レイナの霊波走査
「藤太君は5年ほど前に逮捕された連続婦女暴行殺人事件の犯人・マブチを知っているか?」
片桐が尋ねる。
「和製エド・ゲインといわれた猟奇殺人犯のマブチか?そりゃ派手に報道されたから知らないわけがないだろう」
藤太は答えた。片桐は話をつづける。
「実は**台第五住宅事件とちょうど同じころ、マブチの死刑が執行されたんだ」
「ふーん?しかし死刑が執行されたというニュースはとんと聞かないがな」
「実はこの件は現在極秘にされているんだが、死刑は失敗した。執行後にマブチが蘇生してしまったんだ」
「蘇生だと?そんなことがあり得るものなのか?」
「記録では過去にも3例ほどは執行後の死刑囚が蘇生した例はあるようだ。しかし今では蘇生を防止するために執行後30分は吊るしたまま放置するんだよ。だから通常ではあり得ない」
「蘇生したマブチはその後どうなったんだ?」
「これも世間に公表できない理由のひとつなんだがね、一度死刑を執行した死刑囚が蘇生した場合、もう一度死刑執行することはできないんだ。明治に田中死刑囚蘇生事件という先例があってね、ようするに死刑台から生きて戻ったものはそのまま釈放されることになっている」
「すると和製エド・ゲインといわれるほどの恐るべき凶悪犯が野に放たれたというわけか」
「そういうことだ。当然だが警察は釈放後の動向を常に監視していた」
「監視していた?過去形ということは逃げられたということだな」
片桐は苦虫を嚙み潰したような顔で答える。
「そのとおりだ。奴は警察の監視からまんまと姿を消してしまった」
「なるほど・・」藤太はつぶやいた。
「つまりこれは5課のいうところのコードMってやつなんだな?」
「まだ確証はないがね、その可能性は高いと思われる」
片桐が答えると、そこに神谷が補足するように言った。
「ヨーロッパの妖魔の特徴のひとつが、人間に死に対する強力な耐性を与えることなんです。吸血鬼しかり、人狼しかり。基本的に奴らは不死身です」
神谷は書類をパラパラとめくりながら話を続ける。
「しかしそれだけではなく、敵の組織はかなりの科学力も兼ね備えているようです。**台第五住宅の夫婦は遺伝子操作を受けて不死性がパワーアップしています」
ここで藤太は尋ねた。
「ヨーロッパの妖魔というが、これまで出てきた奴らはすべて日本人だよな。彼らを裏で操っている組織の実態はどうなっているんだ?黒幕は何者だ?」
「それが奴らの狡猾なところでな、実態はいまだ掴めていないんだ。日本人社会に上手く溶け込んでいるんだろうな。もしや外来の妖魔を手引きしている黒幕は日本人なのかもしれん」
話を聞いているうちにだんだんと藤太は歯がゆい気分になってきた。
「面倒くさい話だな。とにかくまずはそのマブチとかいう変態野郎をぶちのめして、できれば生きて捕獲すればいいんだな」
「まあ簡単にいえばそういうことだ」
歯がゆい思いは片桐も同様だ。彼はすでに何年もその思いを持ち続けているのだ。
「保久、お前の霊視能力でマブチの所在は分からないのか?」
藤太が工藤に尋ねる。
「俺の霊視は近くに居る妖魔にしか使えません。広域の走査はレイナちゃんの担当です」
そういうと工藤は水上レイナを手招きして呼び寄せ、説明を促す。
「ええとですね、私の能力は分かりやすく説明すると、霊波をレーザー光線のように直線的に飛ばすことができるんです。それも何千本、何万本という単位で360度全方位すべてにです。対象物の情報をアタマにインプットしておけば、市町村くらいの範囲ならばすぐに見つけ出すことができます」
レイナは見た目やアニメ声に似合わず理路整然と分かりやすく説明した。
「なるほど、それはすごい能力だ。それでマブチは見つけたのか?」
「はい、距離が遠いほど誤差が出るのですが、おそらくだいたいはこの辺りです」
レイナはスマートフォンのマップを藤太たちに見せた。




