69.踏破者、研究所の依頼を受ける。
「今回調達を依頼したいのは【有角馬】の角です。」
「ほう、【有角馬】か。」
これはまた珍しいものを……と言うのが正直な俺の感想だった。
【有角馬】はCランクに該当する魔物で、その角が良薬となることが広く知られている。
そして、出現自体が非常に稀という事で有名な魔物だ。
「まさか【有角馬】が出る管理ダンジョンがあるとは……。直接契約で情報統制を図りたくなる気持ちは理解できるな。だが、存在が確認されていれば討伐自体は難しくないのではないか?」
そう、【有角馬】自体は高ランクハンターでなくとも討伐可能だ。
わざわざ初見のハンターと契約を結ぶまでもない。
「はい、【有角馬】自体はそうなんですが……。実はこの依頼、何組ものハンターが失敗しているんです。どうも【有角馬】のいる区域に行く前に【竜種】が出現するらしくて……。」
「なるほど、【竜種】を倒さなければ【有角馬】の所まで行けないと……。」
「そのようです。……我々がこの依頼をしたハンターの中には連絡が取れなくなった方々もいます。おそらくは亡くなってしまったものと思います。どうか準備だけは怠らずに、無理はしないようにお願いします。」
そう言ってジルオールは頭を下げる。
その姿勢からは確かにハンターに対する誠意が感じられた。
「善処しよう。管理ダンジョンの事を聞いても?」
俺がそう問いかけるとジルオールは1枚の資料を取り出してテーブルに置いた。
どうやら王都周辺の地図のようだ。
「これは王都周辺の地図です。目的の管理ダンジョンはこの森の中にあります。【幻獣園】と呼ばれるダンジョンで、ヴァン侯爵閣下の管理下にあります。」
「ヴァン侯爵?。」
「ええ、閣下はこのアルカディア魔道具研究所のスポンサーでもあります。ですので今回の研究も許可が下りたようなものなんですよね。あ、ダンジョンへはこの記章を着用して行っていただければ守衛を通過できるようになっています。」
そう言って記章を手渡される。
双頭の蛇が1本の剣に巻き付いているような飾りが施されている。
「それはヴァン侯爵家の紋章です。」
「……趣味が良いとは言えんな。」
俺のその言い方に苦笑するジルオール。
どうやら彼も同じように思っているようだった。
そしてここからは調査の時間だ。
まずはこの依頼について探りを入れてみようか。
「もう一つ聞いてもいいか?」
「はい。なんでしょうか。」
「この【有角馬】の角、どんな魔道具に使用されるんだ?」
その質問に、場の空気がにわかに緊張する。
今の研究内容教えて下さいと言っているので当然なのだが。
「……気になりますか?」
「ああ。ぶっちゃけて言うと、世のためにならない研究とかだったら降りるまであるな。」
俺がそう言うと、ジルオールは髪で隠れた顔を歪ませる。
かと思ったらそのまま声を出して笑いだしてしまった。
その様子にあっけにとられてしまった。
「いや、失礼。安心していただいて大丈夫ですよ。僕も魔道具は人の為になってこそという信念を持っておりますので。【有角馬】の角が必要となっているのは回復装具作りですね。」
「回復装具?」
「ええ、具体的には包帯型の魔道具で、巻きつけた部位の物理的損傷を治癒する効果の物です。治癒術師のいない村なんかへの配備を目指しています。骨折位なら数日巻いていれば治るという位の効果を狙っているんですが、なかなか……。」
確かに治癒術師は貴重な存在だ。
大きな町や王都であれば問題ないが、地方の農村などになると治癒術師が常時駐在しているところは少ない。
そう言ったところでは小さな怪我が元で最悪亡くなってしまうようなケースすらあるそうだ。
そこに回復装具か……。
「分かった。そう言う事なら喜んで協力しよう。」
「ありがとうございます。良いご報告をお待ちしております。」
こうして俺たちは研究所を後にすることにした。
帰りも、客室まで案内してくれた女性研究員が先導してくれる。
自分たちが居た客室までのルート位は覚えられないかと周囲を観察しながら歩く。
が、やはり建物の構造は把握出来ない。
歪な通路作りだけでなく、目印になるものも極端に少ないというのもありそうだ。
守衛まで到着し、研究員に礼を言って敷地を出る。
依頼達成報告は別に行わなければならないので、そのままギルドに向かって歩みを進める。
「エル、どう思う?」
「話を聞いた限りはシロだな?嘘をついてるようには見えなかった。」
「俺も同意見だ。が、確認は必要だな。あそこに侵入できそうか?」
俺としては、ヴァン侯爵家とのつながりや後ろ暗い研究を行っているのかの情報が欲しい所だ。
ジルオールが関与していなくても、特定の研究員がそう言った研究を行っている可能性もある。
「痕跡を残さずという事であれば魔道錠は無理だな。【探索】で調べた感じでは、屋上にも外に繋がる通路があるみたいだ。そっちから侵入はできるかもしれない。【解析】では特に感知系の罠は張られていなかったから建物に入ってしまえば大丈夫だろう。」
「よし、1日置いて明日夜に屋上を確認しに行こう。」
方針は決まった。
裏取りの開始だ。
記章の剣は「権力・武力」、蛇は「執念」を表していて、ヴァン侯爵の性質を表しています。
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