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魔を狩る者の帰還

窓の外はすっかり暗くなっていた。

太郎はベッドに仰向けになって、安ホテルのくすんだ天井をぼんやりと眺めていた。


太郎の傍らでやはり天井を眺めていた姫香が声をかける。


「藤太君、すごく素敵だった。あのね、失礼なんだけど私、藤太君は女性経験が無いと思ってた」


太郎は苦笑いを顔に浮かべて答えた。


「佐藤太郎は童貞だったよ。でも俵藤太は童貞ではない。かなり経験豊富だ」


えっ?と驚いた顔をして姫香は身体を半分起こし、太郎の顔を見た。


「藤太君、つまりもしかして秀郷公の前世記憶が蘇ったわけ?」


太郎の顔は晴れ晴れとして、自信に満ち溢れているように見えた。


「君のおかげで完全に記憶が繋がった。俺は俵藤太(たわらのとうた)だ」


姫香は困惑の表情を隠せなかった。


「じゃあ、藤太君・・・佐藤太郎君は消えちゃったの?」


「あ、いやそういうわけじゃない。俺は佐藤太郎でもある。太郎と藤太の記憶が繋がっただけだよ」


姫香はようやく安堵の表情を浮かべた。


「よかった。ベッドを共にした人が別人に変わっていたらホラーだもん。安心した」


太郎は姫香の方に身体ごと顔を向けた。


「まあしかしこういう状況で言うのもなんだけど竜王姫。依頼の件は引き受けた。しかしできれば竜王に貰ったあの刀が欲しいな」


蜈蚣切丸(むかできりまる)のこと?あれは本体は伊勢神宮にあるからちょっと無理。だけど霊剣だから、秀郷公が呼べばその霊力はやってくるんじゃないかな」


「試してみる。それとその秀郷公ってのやめてくれる?俺は千年前から俵藤太のほうが気に入ってるんだ。佐藤太郎も君がつけてくれたニックネームが気に入ってるし、これからは自分でもそう名乗るよ」


「わかった。じゃあ今までどおり藤太君て呼ぶ。私のことも今まで通り姫香と呼んでね」


「うん、わかった」


「ああ、そうだ・・・」


姫香は少し言いにくそうに、はにかみながら話をつづけた。


「あのね、私は藤太君と違って竜王姫としての前世記憶は無いの。だからちょっと恥ずかしいんだけど、私どうだった?千年前の竜王姫と比べて」


太郎、あらため藤太はふたたび天井を眺めながら答えた。


「千年前にはしてないよ」


「・・・え?」


「竜王姫は君とそっくりだった。でも何もしてない。ただ依頼を引き受けただけだ」


姫香はまたも困惑した表情に変わった。


「えーっ。私はてっきり俵藤太と竜王姫はここで結ばれたんだと思って、だから私も藤太君とここで結ばれる運命なんだと思ってたのに」


「ああ、まあいいじゃない。千年越しで結ばれたんだから。よかったらもう1回どう?」


すると姫香は呆れたように言った。


「藤太君、あなた本当に性格が変わったよね」



そのころ、大津市内の夜の街角の闇や木陰のあちこちで、人ならぬ者たちがささやき合っていた。

そして怯えていた。


・・・俵藤太が帰ってきた。魔を狩る者が還って来た・・・

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