17.町長選
ヤンを町長選で勝たせる、それが彼女の願いだった。
確かに、愛するヤンの勝利を願うのは当然のことだが、
「確か、ヤン自身やる気がないんじゃなかったか?何もしないで勝てると思ってるわけだろ?」
俺は佐々木に確認をする。
レイラさんがそのようなことを言っていた。
それが事実だとすると、俺がどんなに頑張ろうと勝てるわけがない。
そもそも、ヤンって街での評判が最悪だった気がするんだが。
「それは正確ではないわ。何もしないで負けようと思っているの。」
「負けようと?」
「ええ、わざと負けようとしているの。」
俺は頭を抱えた。
この女が何を言っているのか理解できない。
いや、理解できるがしたくない。
俺の解釈が間違っていないか再度確認する。
「あのさー、俺がお前から情報得るためには、ヤンを町長選で勝たせなきゃいけないんだよな?」
「そうよ。」
「で、その勝たせなきゃいけないヤンが選挙にわざと負けようとしていると?」
「そうよ。」
「だとしたら、そんなの無理に決まってるだろ!!どうやって、元から勝つ気のない奴を勝たせるんだよ!?」
「それを考えるのがあなたの仕事でしょ?」
「だから無理だって言ってるんだ!!」
「諦めるんだったらそれでいいわ。情報をあげないだけだから。」
この女、人の弱みにつけこみやがって!!
そっちがその気なら!!
「あのな~、日本から来たのが俺とお前だけだと思ったら大間違いだぞ!」
「あら?どういうことかしら?」
「この世には俺とお前以外にも日本から来た奴はいるってことだ!」
「そうかもしれないわね?それがどうかしたの?」
「まだ分からねーか!そいつらから情報引き出せば、別にお前から情報もらわなくっても問題ないんだよ!」
「そうね、じゃあせいぜい頑張ってね。」
余裕の笑みで返される。
なんだ?
何故余裕でいられる?
「いいのか?俺が他のところに行っても?」
「あなたがそうしたいと言うなら仕方ないじゃない?でも、どうせ当てなんてないんでしょうけど。」
「なんだと!?」
「あら、じゃあ試しに聞いてあげるわ。日本から来た人が他にどの街にいるか見当はついてるの?」
「いや、それは…。ついていないけど、これから探す!」
「ふーん、目撃情報が簡単に見つかるといいわね。この国にどれだけの街があるか知ってて言ってるならだけど。」
「どういうことだ!?」
「この国には1万を超える街があるわ。そのどこにいるかも情報不足でまだ分からない。一つの街を目指すのにどれだけかかるかは、アークシティからここに来る過程で分かったでしょ?これから新たに日本人の情報を得るのと、ここで選挙に勝つのどっちが楽かしらね?」
佐々木が捲し立ててくる。
彼女の言い分は正論だった。
これから新しい日本人を探そうとすれば、どれだけの手間がかかるか。
それにディックたちだっていつまでも俺と一緒に旅をしてくれるとは限らない。
俺の痛い所をついてくる。
流石佐々木茜だ。
学年トップクラスの成績。
認めたくはなかったが、彼女に負けたくなくて勉強をしていた。
それは事実だ。
こんな奴よりいい大学に行く。
それが俺の目標だった。
だが、こいつはただの勉強馬鹿じゃない。
地頭がいいからこういった反論が出来る。
非常に厄介な相手だった。
仕方ない、ここはこいつの要求を呑むかしないだろう。
「分かったよ、町長選で勝たせればいいんだろ?」
「あら、そう言ってくれると助かるわ!」
「そう言わせただけだろう…」
「あらー?何か言ったかしら?」
「何も言ってねーよ!」
くそ、このアマめ!
しかし、こうなってしまった以上は仕方ない。
まずは、ヤンを勝たせるために情報収集をする必要がある。
「これからヤンを勝たせるために幾つか質問させてもらうぞ。」
「ええ、いいわよ。」
「正直に答えてくれよな。」
「わかったわ。」
「まず、ヤンが選挙で負けたがっている理由はなんだ?」
「お父さんのことが嫌いだからよ。」
「元町長が?」
「ええ、今この街はとても平和なように見えるけど、経済的にはとても落ち目な状況なの。その状況をつくったのがヤンのお父さんだと、ヤンは思っているわ。」
「それはヤンが思っているだけなのか?」
「いいえ、街の人たちの共通認識になっているわね。」
「それでヤン一家は嫌われているのか。」
「ええ、雇用が悪化したからその煽りを受けた人たちからの反発は凄まじいものがあるわ。」
「で、さらに本人にやる気がないとなると、」
「ヤンはもう街からの嫌われ者になってしまったわ。」
佐々木が悲しそうな顔で俯く。
気持ちは分からないでもないが、どうしても気になることがあった。
「ヤンにやる気がないのも、嫌われているのも分かった。」
「ええ。」
「だが、どうしてお前はヤンが町長選に勝つことを望むんだ?本人がやりたがっていないんだ、それでいいじゃないか。」
「そうね…、私はヤンを愛しているわ、だからヤンが街の人に誤解されたままというのが嫌なの。ヤンの素晴らしさをみんなに知ってもらいたいの。」
「なるほどね、街のみんなにヤンのことを見直して欲しいと。」
「それだけじゃないんだけどね…。」
「なんだ、他にも理由があるのか?」
「これは政策的な問題なんだけど、」
「政策?」
「ええ。この街を見てもらえば分かると思うけど、今この街は平和で健全な街を保っているわ。」
「そうだな、アークシティとは全然雰囲気が違ってビックリしたよ。」
アークシティは表通りはともかく裏通りは怖かったもんな。
ジュエルシティには、そういった不健全さが全くない。
「それはね、前町長の意向で、この街は綺麗な街にしようという政策があったからなの。」
「確かに、この街には不自然なくらい不健全さがないもんな。」
「でも、ゲットンさんはそのせいで今この街の経済は停滞しているって言っているわ。」
「ほう?それはどうして?」
「健全な経営しかしてないから、需要が足りてないないんだって言っているわね。みんな自分の稼いだお金を貯めてしまうの。それはね、この街にはほとんど娯楽がないからなの。」
「娯楽がない?」
「ええ、せいぜい本を読むことくらいかしら。あとは生活必要品や美味しい料理、宿くらいしか経済活動として成り立っていないわ。」
「うわー、そりゃあ窮屈な街だな。俺は絶対にごめんだ。」
「だから娯楽を増やそうってゲットンさんは主張しているわ。そのためにカジノはもちろん、風俗も導入するって言っているの。」
「なるほど、風俗が出来れば男はどんどん出費してくれるだろうな。」
俺が納得したように頷く。
すると、今まで冷静に話していた佐々木の語気が強まった。
「それが嫌なの!!」
「それって?」
「不健全な娯楽よ!カジノだって嫌だわ。でも、風俗なんて最低よ!」
「そりゃあ、何で?」
「なんでって、それは…」
佐々木が顔を赤らめる。
少しモジモジしながら、それでもハッキリと言った。
「そ、その、そういう身体の結びつきって愛があってこそでしょ?愛のない性行為なんて、女を物として見た最低な行為よ。」
「なるほど。」
「この街の人たちは既婚者も多いし、いい人たちが多いわ。それが、奥さんを相手にしないで風俗に入り浸るなんて嫌なの。それに、私たちみたいな若い娘が、お金のために身体を差し出すのも嫌!」
「ジュエルシティはそういう街にはしたくないと?」
「ええ、そういうことよ。」
「お前の考えは分かった。」
正直、動機としては納得できる部分もある。
反論してやりたい部分もあるけど、今それを言っても仕方ない。
「ヤンを町長選で勝たせる、だからお前も約束忘れるなよ?」
「ええ、よろしく頼むわ!」
元の世界に戻るためだ。
俺はヤンを町長選で勝たせることを決意した。




