68.踏破者、直接契約を行う。
「【直接契約】ね……。」
俺は言葉を反芻しながら、長髪で顔色を窺えないジルオールの顔を凝視する。
【直接契約】とはハンターギルドを通さずに依頼主とハンター間で直接仕事を請け負う形態の事だ。
【闇契約】とか【闇営業】ともいわれるが、ハンターギルドを通さないことで仲介料が不要となるため依頼主としては依頼発注のコストが減り、ハンターとしては報酬が増えるメリットがある。
だが、悪質な依頼主であれば依頼達成後に報酬を値切ったり、支払いを踏み倒すようなトラブルが発生したりもする。
逆説的に言えば、そう言ったトラブルを回避するためにギルドがあるわけだ。
だが、直接契約については別に法に触れているわけではないので、今も一部行われているという話は聞いたことがある。
「依頼コストを下げたいという事でいいのか?」
「まあそう言う目的もあります。研究に使う材料はいくらでもあった方が良いですから。」
「そう言う目的もあるんだな。」
「ええ、……一番の目的は情報管理です。」
「……というと?」
「研究所が必要としている素材と言うのはそれだけで機密事項なんですよ。ギルドに依頼するとそれが不特定多数に公開されてしまう。なので一般的な材料の収集しかギルドには依頼できません。今行っている研究の核となる素材の調達は、特定された個人と機密保持契約を交わして行うのが望ましいのです。」
「なるほど。」
そう聞くと至極まっとうな理由だ。
「しかし、そう言った理由であれば、契約者の数もあまり増やしたくないはず。なぜ初回依頼の俺たちにそんな話を?」
「そうですね。確かに他にも【直接契約】しているハンターの方もいます。しかし、人手不足は否めませんし、今必要なのが高ランクのハンターさんなんです。」
「つまり、俺たちに依頼したい具体的な話があるという訳だ。」
「ええ、契約を交わすまでは詳細は開示できませんが、ある管理ダンジョンで特定素材の回収をしたいのです。そして、そのためにはAランクハンター相当の実力者が必要になります。」
「俺たちはBランクだぞ?」
「必要なのは実力ですから。Cランクとは言え、何の準備もなしに多種の魔物を処理できる実力はAランク相当と見ました。」
「……ちなみに管理ダンジョンとは普段入れないやつか?」
管理ダンジョンとは貴族が管理しているダンジョン全般の事を指すが、その管理状態についてはばらばらだ。
管理ダンジョンの解放具合は各管理者の裁量によって決まる。
一般的にはダンジョンの難易度と資源量によって決められることが多く、低難易度・一般資源が多いほど一般開放されやすく、高難易度・特殊資源が多いほど非公開となりやすい。
つまり、お宝の多い非公開設定されているダンジョンに潜るには何かのコネが必要となるわけだ。
例えば管理貴族お抱えの研究所からの極秘依頼を受けるといったような。
「……ええ、一般公開されていないダンジョンです。」
「それは……正直気になるな。道中で拾ったターゲット以外の素材は持ち帰ってもいいのか?」
「一応、管理貴族の所有物となるので提出を求められるはずですが……まぁちょろまかしても分からないでしょう。我々は何も聞きませんよ。」
その言葉に俺は苦笑する。
管理貴族と言うのはおそらくヴァン侯爵だろうが、あくまでスポンサーで、そっちが被害を被ろうとも研究所は関係ありませんというスタンスという事だ。
思ったよりずぶずぶの関係でもないようだ。
「それでどうでしょうか。」
「ああ、契約しようか。俺たちとしても管理ダンジョンに入れる機会はそうそうないからな。大きなメリットだ。」
「そう言ってくれると信じていましたよ。では契約書を持ってきますので少々お待ちください。」
そういうとジルオールは一旦部屋を出て行く。
俺は頭の中で情報を整理していく。
今回アルカディア魔道具研究所の依頼を受けたのは、ヴァン侯爵や闇オークションとの関係を探るきっかけとする為だった。
研究所については自覚的に悪意のある研究を行っているかどうかを判断してから処置を決める予定だ。
まずは研究所に取り入るという第一ステージはクリアだな。
だが、フェリスの言っていた研究所に近づいたハンターが消息を絶っているという話も気になる所だ。
警戒はしておいて損はないだろう。
ちょうど整理がついたところでジルオールが部屋に戻ってくる。
その手には2枚の契約書が握られていた。
「こちらの契約書をお読みください。内容に合意いただけるのであれば僕と共にこの契約書に魔力を流して契約完了となります。」
これは契約の魔道具だ。
契約者はこの書面に記載された内容について虚偽の発言が出来なくなるという類のものである。
定期的に書面内容について違反行動がないか確認を行うのが一般的な使い方だ。
契約書の内容は要約すると3点だ。
・研究内容に関する情報は第三者に漏らさない。
・研究内容を漏らした場合、それによる損害相当額を補償する。
・ただし、依頼主があらかじめ合意した報酬を支払わなかった場合はこの限りではない。
非常にシンプルだ。
契約書そのものにも細工はなさそうだし、特に契約しても問題ないだろう。
「この条件で構わない。」
「承知しました。では。」
契約書に対して俺とジルオールが手をかざす。
魔力を流し、契約が成立した。
1枚は研究所用、もう1枚が俺たち用だ。
「では、早速ですが依頼内容について話をさせていただきます。」
ジルオールはその詳細について語りだした。
闇営業はどこの世界でもあります。
無くなることはないでしょう。
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