第十一話「猫耳オーナー、覚醒の時!」④
「テンチョーっ! 雷って知ってるだろ? アレ呼び出すような魔法って使えないかな? 雷なら、相手が遠くても空にいれば、確実に当たると思うんだけど!」
このアドバイスで解るかなぁ……?
一応、雷でビビりまくって、家中大暴走とかした事があるから、覚えてるだろう。
なお、現状敵との彼我の距離は約1kmをキープされている。
……敵はこの距離なら、テンチョーの攻撃に対応できると理解しているようで、それ以上は絶対に近づかない構えで、こちらの戦力評価にでも徹しているつもりのようだった。
やはり戦い慣れてる印象が強い……。
けれど、雷撃ならこの程度の距離でも、ほぼ瞬時に当たるはず。
初撃でオーバーキル級の攻撃を叩き込んで、問答無用撃ち落とす! これなら、絶対に勝つるっ!
僕ら猫耳の目と耳なら、相手の座標も把握できてる。
……これ、イケるんじゃないかな?
「知ってるにゃっ! おヒゲがビリビリして、ドカーン! ってなるヤツにゃ! んっとね……あるってさ! ちょっと待ってね……なんか、むちゃくちゃ長い呪文みたいだにゃっ! うーにゃーっ!」
僕のアドバイスで、通じたらしく、テンチョーはそう言って、例によっての謎言語でぶつくさと唱え始める。
テンチョーの魔法って、テンチョーのリクエストに応じて、誰かが既存の魔法を即席で見繕って、その場で教えてるとか……そんな感じなんじゃないかって、気がしてきた。
……この推測は多分間違っちゃいない。
実際、テンチョーは、どうみても、それまで知らなかった魔法を、ぶっつけ本番で発現しようとしていた。
なるほど……理屈抜き、問答無用のチートなようで、そうでもない。
実際、テンチョーの光の弓矢は相当、強力みたいだけど、この距離じゃほとんど意味がなかった……。
テンチョーに魔術を授けたなにかも、恐らくこれなら対抗できるんじゃないかと言うあやふやな根拠で、あの光の弓矢をテンチョーに伝授して、テンチョーも特に根拠もなく使った……その程度の話だったんだろう。
テンチョーも、万能無敵の存在じゃないって事がこれではっきりした。
猫が人の姿をかたどった、いくつもの強力な武器を持った存在……。
けれど、その武器の使い方がいまいち解ってない。
それはひどく危なっかしい存在だと言える。
けれども、それを導き、その強力な武器を最適化出来る存在があるとすれば……。
それは、この世界を変革する存在にすらなりかねない。
……それは他ならぬ僕のことだ。
改めて、慎重にやろう……と思った。
相手の方もテンチョーが光の矢を撃たなくなった事で、諦めたと思ったのか。
こちらへの炎の矢の乱射もやめて、本来の目的……偵察を再開したようで、距離は離してるのだけど、高度は下げてきたようだった。
あちこちに流れ弾の火種がバラ撒かれたから、火の手が上がってて、地上の様子もさぞモロ解りだろう。
テンチョーは、すでに光の弓矢を仕舞い込んで、今度は聞いたこともない長い言葉を歌うように紡ぎ、踊るように手足を動かしていた。
もっとも、その踊りは両手の手首を曲げて、猫の手にして、チョイチョイと招いてみたり、片足を曲げて、ピョンピョンと飛び跳ねてみたりと……なんとも可愛らしい踊りだった。
けれど、その歌声はとてもきれいな声で、リズミカルに同じような言葉を繰り返しながら、徐々に重なるように、複雑な重奏へと発展していく。
「多重詠唱? ちょっ! テンチョーさん、さらっととんでもない真似しないでくださいよっ!」
ランシアさんが、ツッコミ入れてる……。
確かに、この一人で複数の詠唱を並行するって、どうなってんの? どうみてもテンチョーは一人なのに、5人、6人くらいで輪唱するかのように、声が重なっていく。
……そして、僕はその異変に気づく。
なんか……尻尾や耳、全身の産毛がゾワゾワと総毛立つ感じがする。
「……これ、空気が帯電してる?」
ソーラーパネルもぼんやりと青白く光ってるし、携帯電話の基地局アンテナの先端に青白く揺らめく光が灯る……。
セントエルモの火って奴だ。
テンチョーを見ると、髪の毛が逆立って、尻尾の毛がタヌキみたいにパンパンになってる上に、空気中にパリパリと放電してるのが解る!
「ランシアさん、パリンちゃん……それにモモちゃんも……急いで、ここから避難するんだ! いいからっ! はやくっ!」
とりあえず、隣にいたランシアさんの手を引きながら、階段に向けてダッシュ!
ついでに、モモちゃん……返事がないと思ったら、床に転がってて、目を回してた!
一体、どうしちゃったのか良く解らないんだけど、ひとまずモモちゃんを小脇に抱えると、ランシアさんが手を引いてくれる。
……そのまま階段のところまで逃げ込んで、扉から身を乗り出していたミミちゃんも空いていた片手で襟首掴んで、階段の影に引っ張り込む。
屋上の縁にいたパリンちゃんもこっちを振り返るのだけど、もうそのまま飛び降りるように手でサインを送ると通じたらしく、その身を宙に翻す。
……この高さなら、それが一番手っ取り早そうだった。
ワイバーンとその操者も、この異変に気づいたらしくワイバーンが急上昇をかける!
勢いよく、急上昇しての急下降!
……木の葉返し?
ゼロ戦のエースパイロットが格闘戦で多用していたと言われる空戦機動だ!
……ホント、何者なんだ? アレ。
「うにゃあーっ! キタキタキタにゃーっ! さんざん好き勝手やってたけど、これで撃ち落としてやるにゃっ! ……轟け雷光ッ! 唸れ、蒼き稲妻ッ! 青天の霹靂ーッ! にゃんにゃかにゃーんっ!」
テンチョーが空に向かって、手を突き出すと……一閃! 辺りが真っ白になって、凄まじい轟音が轟く。
そして、次の瞬間……例のワイバーンは……まっ黒焦げになって錐揉しながら、ジャングルへと墜落していくのが見えた。
かろうじて見えた感じだと、テンチョーの周りからいきなり何本もの雷が放たれて、ワイバーンにまとめて直撃してた。
空に雷雲すらないような状況での、文字通りの青天の霹靂……秒速150kmの超速の雷撃!
そんなもん、回避も防御も……あったもんじゃない。
相手も、木の葉返しなんて、アクロバット機動で回避を試みたようだけど、何の意味もなかった……残念っ!
地上から見たら、単なるアクロバットみたいなもんだし、普通に目で追えたからなぁ……。
……それにしても。
そりゃ、ヒントを出したのは僕だけど……。
なんちゅー強烈な魔法を使うんだっ!
ランシアさんが対軍勢、対城塞用とか言ってたけど、マジだこれ。
テンチョーすげーっ! マジチートッ!
そんな小並感を抱く僕なのだった……。
「……しっかし、テンチョーはん……魔法の使い手だって聞いとったけど、とんでもない使い手やったんやなぁ……」
ひとまず二階の僕の部屋のベッドで、テンチョーは気持ちよさそうに丸くなっている。
あれから、ワイバーンを撃破したものの、テンチョーもぶっ倒れてしまったので、とりあえず僕の部屋のベッドに寝かせたところだった。
「というか、これ……どうなってるんだろ? すぐに起きそうもないんだけど……」
「……多分、魔力の使いすぎですね」
一応復活した、モモちゃんがそんな事を言う。
「ど、どうなの? それ……」
「問題はないと思うよ。魔法、使い慣れない子なんかが、限界以上に魔力使うと良くこうなるんだ。普通は、こうならないように、ほどほどでセーブするんだけど……。テンチョーさんこれだけの使い手なのに、何初心者みたいな事やってるんだろうね。モモなんか尻尾から水出すくらいしか出来ないのに、いつもすぐぶっ倒れちゃうんだ」
ああ、モモちゃん倒れてたのって、そう言うことだったのか。
でも、あの魔法……。
僕にとっては、生まれて初めて使った記念すべき魔法なだけど……なかなか微妙。
命名「立ちションウォーター」
……ほ、他に使えそうな魔法ってないのかな。
「ミミなんて、魔法全然駄目じゃない……。でも、テンチョーさん、さすが上位種族の方ですね。私なんか比べ物にならない! ……あのワイバーンを一撃だなんて!」
「そうだよなっ! 早速皆に知らせないと、マスター! ボク達もちょっと皆のとこに行ってくるよ! ちゃんと戻ってくるから、ちょっとここから離れるの許して欲しいな」
「うちも、ラドクリフと色々話し合わんといかんし、ちょっとお暇するでーっ!」
キリカさんも……。
確かに、思いっきり引っ掻き回しちゃったからなぁ……他の皆も大騒ぎだろう。
「そうだね! でも、皆、ごめんね……疲れてるだろうに……!」
「気にせんときー! オーナーはんもゆっくり休んどき! 後始末はうちらがやっとくわ!」
キリカさんがそう応えると、ミミモモを連れて、下へと降りていった。
……皆が居なくなると、僕の部屋も急激に静かになる。
テンチョーは手足を抱きかかえるようなポーズで寝てる。
所謂、アンモニャイトポーズだ。
ただし、ベッドの専有面積は猫時代の比じゃない。
まぁ、いいか……このまま、隣で僕も一緒に寝るか。
さすがに、眠い。
……ボフッとテンチョーの隣に身体を預ける。
体を伸ばしたかったんだけど……同じ様に手足を丸めて、テンチョーと背中をくっつけ合わせると妙に落ち着く。
猫耳、猫尻尾のみならず、寝方まで猫化しているのか僕は?
けど、テンチョーは女の子になっても、その温もりや匂いは一緒だった。
猫ってなんだか知らないけど、ポップコーンとかクッキーみたいなお菓子みたいな匂いがするんだよなぁ……。
もはや、それは条件反射のようなもので、僕にとっては安らぎを与え、眠気を誘うことには変わりなかった。
今度こそ、ホントに……おやすみ……なさい。
終始どっかゆるゆるなワイバーン戦終了っ!
ちなみに、テンチョーが詠唱中、踊ってた謎ダンスは「ねこにゃんダンス」だったり……。(笑)




