72.踏破者、狼狽する。
朝、カーテンの隙間から差し込む日差しが顔に当たり目覚めた。
参ったな。
昨夜は遅くまで活動していたから心配はしていたが、いつもに比べるとだいぶ遅い朝になってしまったようだ。
ベッドの上で上半身を起こす。
「起こしてくれてもいいと思うんだがな……。」
夜間に活動していた俺を慮ったのかもしれないが、誰か起こしに来てくれてもいいのではと思ってつぶやく。
何せ今日から【幻獣園】へ行く予定なのだ。
依頼期日まではまだ時間があるが、性分的にこういうことは時間ギリギリに焦ってやりたくはない。
ベッドから降りて着替えを済ませ、食堂へ行くと、そこにはエルとメル、リルの双子が居た。
メルとリルがテーブルに乗り上げるようにしてエルを両側から挟み込んでいる。
「何してんだお前ら。」
厨房にいるシルバに朝食を依頼し、空いている席にかける。
屋敷に住むことになってしまったからには使用人を増やさねばならないなとか、シルバの作る朝食なら間違いないな、なんてことを考えていると、メルがにやついた顔でこちらを見てきた。
ちなみにこのメルは料理が少し苦手だったりする。
「ジーク様、昨晩は気持ちのいい夜でしたね~。」
「ん?そうか?」
今は暑くも寒くもないので、寝やすいと言えば寝やすい。
「ジーク様はお疲れになられたのではないですか?お腰の具合はいかがですか?」
今度は反対側からリルが、こちらもにやにやしながら聞いてくる。
そして俺も腰という単語でこの双子が何を言いたいかを理解した。
「昨夜は仕事だって言ってあっただろ?まったく、そんな方面にばかり興味を向けてるとティアみたいになるぞ?」
「え~、じゃあ本当に何もなかったんですか?」
「あるわけないだろ……。だいたい、こいつ人としての魅力は……ぐっ!!」
この阿呆、テーブルの下で俺の足のすねを蹴りやがった。
お前俺の眷属だよな!?
主人に対して暴力振るえるとか、眷属の定義緩すぎねぇか!?
「はぁ……。もう私たちの好奇心を満足させられるのはジーク様しかいないんですよ。おじいちゃんはおじいちゃんだし、レベッカちゃんにはまだ早いし……。あ~どこかに甘酸っぱい恋愛の話転がってないでしょうか。」
「知らんわ。それだけ恋愛に興味があるなら自分で何とかしたらいいだろ。」
俺としては、何気なく言った一言だった。
正直言って、この双子の趣味や妄想に付き合わされるのはいい迷惑だとも思っていた。
だが、それは禁句だったようだ。
「ジーク様、今、なんとおっしゃいましたか?」
さっきまでのにやつき具合がウソのように無表情になり、光のない目でこちらを見下ろすリル。
俺も急な表情の変化に戸惑う。
「ど、どうした?いきなり……。」
「質問に答えてください。今、なんとおっしゃいましたか?」
今度は反対側からメル。
こちらは朗らかに笑みをたたえているが、光のない目とのアンバランスさに背筋が震える。
「れ、恋愛に興味があるなら……自分でなんとかしたらと。」
「「ふっざけんじゃねぇ!!!!」」
二人して同時にテーブルを叩く。
普段見られない剣幕に完全に飲まれる。
あ、エルが無言で席を立ってテーブルから離れていく。
「お、おいエル。」
「私たちが!!フレンブリード家で!!どういった生活を強いられてきたか!!いくらジーク様と言え今の発言は許容できません!!」
「物心ついた時からメイド修行と戦闘訓練!!バトルメイドなんてどこに需要があるんですか!!素直に護衛雇えばいいじゃないですか!!」
「それをあのハゲは!!経費削減だとか抜かすんですよ!!おかげで!!私たちの青春は汗と血にまみれたものに変わってしまったんです!!」
「お、おう、落ち着け二人とも。」
「騎士の方を相手にして模擬戦で勝ってしまったときの私の気持ちがわかりますか!?同年代の男性から畏怖の目で見られたときの気持ちは!?こちとらまだ20にもなっていない少女ですよ!!」
「そんな生活しているせいで私なんて腹筋が割れちゃってるんですよ!?力こぶなんてモリモリです!!どうやってお嫁に行けばいいんですか!?」
「な、中には強い女性が好きっていう人だっているだろう。」
「「適当なこと言ってんじゃねぇ!!」」
いや、いるだろ!!
人の話聞けよ!!
二人でまくし立ててくるな!!
双子のコンビネーションこんなところで使ってんじゃねぇ!!
にしても普通に騎士に勝つとかすごくないか?
二人は一体どんな【才能】持ちなんだろうか?
その後、双子の罵倒を甘んじて受け入れた。
途中で反論したら倍になって返ってくるんだ。
自分の不幸にばかり目が行っていたが、みんな色々苦労しているんだなぁ。
これからはちょっとだけ、みんなにやさしくしよう。
だがエル。
貴様さっさと修羅場から逃げ出したことは忘れてないぞ?
後でぜったい仕返しするからな?
あとシルバ。
メルとリルが噴火してるときにトレイ(俺の朝食)を持ってこようとして、喧騒を見てUターンして厨房に戻っていっただろ?
俺の位置からは見えてるからな?
だいたい、この双子お前の孫だろ?
教育方針お前も噛んでるよな?
んで?逃げたよな?
双子も部屋に戻って静かになった食堂で、ぐったりと椅子に座る俺にシルバが近づいてくる。
「ジーク様……世の中には触れてはいけない話題というものがあるのです。」
そう言ってテーブルに俺の朝食を置く。
「お前逃げただろ……。」
「……年の功というものです。」
こいつにも何か仕返ししてやる……。
ちなみにメルとリルはジークより少し年上で現在19歳設定です。シルバは63歳。
もう少し読んでみてもいいと思っていただけましたら評価、ブックマークよろしくお願いします!!




