誤解は連鎖する
今回でレイン視点は一旦終了です。
あと、途中からカレン視点が入るのでちょっと長目です。
いくつもの町を、山を、谷を、海をも越えて、やっと辿り着いた竜族の里がある山に着いたとき、城を出てから1週間がたっていた。
山に着いたらまず麓にある関所で手続きを取る。そこで、観光客か、仕事として里を訪れたのかで分かれる。今回はハース王国からの伝達と言うことなので、仕事として扱われる。
関所で手続きを済ませた後、里は頂上にあるため、関所から里へ繋がる魔方陣で、里まで転送してもらえる。
この魔方陣は、膨大な魔力と、高度技術が合わさって初めて完成する。なので、このような転送装置がある所は、大体最先端技術がある先進国だ。
しかし、先進国でも、実は設置している国は少ない。理由としては、犯罪行為の予防のためもあり、魔方陣の不法アクセスによる不法侵入防止など、様々な理由の下、あまり多くこの世に存在しない。
まぁ、国を護る力が無いなら、無闇に新しいものに手を出さないのが吉と言うことだ。
そんなことを、自分を族長のいる建物まで案内してくれるらしい兵士の後を付いていきながら、ぼんやりと考えていると、今度は関所の兵士から屋敷の前に鎮座していた門番らしき男に付いていくことになった。
屋敷のなかに入り、応接室らしき部屋に案内され、此処で待っているよう言われた。
部屋は落ち着いた感じに纏められ、華美な調度品等は一切おいてなかった。此処の主人の趣味だろうか?とても居心地がいい。
しばらく待っていると、先程の男が戻ってきた。どうやら、此処の族長であるルイ・リントヴルムのいる執務室に連れていってくれるらしい。
執務室まで着くと、扉を三回ノックしてから入室した。入室して一番最初に族長であるルイ・リントヴルムの顔が見えるのだが.........私の視界に写っているのは、厳格な竜族の現族長であるルイ・リントヴルムではなかった。
いや、視界の先に居るのはルイ様で間違いないのだが、今私の前にいるルイ様の膝の上には、恐ろしく美しい幼女を座らせ、真面目な顔で私の方を見ながら、手は世話しなく幼女の頭を撫でているという、大変シュールなものだった。
一瞬訳がわからず、唖然としていると。族長であるルイ様の膝の上に座っている美しい幼女と、目があった。すると、どうだろう。私のなかに何か雷のようなものが落ちた気がした。
少々大袈裟に聞こえてしまうかもしれないが、それほどまでの衝撃が私のなかに走ったのだ。
幼女と目があったのは本当に一瞬だった。その一瞬で私は現実に引き戻された。自分のやるべこことを思いだした。名残惜しいが、瞬時に頭を切り替え、ルイ様と話をした。
ルイ様と話している間に、今日はこのまま屋敷に泊まることになった。本当はそのまま蜻蛉返りをしようと思っていたのたが、王国からの使者を蜻蛉返りさせるわけにはいかないと言うことで押しきられた。
食事の最中、ルイ様の御家族の方々と御食事を共にさせて貰ったのですが。この家族は私にはとても眩しすぎた。
優しそうな父母の下でのびのびと成長していく子供だち............
ーー此処には、私には無いものが揃っていた.........
「御飯まで頂いてしまってすみません.......」
「いやいや、気にしないでくれ、楽しい食事だったよ」
「ありがとうございます」
そんな形式上の挨拶と礼をしていると、食事前に紹介された、ルイ様の御子息の一人、アルフレット・リントヴルム。アルフレット様が話しかけてきた。
「なぁなぁ! お前も空を飛べるんだろ? 後で競争しようぜ! 」
きっと、アルフレット様は私の翼を見て、共通の話題として話し掛けてくださったのだろうが、竜族と天族なら、竜族の圧倒的勝利が確定している。魔力量でも竜族の方が上回っているため、残念ながら共通の話題と言うより、嫌味に聞こえてしまうだろう。
「アル」
その事が解っているらしい長男であるアシュリー・リントヴルム。アシュリー様は咎めるようにアルフレット様の名前を呼んだ。
「良いのです。アシュリー様......アルフレット様、私めと勝負したところでアルフレット様の勝利は揺らぐことは無いでしょう。ですので、御遠慮させていただきます」
そう話した後、私は朝早くに出ると言うことで、部屋を後にした。
部屋へ戻る途中、私が御借りしている部屋へ続く階段の奥に続く縁側。そこに座り、ペット......いや、あの膨大な魔力と身体の色、そして人の言葉を理解する頭脳......間違いなく銀狐だろう。だか、純粋なそれとは違う気もする、なにかのハーフだろうか?.........
.........まぁ今はどうでも良いか............
縁側に座っている美しい幼児は、竜族の秘宝と歌われるレイミア・リントヴルムだった。彼女の存在はハース王国にまで届いていた。何せ、滅多に生まれることのない竜族の女児な上に、幼いながらも美しいその容姿。噂にならない方が難しかった。
けれども、彼女がそのレイミア様だと話されたとき。正直私は警戒した。
聞けば彼女も、カレン様の様に周りから何時もモテ囃されて居るらしいので、カレン様のような御方なのだと。私は愚かなことを考えていた......
ーーだが、違った。
彼女は真っ白だった............
容姿のみならず、心の底に有るものも、純白だった。
彼女は私には可能性があると言った。......はっきりいって、それだけなら今までお付き合いしていた歴代の恋人達にも言われてきた。でも彼女の言葉は人と違った、可能性はぜろじゃ無ければ言いそうだ。ゼロではどうしようもないが、1%でも、可能性があるのなら、どうにでもなると言うことだろうか?
ーー面白いとおもった。 私の可能性がない可能性は、私が今此処で死滅することより低いらしい...............
こんな大雑把で何の打算もなく真っ直ぐな慰め方をされたのは、生まれて初めてだった。笑と同時に何だか希望も湧いてきた気がした。今の私なら、カレン様でも怖くない気がた。
彼女は白の人、そして、勇気の人でもある。彼女の言葉は、希望を生む。彼女は私のちっぽけな闇なんて一瞬にして吹き飛ばす。劣等感や寂しさは、笑と一緒に吹き飛んだ。彼女は浄化の力でもあるのだろうか?
明日には私はこの里を出ることに成るだろうが、次は観光として此処に来よう。休みを取って、会いに来よう。その時、彼女が私のことを覚えていますようにと、柄にもなく、初めて居るかもわからない神に祈った。
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此処からカレン様視点
私の名前はカレン、今生での私はハース王国という国の皇女として産まれた。
私には産まれたときから記憶が有った。前世はそこそこ裕福な家庭に産まれていたので、大抵の物は手に入った。でも、私は飽き性だったため、直ぐに他の物に目移りするような子供だったと思う。
前世の私は周りの子より美人だったから私は直ぐに恋人も出来たし、かなりモテていた。けれども、生来の飽き性のせいか、直ぐに熱が覚め、直ぐに別れては付き合うの繰返しをしていた。周りの娘は自分がモテないからって、私が男を取っ替え引っ替えしてるって悪口を言っていた。酷いと思わない? 私を引き留めるだけの魅力がない男の方が悪いのに、これじゃあ私が悪いみたいじゃない。
そんな不満を持ちながら、私は16まで生きていた。でもそれは私が16歳の時に発売されたゲームに出会い変わった。
そのゲームはVR初の、乙女ゲームとして、発売当初からネットでも騒がれていた。つまり、体験型恋愛シュミレーションゲームだ。ついこの間、第2段の発売が決定されたほどに、爆発的な人気を誇る作品にまで上り詰めていた。そんな有名ゲームの名前は、Reality Vision~真実は幻影の中に包まれて~だ。
これは、インターネットに繋ぐだけあって、かなりのボリュームを、誇っていた。タイトルの解釈としては、現実の中にある幻影、と、公式で発表されていた。理由は簡単。これは、普通にやっただけではそこらにある甘い恋愛を楽しめる乙女ゲームなのだが、ある方法でたどると、ヤンデレ乙女ゲームになるのだ。公式によると、どうやらヤンデレの方が真実のようで、甘い恋愛を楽しんでいると見せかけて、深い闇のなかを踊らされているだけという、もので、どんなに幸せのエンドでもつけられるエンドはノーマルエンドだけ。だからみんなトゥルーエンドを探して、試行錯誤していた。
ーーわたしも、その一人だ。
今まで沢山の男の人達と付き合ってきたが、彼等には敵わなかった。私はこのゲームにどんどん嵌まっていった。私は何度も何度も繰り返し、このゲームをプレイした。時間があればこのゲームをやっていた。
本当に彼等と恋人になっている様だった。本当にこのゲームを私は愛していた。だからだろうか? 私は夏休みに家族が旅行に行くというのを断って、私だけ家に残り、このゲームをやっていた。でも、私は時間も忘れてプレイし続けて、俳人の様になり、ご飯も忘れて、睡眠も省いてこのゲームをやり続けて......ついに私は命を落とした。
次に起きたときには、私はカレンに成っていた。でも、ただのカレンではない、このゲームの悪役令嬢、カレン・マルレーンだ。できるならなら主人公に転生したかったが、最近では悪役令嬢になって、物語を回避して、主人公よりいい人と出会うというお話が流行っていたらしいのでまぁ良いかと思った。
私には公式知識があったので、小さい頃から登場人物たちと出会い、彼等が好む言葉を掛け、私だけの逆ハーレムを作ることが出来た。その例が、私の従者、レインだ。
公式では、彼は生来のマゾヒストで、暴言を吐かれたり、束縛されることを望むと書かれていた。それ故に、彼のトゥルーエンドは共依存による主人公の闇落ちエンドだった。
だから私は、彼が城に居ることに気付くと、私の従者にして、彼に暴言を吐きはじめた。これはやっぱり生来のマゾヒストのせいか、私が暴言を吐くと下を向いて喜びの色を隠そうとしている。
ーー私の前なら隠さなくてもいいのに.........
でも、心情を隠したいなら無理に暴いたりしないわ。だって私は優しい御主人様だもの。無理強いなんてしないわ。
でも、そろそろ他の攻略対象者に会いたいわね? 確か幼少の頃に会っておいて損がないのは、私が学校に通い始める時期と重なる、竜族の五男、レイミア・リントヴルムだったはずだ。
彼は、竜族族長である父親が、溺愛していた彼の母親の写し鏡のような美しさをもつ、このゲーム1の人気キャラクターだ。
彼の心の闇は、自分の出産に耐えきれず亡くなった母の代わりに、妻を愛していた父親に、女として育てられたというもの。本人は男という自覚があるせいか、レイミアという、女のような名前すらも好ましく思ってないようだ。
そして、女でなければ自分の居場所はないと思い込んでいる。
あぁ、なんて可哀想なレイミア! 待っててね?今私が助けてあげるから! 私が貴方の居場所になってあげる。
私は竜族の里に行くことが楽しみで堪らなかった。
暗い気持ちの時に笑わされると色々どうでもよくなりません?レインさん以外とチョロい......
そしてカレンさんは痛い.........
今日からまた更新していきます。