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52.踏破者、半妖の少女を鍛える(3)

「これは思っていたより時間がかかりそうだな。」


俺はレベッカがひたすら弓に矢をつがえ、放つ様を見ている。

的に見立てた案山子に矢を射るだけの初歩的な訓練だが、大きな問題が発生していた。


「だが、仕方ないのではないか?」


俺と同じようにレベッカの様子を見ているエルが言葉を返す。


「何百年も鍛錬を積んだ主殿とは違って、あの子はこれまで何の訓練も受けていない普通の13歳なのだろう?」


レベッカの訓練で上手くいっていない所は、はっきり言うと筋力不足だった。

全力で弓を引いても10m程しか矢が飛ばないのだ。

俺の理想としては、こちらの後衛から敵の後衛を狙撃できるくらいの弓手に育て上げるイメージだったのだが、これは何か手立てが必要だな。


「男女差もあるんだろうな。これは基礎体力を上げるところから考えないと……ん?ちょっと待て。」


俺は今のエルの台詞に聞き捨てならないことがあって思わず顔を上げた。


「俺が何百年も鍛錬を積んだってどういうことだ?」


これに対してはエルの方が怪訝な顔をする。


「言っていなかったか……?【アビス】は外界と時間の流れが違うという話はしただろう?あそこは、この世界の200分の1くらいの時間の流れになっていたんだ。」


「200分の1の時間の流れ!?えっと……、こっちの世界で1年くらい時間が経ってたってことは……200年!?俺あっちに居たの!?」


『其方、自覚無かったのか?』


腰に差したシュラにまで突っ込みを受ける俺。


『はっきり言って一人黙々と修練を積む其方は異常だったぞ?我が気が狂う寸前だといくら主張しても無心で剣を振っておった。』


「え、こわっ。」


気付いてなかった……。

200年……。

よく正気を保ててたな……。

いや、正気ではなかったのか?どこか壊れていたからこそ、それだけの時間耐えられたのかもしれない。

というかそんなダンジョン作って人を引き込んでいながら、そこで生きるために必死になっていた人を怖いとか言って引くエルには一言言いたくなるな。


『ちなみにただの200年ではないぞ?あそこでは睡眠も休憩もなかったからな。24時間、200年ぶっ続けで訓練しておった。強くならん方がおかしいわ。』


確かに【アビス】では睡眠も空腹もなかった。

ん?だが筋力であったりというのはちゃんと成長していた。

そのエネルギー源はどこにあったんだ?

あの部屋(・・・・)は点滴してるみたいな感じでエネルギーも補給してくれていたのだろうか。

……あまり深く考察する意味はなさそうだな。


「問題はレベッカだな。筋力不足を解決する方法思いつくか?」


俺は話題を強引に戻してエルに問う。


「そうだな……。①強化魔法で筋力を強化する。②矢の飛距離を風魔法なんかで補完する。思いつくのはこの二つだ。①なら私が強化魔法はかけられる。②も一応私が対応できるが、戦闘中は彼女につきっきりになってしまうな。」


「なるほど。一回①でどうなるか試してみよう。レベッカ!!ちょっとこっち来てくれ!!」


レベッカを呼んでエルに強化魔法をかけてもらう。


「凄い……。なんだか体が軽くなりました。」


「その状態で全力で矢を放ってみてくれるか?」


「分かりました!!」


そう言うとレベッカはその場から案山子に向けて弓を構えた。

放たれた矢は案山子の上を飛び越えて、はるか先の地面に突き刺さる。

距離にして40m程だろうか。

上々の結果だ。


「まずまずだな。一旦その状態で狙い通り的を射れるように訓練しよう。あとは日々の基礎体力トレーニングを欠かさずやるようにすれば、いずれ補助魔法無しでも戦えるようになるだろう。」


そう言うと俺は腰を下ろしていた岩から立ち上がる。


「エル、お前の読んでいる書物の中に召喚術の魔法陣について書かれているものはあるか?」


「……一応あるが、何をするつもりだ?嫌な予感しかしないのだが。」


「俺も少し召喚魔法を試してみるだけだよ。俺の方が魔力は多いし、上手く風魔法を扱える幻獣と契約できればそいつをレベッカに付けてサポートさせることもできるしな。」


召喚した幻獣は術者の魔力を消費して顕現するため、長時間召喚を維持するには膨大な魔力が必要だ。

今のレベッカでは戦闘中常に召喚獣を顕現させ続けるのは難しいだろう。

そう判断しての次善の手だ。


「なるほど。一応理に適っている……な。……何か見落としている感じがするが……。」


「まぁ物は試しだ。本を見せてくれ。」


エルは何か引っかかりを感じているようだが素直に空間魔法から書物を取り出し俺に渡した。

俺はその書物に目を通す。


「風魔法が得意な幻獣……。フレスベルク、こいつにしてみるか。」


「フレスベルク!?流石に高位過ぎないか?恐らくだが人族に伝わる召喚魔法の書物には記載のないレベルのものだと思うぞ!?」


「ダメでも別に何も召喚されないだけだろ?一回やってみよう。」


『何故か我も嫌な予感がしてきたぞ……。』


シュラまで何かを感じ取っているようだが、俺はそれも無視して魔法陣を描き始める。

レベッカは地面を掘って魔法陣を描いていたが、これは実は魔力を通す通り道として機能すれば別に何でもいいらしい。

例えば高位の召喚術師の場合は水魔法で生み出した水を魔法陣の形に維持して召喚魔法を発動させるようなこともできるらしい。

俺の場合は闇魔法だ。生み出した黒い影を魔法陣の形に形成する。


「行くぞ。これに魔力を……流す!!」


俺も魔法陣に意識を集中させる。

魔法陣全体に魔力をいきわたらせ、かつできるだけ多く魔力を流す!!


「ちょっと!!これ流石に流し過ぎなんじゃ!?」


エルが後ろで何か言っているが聞き取れない。

魔法陣が光りだす。


良し。


「召喚!!」


その瞬間、魔法陣が大きく変化し(・・・・・・)、大量の紫煙を吐き出した。

そりゃ普通に召喚出来ましたなんて展開になるはずがありません!!

魔法陣が変化というところがポイントです。


もう少し読んでみてもいいと思っていただけましたら評価、ブックマークよろしくお願いします!!

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