐ飛ぶ魔法なんて、初めてみました」
うーん、ランシアさんから見ても、あのテンチョーの魔法は相当ハイレベルなんだな。
けど、あれじゃ駄目だ……牽制にしかなってない。
早く遠くへという発想じゃ駄目だ……なにか別の可能性を探るべきだ。
ここは、ちょっと質問を変えてみよう……。
「……空の敵に対抗する……対空戦闘魔法みたいなのはないのかな? 一度にたくさん撃てるとか……続け様に連続して撃てるような魔法。威力が弱くても、物凄く速度が早いとか、相手を追いかけるとか、とにかく広範囲に危害を与えるってのでもいい。何かそう言うのは無いかな?」
「空の敵に対抗する魔法ですか? それも、あれより有効そうなものですか……。あれですら、距離がありすぎて、牽制にしかなってないみたいですよね」
「そうだね……もう一人か二人……空へ攻撃出来る魔術師とか、弓の使い手とかいれば良いんだけど。誰かそんなのいないかな?」
……まぁ、前者はともかく、後者は無理だろうな。
弓の射程なんて、精々100m程度。
300m離れた的を射れるなんて、その時点でもう化物。
そんな化物じみた射手ですら、この局面では全く役に立たないだろう。
それ考えると、テンチョーの光の弓矢も大概チートなんだよな。
「一応、ここにいる魔術師では、B級冒険者の私が一番の使い手なんです……。でも、すみません! 私にはあんな遠くの敵に当てられるような魔法は使えません。せいぜい、今みたいに炎の矢を防ぐのが精一杯です」
……なるほど。
ランシアさんの使える魔法では、対処できないと……。
そうなると、他も似たようなもんか。
……と言うより、相手の目的がこちらの襲撃で、遠慮なく近寄ってくるなら、いくらでも対応できるんだろうけど……。
遥か上空から、こちらの情報収集を行いつつ、ちくちくと制圧射撃を加えてくるとなると、完全に想定の外。
対抗手段ってもんがランシアさん達にも思いつかないんだろう。
もしかしたら、複数の魔法を組み合わせたりすることで、対抗可能なのかもしれないけれど。
ランシアさん達の思考では、そこまで辿り着けないんだ。
僕にしたって、この世界の魔法の知識が少なさすぎるってのがネックになってる……。
どんな魔法があって、どんな事ができるのか……それが解れば、後は応用力の問題なんだけど……。
昼間のうちに、本職の魔法使いの人とかと話ができればよかったんだけど……どのみち、忙しすぎたからなぁ。
ランシアさんも、本職の精霊術士と言っても、その戦いの発想は、地上での戦いから抜け出せていないだろう。
そもそも、高い高度をとった空の敵と戦うという発想自体がないのだから、仕方がない。
テンチョーですら、同様だ。
僕が地対空戦闘と言う異質な戦闘様式に対応する思考が出来ているのは、多分ゲームやアニメ、爺様から聞かされたリアルな戦争体験なんかが、影響してるんだろう。
爺様は大戦中、大陸戦線で、対空砲台の指揮官だかなんだかやってたらしいんだが。
シューティングゲームとかFPSやらすと抜群に上手かったし……若い頃、裏山でサバゲーやってたら、ちょっとやらせろとか言い出して、爺様と僕のコンビだけで、10人以上居たサバゲー仲間のチームが全滅……なんて事もあった。
その爺様の伝えてくれた戦訓に、偵察機を見たら、最優先で撃ち落せってのがあった。
上手く撃墜できると、毎日空襲に来てたのがパタッと来なくなるとか、敵が不用心に射程内を飛んできたりするとか……そんな感じになるんだとか。
逆に取り逃すと、射程外へ迂回されたり、攻撃精度が高くなって、味方の損害が増えたりと、露骨に差が出る。
敵にこちらの情報を渡さないに越したことはない。
戦争経験者の言葉ってのは、こうなると重いものなんだと実感される。
けれど、そうなると相手についても、同様。
ランシアさん達、この世界の人間たちの発想の外、航空偵察と言う高度な戦略行動。
これは情報の重要性を理解していると言う事にほかならない。
……一体何者なんだと言う疑念は尽きない。
いずれにせよ……こんな不毛な応酬……いつまでも続けていたくはない。
1km離れた敵を打ち落とす手段。
世の中で一番早いもの……となると光……。
レーザーポインタ程度のでも、生き物相手なら、目でも狙って当てることが出来れば、十分効果的だ。
それよりも……レーザービームみたいな攻撃魔法……そんなのがあれば、話も早い。
「ランシアさん! 相手を焼くような強い光を放つ魔法……そんなのって、あるかな?」
「ひ、光で焼く……ですか? 対アンデッド用でそんなのがあるって聞きますけど……。聞いたことないです!」
さすがに、そんなものは無さそうだった……。
となると、レーザーみたいなSF兵器を魔法で……なんてのは無理か。
テンチョーなら使えるかも知れないけど、まずレーザービームって概念を理解するところから始めないと通じないだろう……今は無理だなぁ……やっぱり。
次に早いとなると……風? 強風とかかまいたち? 早いには早そうだし、テンチョーも理解できると思うけど。
そもそも、そんなのがワイバーンに効くのか? 結構硬そうだし……。
他には……そうだ! 雷撃魔法とかって、どうだろう?
雷が落ちるスピードって、確か秒速150kmとかそんなだったような……。
この世界の魔術って解らないことだらけだけど、自然現象を人工的に起こす……と言う理屈だとすれば?
自然現象ならば、大抵のことを再現できる可能性が高いと言える。
「……ランシアさん、雷落とす魔法って、あったりする?」
「雷……ですか? そうですね。電撃や、雷光球と言った電撃系魔法ならありますね。ただ命中率はともかく、とにかく射程が短いから使いにくいんですよね。どちらも5mくらいしか飛ばせないし、雨の中や水辺では自分が巻き込まれたりで、割と使いにくいので、あまり使われてませんね」
雷撃ってあれかな……電撃ビリビリ~な感じ。
80年台のだっちゃね鬼娘みたいな感じかな……?
……確かに、そんなのじゃ、実戦的じゃないよなぁ。
あれ、周りの人とかもめっちゃ巻き込んでたし、結構当たらなかったし……。
でも、それは電撃を放つとかそんな感じのやつの話で、例えば指定した場所とか雷が落ちやすそうなところに、ドーンと雷とか落とすようなのはどうなんだろう?
ファンタジー物とかでもよくある。
かの有名なドラクエなんかでも、そんなんあったよな。
要するに、自分の身体や魔法の杖から、直接放つんじゃなくて、空からどーんと相手の頭の上から落とす系の魔法っ!
……あのワイバーンは空飛んでるから、もし今、雷が落ちればアイツに当たる可能性が一番高い。
「そう言うの以外で……例えば、城とか、ドラゴンなんかにドーンって、雷落とすようなのって、あったりしない?」
「……対軍勢、城塞用の最高位精霊魔法でありますね。招雷の儀……雷の精霊に呼びかけて、雷を落とすんですけど、その前に雷雲を召喚したりと、ある程度の環境を整えないといけないので、複数人で時間かけて行う……儀式魔法……そんなところです。さすがに一人で使えるようなものじゃないですね。腕利きの精霊使いを10人位集めて、半日がかりで……とかそんな調子ですね」
なるほど、あるにはあるんだな。
そう言う事なら、テンチョーのチートスキルで実現出来たりしないかな?
よしっ! 攻略法が見えてきたかも知れないっ!




