40.踏破者、撤退する。
ギルド奥の訓練場。
昨日模擬戦を行った場所に、20名程のハンターが集められていた。
少し待っていると、ギルド職員と共にエリオがやってくる。
どうやら昨日のダメージは残っていないようだ。
「今回指揮を執ることになったエリオだ。今回は皆俺の指示に従ってもらう事になるが異論はないな?」
ハンターたちの前に出たエリオが宣言する。
ハンターたちから反論の声はない。
だが、その表情を見ると抱いている感情が様々であることは窺えた。
ある者はエリオに憧憬の眼差しを向け、ある者は侮蔑の眼差しを向けている。
流石に一枚岩というわけにはいかんよなぁ……。
「ではこれより上級ダンジョン【奈落】へ向かう。道中はパーティ単位でそれぞれのパーティがフォローし合える間隔を保っていく。」
ここでエリオに侮蔑の眼差しを向けていたハンターの一人が声をあげた。
「先陣はうちでいいか?」
「『赤い斧』か…。良いだろう。『赤い斧』を先頭に『銀星』と『神狼組』を両翼にする。行くぞ!!」
こうして俺たちはダンジョンへと向かった。
◇◇◇◇◇
話を聞くに、ダンジョンへの道中にも異変が起きているらしい。
確かに、ダンジョンへと近づくにつれ魔物の量が増えてきているように感じる。
「『赤い斧』エンカウント!!【鬼】1体!!」
「『銀星』エンカウント!!【魔熊】2体!!」
「『名無し』は『銀星』のフォローに入れ!!『赤い斧』は1体ならいけるな!?『神狼組』は索敵だ!!」
先頭を行くパーティから接敵の声が上がるとエリオが指示を飛ばす。
因みに『名無し』は俺とエルの事だ。
普段一緒に活動しているもののパーティ申請を行っているわけではない俺達だが、作戦行動中に呼び名がないと不便だと言われてつけられた名である。
俺はスキルを使わずに【魔熊】の1体に突っ込む。
「【光糸拘束】。」
俺の後方からエルが魔法を行使する。
【魔熊】の周囲に光球が浮かんだかと思うと、それぞれの光球が伸びて糸状となる。
その光糸は【魔熊】へ向かって飛んでいき絡みついて、縛り上げるようにしてその動きを阻害する。
俺は動きが制限された【魔熊】の首にシュラを一閃させる。
【魔熊】の首がゆっくりと落ちていった。
もう1体の【魔熊】を見ると、ちょうど『銀星』が討伐を完了したところだった。
矢が穿たれ、すでに片腕を失っている【魔熊】の頭に剣士の剣が深々と突き刺さっている。
俺が【魔熊】を処理する方が早いには早いが、それに匹敵する速度で魔物を処理しているところを見るに、『銀星』はかなりの練度を有したパーティのようだ。
そんなことを考えながらシュラに付いた血をふき取り、指定されている配置に戻ろうとしていたタイミングだった。
「サ、【単眼悪魔】だ!!」
索敵を行っていた『神狼組』からの報告のようだ。
にわかにハンター達の間に緊張が走る。
「【単眼悪魔】だと……!? Aランクの魔物だぞ!?間違いないのか!?」
「間違いない!! もうこっちには気付いてる。すぐに来るぞ!!」
「クソッ!!一旦撤退だ!!体勢を立て直す!!」
エリオがすぐさま指示を飛ばす。
だが、ここで懸念していた問題が発生した。
「撤退だ!?ふざけんなよ!?こっちは普段入ることのできない管理ダンジョンに入れるからって参加してるんだぞ!!ターゲットでもねぇ【単眼悪魔】なんざほっときゃいいだろ!?」
声をあげたのは『赤い斧』の男だ。
どうやら彼らが今回の依頼に参加したのはダンジョン内のお宝が目当てのようだ。
一応依頼の説明文中にはダンジョン内で得た物はギルドへ納めることになっていたはずだが、ちょろまかす気だったのだろう。
であれば先陣を名乗り出たことにも納得だ。
「馬鹿を言うな!!これまでの魔物との接敵具合を見ればわかる!!この先ダンジョンまでの間は高ランク魔物だらけだぞ!?」
「来たぞ!!」
メキメキ
『神狼組』の一人が叫ぶと同時に木々をなぎ倒しながら褐色の巨体が現れる。
顔の中心にある単眼がギロリとこちら側を捉える。
「撤退!!」
エリオは『赤い斧』と言い争っている暇はないと即断し指示を飛ばす。
『赤い斧』以外の参加メンバーはすぐにその戦域から離脱を開始する。
俺も周りに合わせて離脱をしながら『赤い斧』の様子を見ると、彼らはそのままダンジョンに向かうようだ。
【単眼悪魔】はこちらをターゲットに定めていて彼らには気付いていない。
そのまま『赤い斧』は森の奥へと消えていった。
「ジーク!!早く離脱しろ!!」
後方からエリオの指示が聞こえる。
俺はそのまま戦域を離脱した。
◇◇◇◇◇
「追ってきてるか?」
【単眼悪魔】からある程度距離をとったところでエリオが後方を確認する。
「……少しずつだけど振動が大きくなってる。追ってきてるね。」
エリオの疑問に『神狼組』の女性が答える。
手を地面につけ、【単眼悪魔】が歩く際の揺れを感知しているようだ。
『神狼組』は獣人族のみで構成されたパーティで、狐人の彼女はその中で斥候の役割を果たしているらしい。
「仕方ねぇ。『神狼組』はギルドに帰還してことの顛末を報告しろ。悪いが他のパーティはここで奴を迎え撃つのに協力してくれ。」
「逃げるんじゃなかったのか?」
「……これ以上は街に影響が出る。奴をこれ以上森の浅いところにはやれねぇ。」
なるほど、と俺は思った。
強力な魔物の出現は周囲の魔物にも影響を及ぼす。
Aランクの魔物ともなれば、弱い魔物はパニックを起こして森から出ていき街に雪崩れ込むかもしれない。
そうでなくとも【単眼悪魔】自身が森を出てしまう可能性もある。
最初の印象は正直良くなかったが、自身の保身より街の安全を優先する姿勢に俺は少し彼の評価を改めた。
「ジーク、何かあいつを倒す。いや、追い払うでもいい。手立てはないか?」
そう問いかけてくるエリオの表情の中には俺に対する怒りや憎しみといった感情は見られない。
真に今の状況を打破する可能性を探っている。
そう感じた俺は答えを返す。
「倒していいなら俺がやろう。」
変な目立ち方はしたくなかったが、これは仕方ないだろう。
次回ジークさんの無双回になります!!
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