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異世界ハーレムのミソジニスト(女性嫌悪者)  作者: 一条 剣
アークシティ編
9/17

9.対峙

さて、昨日アイリスには8時集合と伝えてあるし、そろそろ旅館を出ますか!


「すまんディック、俺寄り道してからアイリスさんの家に行くから、先に出る!」


「おー、わかった!また後でな!」


風呂場にいるディックに話しかけて先に旅館を出た。朝もやの立ち込める街の空気が、俺の肌を冷たく撫でる。ディックには嘘をついて申し訳ないが、どうしてもアイリスと二人で話したかったのだ。


目的はアイリスとの旅を終わらせること。昨日の会話から、ディックはクルドに会うまではアイリスと行動を共にすることを決めていた。だが、女嫌いの俺は、もうこれ以上女と行動を共にするのはウンザリだった。


(こんな美人と旅するなんて、普通なら喜ぶところだろうな)


そう思いながらも、俺の心は固く閉ざされていた。過去の傷が、未だに俺の心を縛り付けているのだ。


だから、ここでアイリスに真実を叩きつけることで、アイリスがこれ以上旅を続ける目的をへし折ること。それが俺の目的だ。少し残酷かもしれないが、これが最善の策だと俺は信じていた。


7時50分にアイリス宅の前に着く。空はまだ薄暗く、街路樹の葉が朝風にそよいでいる。流石にまだアイリスは出てきていない。急に集合時間早くしたし、女子は準備が忙しいんだろうね。


(それにしても、10分前行動できるなんて、俺って立派だ)


そう思った瞬間、自己嘲笑が湧き上がる。


(いや、今日たまたま出来てるだけだな。高校とか、いつも遅刻ギリギリだったし)


過去の自分を思い出し、少し苦笑。でも、そんな些細なことでさえ、今となっては懐かしい思い出だ。あの頃の日常が、今ではとても遠くに感じる。


そんなことを考えていると、アイリスの家のドアが開いた。アイリスが出てきた。よし、きちんと旅の準備をしているな。旅用のバッグを肩に下げているのが見える。


アイリスがこっちを見てビックリしている。そりゃあ、そうだ。ディックと二人で来る予定だったもんな。彼女の驚いた表情を見て、少し罪悪感が湧いてくる。でも、これは必要なことだ。そう自分に言い聞かせる。


アイリスがこっちへ歩いてきて話しかけてきた。


「あのー、ディックさんはどうしたんですか?」


その声には、明らかな戸惑いが混じっている。俺は平静を装いながら答えた。


「ディックは来ませんよ、集合時間の変更伝えてませんからね。途中寄り道してから行くって伝えて、旅館を先に出ました。」


ありのままの事実を伝える。アイリスは少し困惑している様子だ。その表情を見て、俺の中で何かが揺れる。でも、ここで躊躇っては駄目だ。


「なんでですか?」


アイリスの声が、少し震えているように聞こえた。


「二人で話したいことがあるからですよ。」


真剣な表情で相手の目を見て言い切る。女の目を見るのは苦手だが、そこは言い切らないとダメだ。アイリスの瞳に、一瞬不安の色が浮かんだように見えた。


その後に表情を崩して笑顔で質問する。話の流れを変えて、相手の緊張を解く。そうすることで、後の会話をより有利に進められるはずだ。


「アイリスさんって歳はいくつですか?」


「えっと…、18ですけど」


急に話題を変えられて困惑しているのが伝わってくる。話をこっちのペースで進めるという狙いは今のところ成功している。


「じゃあ、同い年ですね、俺も18です!」


「はあ、そうなんですか。」


アイリスの声には、まだ警戒心が感じられる。でも、それも想定内だ。


「なので、敬語はやめにしよう!」


「はい?」


「いや、同い年なのに敬語なんておかしいじゃん!タメ語でよろしく!」


そんなこと言われると思っていなかったのか、アイリスはビックリしている。だが、一度深呼吸をすると、自信のある表情を見せて、賛同した。


「そうね、じゃあ敬語は抜きでこれからは話しましょう」


「そりゃあ助かる。」


会話が進むにつれ、アイリスの態度が少しずつ変わっていくのが分かる。敬語を外したことで、彼女の本性が見えてくるかもしれない。


「それで?」


アイリスの声が、少し鋭くなる。


「それでとは?」


「とぼけないで!二人で話したいことがあるんでしょ?」


アイリスがキリッとした表情を見せて言ってきた。相手がイライラしているのが伝わってくる。やはりタメ語の方が人の本性は出やすい。それに俺自身もやりやすい。もう少し焦らしてやりますか。


「愛の告白をしたかったりして。」


その言葉に、アイリスの表情が一瞬凍りついた。


「あら?あなたが私に?申し訳ないけどお断りだわ!」


「どうしてですか?」


「私は今男の人とお付き合いしている状況じゃないの?見てて分からない?」


相手のイライラはピークに達しているな。してやったりだ。女は感情的になりやすい。女はずる賢い生き物だが、感情的な時は意外とボロも出やすい。これで今回の会話は有利に進められそうだ。


そろそろ本題に入るか。俺は心の中で深呼吸をして、次の言葉を選んだ。


「お付き合いできないのは、今だけじゃなさそうだけどね。」


「どういう意味よ?」


アイリスの声が、一段と鋭くなる。


「アイリスは今まで男と付き合ったことは?」


「その質問にどんな意味があるわけ?」


「答えられないんだ?」


「うるさいわね、ないわよ!!」


やっぱりな。まあ、俺も彼女いない歴=年齢だから偉そうなことは言えんけど。でも、この情報は重要だ。俺の推理が正しいという証拠になる。


「それだけの美貌だと、色々な男に言い寄られない?」


「ええ、あなたと違ってモテモテね。それがどうしたの?」


アイリスの言葉に、少し刺されたような気分になる。でも、そんなことは些細なこと。今は真実を暴くことに集中しなければ。


「その言い寄ってくる男の中に素敵な人はいなかった?」


「生憎男運がないの、私は。」


「ふーん、それだけが原因じゃないと思うけどね。」


「あなた、さっきから何が言いたいの!?」


アイリスの声が震えている。怒りなのか、それとも恐れなのか。俺には分からない。でも、確実に彼女の心に揺らぎが生じているのは間違いない。


ネットでは美人は意外に男がいないとかいう言説がある。ブスの方が手に入りやすいからモテるとか。あれは嘘だ。俺の経験上、やっぱり美人はモテる。そして、彼氏のいる可能性は非常に高い。


一時的に別れている状態はあるが、今まで彼氏がいなかったなんて美人に会ったことがない。そりゃあ、そうだ。モテるってことは素敵な人と会う確率も高い。向こうから言い寄ってくるから、告白の手間も必要ない。


大抵の女はずっと言い寄られ続けたら落ちる。女なんて自分の意志の弱い生き物だからな。よっぽどのことがない限り、美人に彼氏はつきものなんだ。そう何か事情がない限りはね。


「アイリス、お前男のことが嫌いなんじゃないか?」


その言葉に、アイリスの顔色が変わった。


「は?何を根拠に?」


「それだけモテるのに、今まで付き合ったことないなんて。」


「それだけで男嫌いなんて心外だわ。たまたまよ!」


「それだけじゃねーぜ!」


俺の言葉にアイリスはピクッとする。ここまで強い口調で断言されたら、そりゃあビビるわな。俺は、自分の言葉が相手の心を深く突き刺しているのを感じた。


「まず、初めにおかしいと思ったのは、初めて会った時だ。」


「あら?何かおかしなことでもあった?」


アイリスの声が、少し高くなる。


「ああ、ディックに逃げろと言われたお前は逃げずに待っていたな。」


「そうね。守ってもらったんだもの、当然だわ。彼のことが心配だったもの。」


よし!口を滑らせたな!このセリフを言わせたかった。怒らせといて良かったなー。男は怒らせても論理で話すが、女は感情的になる。ついポロッと当時の感情を思い出して言っちゃったんだろうな。


「だが、俺はお前が隣で待っていることに気付かなかった。」


「それは、あなたが間抜けなだけじゃないの?」


アイリスの言葉に、少し頭にきたが、ぐっと我慢する。


「そう、俺も最初はそう思った。だが、気付きもしないということは、なるべき気付かれないように少なからず気配を消していたはずだ。」


「別に気配を消したつもりなんてないけど。」


「そして、隣にいるにも関わらず俺に話しかけなかった。」


「話す必要がなかったからよ。」


「そう言うと思ったよ。でも、本当に話す必要はなかったか?俺とディックが知り合いだということは見ていれば分かったはずだ。だとすれば、真っ先に俺に聞かなければいけないことがあったんじゃないか?」


「何よ!?何を聞けば良かったの?」


アイリスの声が、少し震えている。俺の言葉が、彼女の心の奥深くまで届いているのを感じる。


「ディックの実力だよ。彼が喧嘩が強いか俺に確認し、もし弱いならあなたは助けを呼ぶべきなんだよ、本当にディックのことを心配していたならね。だって、ディックとは初対面だったんだろ?彼が喧嘩を強いなんてあなたは知らないはずだ。」


「あんなに果敢に守ってくれたんだわ、強いに決まっている。そう思ったのよ。」


「だったら、心配なんかする必要ないはずだ。あなたはさっき心配だから残ったと言ったぜ。」


俺が怒涛の口調で攻めまくる。だが、アイリスも一歩も引いてこない。彼女の目に、何か強い意志が宿っているのが見える。これは予想外だ。普通の女なら、とっくに泣き出しているはずなのに。


(やっぱり、この女には何かある)


そう確信した俺は、さらに追及の手を緩めない。


アイリスが気を取り直して反論してくる。その姿は、まるで追い詰められた獣のようだった。だが、その目にはまだ強い意志が宿っている。


「それは、つい間違えて言ってしまっただけよ。あの時も言ったけど、守ってもらってるのに自分だけ逃げるなんて出来なかったの!」


アイリスの声には、僅かな震えが混じっていた。俺は、その震えを逃さず捉える。


「いーや、あんたは心配だったはずだ。いや、期待していたと言った方がいいのかな?」


俺の言葉に、アイリスの目が僅かに見開かれる。的を射た証拠だ。


「もし、ディックがあの借金取りを倒してくれれば、あなたは街をかなり自由に移動できるようになる。借金取りにディックが負けるようじゃ、結局あなたの借金取りに怯える生活に変わりはしない。負けないでって心配するのは当然だし、彼の強さを見て利用したくなるのも当然だよな!」


アイリスの顔が、みるみる青ざめていく。俺の言葉が、彼女の心の奥底にある本音を突いたのだろう。


「利用するってどうやってよ!?」


その声には、明らかな動揺が混じっていた。


「ディックと一緒に行動するだけでいい。アイツは強いし、女好きだから、絶対お前のこと守ってくれるよな。」


「だとしたら離れちゃったら意味ないじゃない!?もし、私がそう企んでいたなら、今晩ディックを私の家に泊めたはずよ!私が自宅にいる時借金取りに襲われるかもしれないじゃない!」


アイリスの反論は、一見もっともらしく聞こえる。だが、俺はその裏に隠された本当の意図を見抜いていた。


「どういう事情か知らねーが、借金取りはお前の家がどこにあるか知らねーからな。それは、昨日お前の家が荒らされてないのを確認して明らかだ。だったら、あの狼を家に残すより日中だけ一緒に行動した方がいいってわけだ!」


アイリスの表情が、一瞬凍りついた。俺の言葉が、彼女の思惑を完全に言い当てたのだ。


「今日も一緒に行動するって決めたのはあなたよ?」


アイリスの声が、少し高くなる。俺は、内心でニヤリと笑った。


「ああ、あえてお前を釣るためにあえてそうしたんだ。こっちが言わなくても、結局お前が提案しただろうよ。だから、ディックがいないのを見て、お前は慌てた。」


アイリスの目が、怒りに燃えている。だが、その奥底に、恐れの色が見えた気がした。


「それが事実だったとして、どうしてそれで私が男嫌いになるわけ?」


アイリスの声には、必死さが混じっていた。俺は、その必死さに付け込む。


「男とは最低限の話しかしたくなかったんだろ。だから、俺にも話し掛けずに、ディックとも最低限の信用を得るための会話しかしなかった。確かに異性と話すのは面倒だもんな、分かるよ、うん。」


「言いがかりだわ、何の根拠もない!」


アイリスの声が、ヒステリックになってきた。俺は、その様子を冷静に観察する。


「そりゃあ、おっしゃる通りだ。これだけだったらな。」


「何よ、他にもあるわけ!?」


流石のアイリスも焦っている。あんな日常の些細な言動でここまでイチャモンをつけられると思っていなかったのだろう。だが、こっちの話はここからが本番だ。


「決め手となったのは、酒場での出来事だ。」


アイリスの表情が、一瞬強張った。


「何よ、酒場で私変な事言った?」


「いや、言ってないぜ。そこが変なんだ。むしろ、言わなきゃいけないことを言ってなかった!」


「何よ、言わなきゃいけないことって?」


アイリスの声が、僅かに震えている。俺は、その震えを逃さず捉える。


「お前さ、ロックがナイフを振り回していたとき、左腕を怪我しただろ」


「え?い、いや、そんなことない!」


アイリスが相当慌てている。まさか、そこを見られているとは思っていなかったのだろう。俺は、その動揺を見逃さない。


「いや、お前は怪我をしていた。俺は確かに見た。だが、騒動が終わった時、お前の左腕を見ると、怪我は治っていた。」


アイリスの顔から、血の気が引いていく。その様子を見て、俺は確信した。俺の推理は間違っていない。


「だったら、見間違いだったんじゃないの?馬鹿馬鹿しい。それ以外考えられないじゃない?怪我が一瞬で治るなんて有り得ないわ!」


アイリスの声が、少し高くなる。必死に言い訳をしようとしているのが伝わってくる。


「見間違いだと思ったさ。もちろん、その可能性もある。だが、もう一つ可能性があるんだよ!」


「何よ、そんな方法あるわけないわ!」


アイリスの声が、さらに高くなる。その様子を見て、俺は内心でニヤリと笑った。


「魔術だよ!お前が魔術を使って自分の怪我を治したんだ!」


その言葉に、アイリスの顔が一瞬凍りついた。


「魔術?魔術なんて私が使えるわけないじゃない!確かに魔術は存在するけど、才能のあるごく一部の人にしか使えないの!知らないの?」


アイリスの声には、明らかな動揺が混じっていた。


「だとしたら、お前はそのごく一部の才能のある人間だったんだよ。怪我をしたときに、左腕を右手で抑えていたよな。あの時、魔術を使って自分の怪我を治していたんだ!」


「ふん、私が怪我をしたって証拠があるわけ?全部あなたが見たってだけでしょ?」


アイリスの声には、明らかな焦りが混じっていた。


「ああ、お前が怪我をしたって証拠はない。だが、問題はそこじゃないんだ。」


「え?そこが問題じゃないってどういうことよ!?」


俺の言動が意外だったのか、アイリスは取り乱す。おそらく、怪我を見た見てないの水掛け論でごまかすつもりだったのだろう。


「問題は、アイリス、お前が治癒魔術を使えることなんだ。」


「仮に使えたとして何が問題だっていうのよ?」


アイリスの声が、少し震えている。


「もし、お前が治癒魔術を使えるなら真っ先に治療しなきゃいけない人がいたはずだ。そう、怪我をしているディックだ。ディックは結局マスターの手当で治療を済ませた。だが、あの包帯を巻いただけの状態じゃ完治とは呼べないだろう。ディック本人は丈夫だから気にしていないかもしれない。でも、お前が治癒魔術を使える、ましてやお前の怪我を完全に回復できるほどの魔術を使えるならば、その治癒魔術をディックに施すべきだった。そうすることで、ディックの怪我はすでに完全に回復しているはずだったんだ。それをしなかったのは、男が嫌いで、男なんかに治療をしたくなかったからじゃないのか!?」


アイリスの顔が、みるみる青ざめていく。俺の言葉が、彼女の心の奥底にある本音を突いたのだ。


「それも、憶測じゃない!?私が治癒魔術を使える証拠でもあるの?」


アイリスの声には、明らかな動揺が混じっていた。


「今はないよ。でも、調べればわかることさ。俺とマスターの帰り際の会話を覚えているか?」


「あ!?もしかして!?」


アイリスの顔から、血の気が引いていく。


「そう、マスターは他人の魔術の能力が分かると言っていた。お前が治癒魔術を使えるかどうかは調べれば分かることなんだ!言い逃れはできないぜ!」


「うそ…」


アイリスは絶句している。まさか、自分の男嫌いが他人にバレるとは思ってなかったのだろう。かなり猫被ってたもんな。それは俺も同じか。


アイリスはしばらく黙って、そして白状した。


「ええ、私は男が嫌いよ、それは認めるわ!でも、それがどうしたと言うの!?」


そう、アイリスの言う通りだった。問題はここからだ。ここからは俺の推測が大きい。いかに、アイリスから発言を引き出せるかが問題だ。でも、やるしかない!

俺は深呼吸をすると覚悟を決めた。この先の会話が、アイリスとの関係を決定づけることになるだろう。俺は、自分の言葉が持つ重みを感じながら、口を開いた。


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