71.踏破者、目的を定める。
アルカディア魔道具研究所から拠点へ戻る。
もう深夜なので、シルバたちはもう先に休むように伝えてあった。
変に起こすのも悪いので、俺たちはできるだけ静かに屋敷へと入る。
申し訳程度の明かりがついてるだけの暗いエントランスだが、問題はない。
なんとなく、夜中にエルと2人で外出すると言った時にメルとリルの双子姉妹が目をキラキラさせていたことを思い出した。
「今日は遅くなったし、さっさと休むか。」
俺はそう言って先にシャワーを浴びに行く。
はずだった。
「少しいいか?」
こういったタイミングで声をかけられることは珍しいが、エルから話があるようだ。
いつも無表情に近い顔であるが、今日は少し真剣なように見える。
「……どうしたんだ?」
俺はエントランスのソファに腰掛けて答える。
エルは向かいのソファに腰を下ろし、俺に正対してしっかりと目を見てきた。
「私の目的に関してだ。研究所でも少し触れたが、あの場では曖昧なままになっていたからな。正直に、主殿は私の目的に力を貸してくれる気はあるのか?」
まっすぐ目を合わせられたまま問われた。
茶化せる雰囲気ではない。
「……まだ俺自身、結論は出ていない。まぁ整理がてら話すから聞いてくれ。」
答えが出ていないという回答に対して若干不満そうにしながらも、エルは頷いてくれる。
「人族に与えられる【才能】、エルが言うには【呪い】か?俺はそれ自体完全な悪ではないと考えている。人間も強欲だからな、何もなしでいれば誰もが王を目指し、人族同士で争い、死滅するようなこともゼロではない。管理のためのシステムと言っていたが、そういう意味では、世界を潤滑に回すためにそれぞれが役割を果たせるように指標を持たせるという方針は理解できる。」
俺は【アビス】で聞かされたこの世界の仕組みについて考えていることを口に出した。
エルは頷くでも首を振るでもなく、ただじっとこちらを見ている。
「だが、今のやり方が良いとは思えん。エルの言った将軍?の話もそうかもしれんが、本人の資質や性格、それと与えられる【才能】のつり合いが取れていないことは問題だと思っている。」
「つり合いか……。」
「まぁそのことを強く思ったのは元義弟のアレンと話をした時なんだがな。……元々戦闘用の【魔法剣】の才能は人族を脅かす外敵と戦うための才能だったのだろう?であれば、運動能力が高く、正義感や仲間意識の強い人に与えるべきだったはずだ。……それがあの自分のことしか考えられないクズのところに行ってしまった。」
俺は数か月前に叩きのめした義弟のことを思い出す。
俺に殴られ、顔を腫らして……あれ、元々どういう顔だったっけ?
思い出せない。
まぁいいか。
「あのクズが戦う力を持ってしまったせいで、人生が不幸になってしまった人もいただろう。俺もその一人だしな。」
アレンが居なければ、俺が【アビス】送りになることもなかった。
……そうか?
あの時はアレンという代役が居たせいでと考えていたが、俺に後継ぎとしての利用価値がなくなった時点で遅かれ早かれ同じ運命をたどっていたのではと思い至る。
やっぱあの親父許せないわ。
処刑されるときには見に行ってやろう。
そして笑ってやる。
「……ふぅ。主神の話だったな。」
「最初からその話しかしていないはずだが……?」
「こっちの話だ。……で、俺としては、今のずさんな管理をしている奴らはどうかと思っているところがあるのが本音のところだな。主神は潰してやりたいが、ちゃんと管理するんであればシステム自体はあっても良いという感じか?……ちなみに主神が居なくなった後はどうするつもりなんだ?」
俺の方の話は大体話したので、エルに質問を振ってみる。
俺が力を貸す貸さないは、主神無き世界になった際にどうなるかというところも重要になってくる。
「……私は、【呪い】自体不要と考えていた。神の管理下から外れ、後は人が自分たちで道を作っていけばいいと……。」
エルは少し言い淀んでいた。
迷いがあるようだ。
「だが、人の中には明らかに人が繁栄していくのに適していない個体が居ることも確かだし、この旅の中でもそれを実感している。……そういったものが力を持つと、人のためにならないのではないかと最近は考えるようになっている。」
「……なぜそれを、少し申し訳なさそうに俺を見ながら言うんだ?」
「……。」
エルはスッと視線を逸らした。
俺のことなのか!?
確かに……好き勝手している面が無いとは言えないが、そんな周りに迷惑かけて……かけてないよ……な??
「まぁ主殿の考えは分かった。後のことはまた考えるにしても、打倒主神については協力してくれそうなので私も力を貸すことにしよう!!」
「いや、お前に拒否権ないから。」
「共にずさんな管理をしている主神を倒そう!!主殿のように【呪い】付与忘れするような奴に任せてはおけんよな!!」
そうだった!!
つり合いどころの話じゃない。
ここに付与忘れられた奴がいたんだった……。
アレンとか親父のせいでとか考えてたが違う。
これこそが元凶じゃねーか。
許せん。
やっぱり主神は討伐しよう。
俺はふつふつと湧いてくる怒りを必死に抑えて眠りにつくのだった。
今回はタイトルに立ち戻る回です。
なんとなく流されてストーリーは続いていますが、本丸はちゃんとあります。
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