表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/42

第16話  道具屋でお買い物! そしていよいよ出撃!


「おー」


 冒険者ギルドに引き続き道具屋にやってきたボクとアイセさん。

 傘も差さずに走って来たものだからすっかり濡れてしまった。

 宿からタオルだけは持ってきたのでそれでいそいそと体を拭く。


 むぅ。帰ったら一回お風呂だな。

 なんて事を考えながら店内を見渡した。


 ここは【シュタット】にある二店舗ある道具屋の内の一つ。

 冒険者ギルドと提携している店で、品揃えが豊富なのだとか。

 ショーケースには【ポーション】を始めとした回復アイテムや【転移石】。他にもスキル書らしき本や、特殊効果が付与された指輪なんかが展示されていた。


 しかし――店員さん一人もらんやん。

 雨降って客が少ないからって、裏でさぼりか~?

 まあ、声かければ出て来るでしょ。それより物色だ♪


 武器屋や防具屋もそうだったけど、物珍しさにボクはウッキウキだ。

 あ~、薄れていたファンタジーな成分を補充する事が出来るー♪

 えへへー。何買おうかなー。ポーションは必要だしー。他には――


『……やはり品切れか』


 ドクロ画面に変装し直したアイセさんがポツリと呟いた。

 視線の先には、ショーケース内の【精霊ヤスリ】というコーナー。

光精ウィスプのヤスリ】、【影精シェイドのヤスリ】、【火精サラマンダーのヤスリ】、【水精ウンディーネのヤスリ】、【氷精フロスティのヤスリ】、【風精シルフのヤスリ】、【雷精スプライトのヤスリ】、【地精ノームのヤスリ】――計八種のアイテムが陳列されているけど、その内【光精ウィスプのヤスリ】と【火精サラマンダーのヤスリ】だけが品切れしていた。

 うーん、なんだこれ? 見た目だけならまるでカラー折り紙みたいなアイテムだ。紙のように薄っぺらくて大きさは――A5サイズくらい? 表面が淡く光ってるのが綺麗で、まさしくファンタジー世界のマジックアイテムという風情である。


 一枚当たりの値段は――1,000Z、か。

 品切れしている【光精ウィスプのヤスリ】と【火精サラマンダーのヤスリ】に至っては『買取キャンペーン中!』『2,000Zで買取ります!』と表記がある。在庫無いから販売価格の二倍で買取る、って事かな。

 ええと、それじゃあ普通のポーションは――200Zか。

 じゃあ【精霊ヤスリ】って結構高いんだ。


「アイセさん。この【精霊ヤスリ】って何なんです?」

『あぁ。武器に魔法付与エンチャントをするアイテムだ。

 魔法を使えない戦士職の者でも手軽に、そして素早く武器に炎や光などの属性を付与する事が出来る』


 おぉっ、強そうやん!

 ゲームやったらお金がある内にがっつり買い溜めるやつ。


『吸血鬼はアンデッドだからな。光属性を付与する【光精ウィスプのヤスリ】か炎属性を付与する【火精サラマンダーのヤスリ】が欲しかったのだが、どちらも品切れのようだ』


 アイセさんはため息を一つ。


『【聖水】も売り切れか』


 ポーションコーナーの隣にあった【聖水】も品切れのようだった。


『――何たる。光と炎のスキル書まで売り切れか』

「それって、マズいんですか?」 

『属性のスキル書はその属性の低ランク魔法を習得出来る。

 その中には魔法付与エンチャントも含まれる』

「戦士職の人間でも魔法を使えるようになるって事ですか?」

『ああ。ミスティもスキル書で風の魔法を覚えたと言っていた』


 確かに。ボクとバトルした時、ミスティさんは【前衛職フォワード】の【ソードダンサー】なのに風の魔法っぽいのをボクに使ってた。スキル書を使ったから魔法を使えたんだ。ボクもライラさんからハンドガンのスキル書を貰ったし、スキル書で魔法やアーツを覚えるのはわりかし一般的なのかもしれない。

 ――うわ、でもスキル書一冊30,000Zもするやんけ!? たっか!?


『私とライラは魔法付与エンチャントを施す補助魔法は使えるが、これでは一般の戦士職の者が対応出来ないぞ――誰か! 居ないのか!?』 

「――ニャーい」

  

 アイセさんが声を張り上げると、レジ奥からドイツ風民族衣装(ディアンドル)チックな服を着たピンク髪の猫耳少女が面倒くさそうに現れた。

 ん? 何処かで見たような――あ!?


「ミーナさん!?」


 防具屋でボクのOPPAIを揉み倒した猫耳ちゃん!

 こんなところでも働いてるの!?


「おぉ。ハルニャん♪ 奇遇ニャ♪」

『あぁ、防具屋の店員か。ここでも働いているのか』

「まあニャ♪ おんニャを磨くのも、男遊びするのも、お金掛かるニャ。

 バイト三昧だニャ。ところでどうかしたかニャ?」

『あぁ。特定の商品が品切れのようだがどうなっている?』

「あー。ついさっき冒険者ギルドからお達しがあってニャ。

 ニャにやらおっかない吸血鬼が潜伏しているらしいって話ニャ。

 んで、その対策のアイテムを一回ギルドの方に集めてから冒険者の方々に分配する、って話ニャんで店の在庫は一旦仕舞ってるニャ」

「って言う事は、実際は在庫あるんですか?」

「そうニャ。まぁ販売は出来ニャいけど。欲しかったら後で改めてギルドで受け取るニャ」

 

 成程、そういう事か。

 冒険者ギルドの受付のおねーさんは、『冒険者の中に対アンデッド用のアイテムをため込んでいる者も居るかもしれない』って言ってた。そういう人達から『アイテムを買取りという形で回収し、一旦ギルドに掻き集めてから、それから改めて全ての冒険者に配布』って形にしたんだね。

 しっかし伝達早いなー。ボク達さっきギルドから出て来た所だよ?

 これもネットの出来る技か……


「まあ、そんニャ訳で……ニャ~、お二人とも冒険者ニャ?

 良かったら手持ちの聖水やらヤスリやら、売ってくれニャいかニャ??

 今ニャらご奉仕価格で買い取らせて頂くニャぁ♪」


 ボクとアイセさんは思わず顔を見合わせた。

 アイセもライラさんも、魔法付与エンチャントの魔法が使えるって事は、もし手持ちのヤスリとか聖水とかあっても必要性は薄い。いざって時に必要になるかも知れないけど、持ってない人の為に、この場で売ってしまうのも手だろう。


「手持ち、あるんですか?」

『少量だが、ある。店主、私のを足しにしてくれ』

「ニャ♪ 毎度アリニャ♪ ついでに買い物もどうかニャ~?」


 ちゃっかりしてるなぁミーナさん。

 まあ、ボクは元々回復アイテムとか消耗品を揃えに来たんだけど。


 ってな訳で、アイセさんは手持ちの対アンデッド用アイテムを売却。

 ボクは傘と、ポーション等の回復アイテムを一通り買い揃えたのであった。



 ***



「まーたニャー♪」 


 道具屋から出ていくハルとアイセにミーナは手を振った。

 そして何事かのようにレジ裏の事務所へと戻っていく。


 その先に、黒いローブ姿の女が居た。


「ニャー…こんな感じで良かったかニャ?」 

「えぇ。上出来よ。その調子で頼むわね」


 目深に被ったフードから覗く唇は血のように赤く、艶めかしい。


(ニャー。エッチな口元ニャ。羨ましいニャ)


 同性であり、淫乱ピンクなミーナには直観的に分かった。

 この女は多くの♂と、♀までも垂らし込んできたに違いない。

 その唇で。

 いや、それから発せられる言葉にすら魔性の力が宿っている。

 彼女の言葉を聞くだけで、それだけで心が安らぐ気がする。

 いや、魅せられていく。


(ニャー。ダメニャダメニャ。ニャんだかぼーっとしちゃうニャ)


 ミーナはぶんぶんと頭を振ると気を取り直した。


「ニャ。おねーさんも、ちゃんと約束、守るってニャ?」

「えぇ。貴方は客に『ギルドが対アンデッド用のアイテムを集めている』と説明しアイテムを高値で買い取る。私はその代価としてアイセの居場所を教える。きちんと守るわ」

「それニャら良いニャ♪」


【ピンク髪は淫乱】のタレントを持ったミーナは自分の欲望に正直な娘だ。

 お目当てのアイセと会う為には手段も選ばない。


「それじゃ、このおっかないアイテムは回収するわね」

「はいはーい。好きニャだけ持ってく(・・・・・・・・・・)ニャー」


 だが、この正体不明・・・・の女が何者なのか。

 何故、部外者・・・が店で回収したアイテムに手を付けるのか。

 そして自分は何故それを当たり前のように許容しているのか。

 それらを全く疑問に思わない(・・・・・・・・・)のは余りに不自然だった。


「そう言えば、おっかニャい吸血鬼って言うのはホントに居るニャ?」


 今の段階で『ギルドが対アンデッド用のアイテムを集めている』のは事実だが、その対策はまだ決められていない(・・・・・・・・・・)。道具屋の人間は誰もその事実を知らないのだ。

 つまり、ミーナにとって『吸血鬼の為にギルドがアイテムを集めている』と説明するのは、客を騙す事と等しい行為だった。


「ふふふ。どうかしら。実は、ホントに居たりしてね。

 コワ~イ吸血鬼が…それも……案外近くに」

「ニャっ? も~、あんまり怖がらせニャいで欲しいニャ~」

「ふふふ。可愛い子猫ちゃんね。後でペットにしてあげるわ」

「も、も~。ウチはそっちの気はニャいニャ~」


 勿論、ミーナは気付けなかった。

 目の前のその女こそが、噂の恐ろしい吸血鬼だと言う事に。 



 ***



「ただ今戻りました~」


 アイセさんと共に宿へと帰還。

 よし。お風呂もらおう。雨に濡れちゃったし。

 シャワーだけでもいいけど。

 善は急げ。部屋に置いたままの着替えを回収して、


『貴方のハァトを……ズッキュ~ンッ☆ ねーらい撃ちだよぉ~♪』 


 気のせいかな。どっかで聞いた事のあるような声とセリフがしたよ?


「うわー。何回見てもエチカワだねぇ~。

 これ、パンツ皆に見られちゃってるよ?」

「けしからん。全くけしからん」

「お前らそれ見るの何回目だよ」

「何よー。ライラちゃんだってずっと見てるじゃん」

「ば、ばっかやろーっ! あいつがちゃんと戦えるか、見定めようってだけのこった!」

「男のツンデレほんとダサい」

「てめーだって似たようなもんだろうが、このむっつりエロガキ!」


 一階の食事処がやけに賑やかですねぇ。

 ライラさん、ココノさん、ネロちゃん三人共テーブル席に集まって何か熱心に見てますよ? 何だろうなぁ~。何を見てるんだろうなぁ~。


「あっ! 二人ともお帰り!」

「あぁ。今戻った。三人で何を見ているんだ?」

「そこのピンクの、噂の詠唱シーン」

「やっぱりかああぁぁっっ!!」


 慌てて駆け寄り、三人の視線の先――やや大型のウィンドウを覗き込む。


『あっ☆なたっの☆ハァトを☆ ズッ☆キュ~ンッ☆ ねーらい撃ちだ☆ ゾ☆』


 ――あは。これ誰? ピンク色姫カットの可愛い女の子がOPPAIとOSIRIを尻尾をぷりぷりしながら詠唱してるよ? 


「あはは。誰ですかこれ? こんなにはしたなくOSIRIと尻尾を振って。媚び媚びじゃないですか。恥ずかしくないんですかね? もしボクが同じ立場だったら絶対にこんな事しませんよ」

「いやこれお前だよ」

「ハルちゃ~ん? 現実を、見よう!」

「ピンク本人。動かざる事実」

「――違います。ボクじゃありません」

「あのなぁ。顔も声も同じだろが。どこに否定です要素が、」

「違いますっ」

「あの~? ハルちゃん? 気持ちは分かるけど、」

「絶対に……ちゃうもんっ。皆なんで意地悪するねんっ」

「ピンクお前――泣いてるのか?」

「ちゃうもんっ、目から雨が流れただけやっ」


 かつて、こんな格好の悪い異世界転生者が居ただろうか。

 流れに身を任せてエッチな詠唱をして。

 それがパーティの皆――どころかネット中で晒されて。

 その動画を見た挙句に泣いてまうとか…!


 はぁ――穴があったら入りたい。



 ***



「ちょっと真面目な話」


 ボクが落ち着いた後、ネロちゃんが切り出した。

 今はテーブル席に五人集まって作戦会議の最中である。

 しかしネロちゃんから話ってちょっとレアなのでは?


「ピンク。あの詠唱、もっかい出来る?」

「金積まれてもやらんわっ!!」

「ど、どうどうだよハルちゃんっ」

「フーっ!! ガルルルルっ…!」

「残念。でもその方がいいかも知れない」

「――うん? どういう事?」

「何だよネロ。えらく含みをもった言い方じゃねえか」

「ライラでも分かるように説明すると」

「一言余計だ! このガキっ!」

「ピンクが撃った【ハートブレイク・アロー】は普通じゃない」

「って言うと?」

「魔法は基本的にクリティカルヒットしない。でもピンクの撃った二発の【ハートブレイク・アロー】はどっちもクリティカルヒットしてる。こんなの異常」

「あー、だから400とか500とか意味わかんねぇダメージが出てたのか」

「多分レベル100越えの純魔法使いサキュバスが撃つ【ハートブレイク・アロー】よりも強力。レベル1でこのダメージは、いくらなんでも異常」

「それは分かったけど。それとハルちゃんがあの詠唱をしない方が良い、っていうのとどう関係があるのかな?」

「強すぎる力には代償が必要。強力な分、危険リスクがある――かも」


 思わずパーティ全員で顔を見合わせた。

 確かに、ネロちゃんの言葉には説得力がある。

 ボクだって、あんな破廉恥な真似、金輪際やりたくはない。

 でも、もしも。もしもそれが本当に必要だと思う時が来れば――

 例えば、強力な吸血鬼に対抗する為に止む無く、とか。

 とか悩んでいるとキーンコーンといつものSEが聞こえた。


[【タレント】の情報が更新されたよ~]


 定番になりつつある情報開示か。

 どれ。早速見てみよう。

 メニューウィンドウを出現させ、タレントの画面をタッチする――


『=================


  ◎温和

  ◎肝っ玉

  ◎策士

  ◎貧弱

  ◎小柄

  ◎巨乳

  ◎ピンク髪は淫乱 

  ◎気遣い

  ◎舌技

  ◎女子力高め

  ◎闇の眷属

  ◎『○○○』の魂 New!!


 =================』


 やっぱりお前か【『○○○』の魂】。

 どれ。一体どんな情報が追加されたのやら。


『=================

     『○○○』の魂

 =================

 説明


『○○○』ってエッチだよね?

 その魂を持っているそこの貴方!

 貴方はとってもエッチです!


 え?『○○○』が何かだって?

 分かる人だけ分かればいいよ~。


 ちなみに効果はすっごいよ~♪

 DESがメチャンコヤバイ程上昇♪

 H系等の称号・アーツ・アビリティの

 取得・装備条件もアリエナイ程緩和♪ 


 更に♪ 昼夜関係なく、

 オーバー・ディザイア付与が可能に♪  


『更に更に♪ 一定条件を満たす事で、

 真の力を解放! でも使い過ぎ注意!

 大変な事になるかも…!』


 これで今日から貴方もエロ大魔王だ!

 =================』


「「「「「……」」」」」


 皆して押し黙った。

『真の力を解放』って――ボクが頭ビッチになっていた時に【○○○の魂限定解放】ってなったけど、多分それか。

 しかし、『一定条件』とか『大変な事になるかも』とか。

 具体的な事が何一つ書いとらんやん。


「あー。こいつは使わねえ方が良さそうだな」

「そもそも使いたくないですから! その一定条件とやらも良く分かりませんし!」

「でもそうなると、ハルちゃんの戦闘能力って…」

「ミスティさんを倒して折角自信ついたのにまたクソ雑魚ナメクジじゃないですかー!? うわーん!」

「だから、ピンクの役割をちゃんと決める」

「ボクレベル1なのに役割もクソも無いよ!?」

「早計。馬鹿なハサミも使いよう」


 これ、フォローしてくれてるのかな?

 まあ、ボクとしてはパーティの役に立てれば何だっていいんだけど。


「魔法使いの道は、工夫と試行錯誤の道。

 ピンクも【マジシャン】なら、忘れるな」


 珍しく? 真面目な顔をしていたネロちゃんに無言で頷く。


「確かライラからハンドガンのスキル書も貰ってた。

 それも合わせて立ち回りを考えればいい」

「へっ。何だよ。珍しくよく喋るじゃねえか」

「でもネロちゃんの言う通りだね。

 皆でハルちゃんの役割、きちんと考えとこうか」


 ってな訳で。H魔法を使わずにボクがどうやって戦うか、どういう戦術を取るか、という話題に移っていく。

 ボクとしてはH魔法はもう二度と使いたくもないけど……H魔法を使わないサキュバスとかカレーライスのカレー抜きみたいなものだからね。それでどれだけ戦えるのか、ちょっと心配だけど……

 

 やるしか、ないよね。



 ***



「大分煮詰まってきたね」

「これで役に立たなかったらパーティ追放」

「が、頑張ります!」


 ネロちゃんとココノさんライラさん、それとボクの四人で徹底的にボクの戦術――パーティ内での役割を話し合った。

 雨のせいもあるけど、窓の外はすっかり暗くなっていた。

 

「ボク、少しネロちゃんの事を見直しました」


 ふと、正直な感想が口を突いて出た。

 だって魔法の事になるとめちゃ真面目になるんだもん。


「ネロちゃんって魔法オタクだから。同じ魔法使いが増えて嬉しいんだよ」

「そう、なんですか? でも、それを言うならココノさんも魔法職じゃ…? 確かヒーラーですよね?」

「そのゴリラはヒーラーの皮を被った戦士」

「ネロちゃ~ん? その悪い口はどうやったら治るのかなぁ?」

「アダダダダ!?」


 いつの間にか背後に移動していたココノさんに、こめかみをぐりぐりされて悶絶するネロちゃん

 うん、ネロちゃんは口悪いけど、研究者気質(かたぎ)なんだね。

 で、ココノさんはバーサークヒーラータイプ、と( ..)φメモメモ


「兎も角ありがとう。これでちょっとは戦える気がするよ!」

「う、うるさいメス豚っ。ちゃんと役に立て」


 口の悪さも――これ、単に照れ隠しなだけじゃないの~?

 ちょっと顏赤くしてるし♪ 可愛いなぁ♪

 思わず顔がニヤついてまうやん♪


 そんな時だった。

 ばんっ! と大きな音を立てて宿の入口が開く。

 パーティ一同の目線が集まる先、そこに――葉っぱ色の長髪をした、白い軽装鎧を着た女の子が倒れていた。ってこの人!?


「え!? ミスティさん!?」

「なんたるっ」 

 

 アイセさんが真っ先に駆け寄る。


「どうしてミスティ!? 何があった!?」

「あ、アイセ様…っ」


 うわ。ミスティさん顔真っ青だ。それに全身をカタカタと震わせて――雨に打たれたから寒い、って感じじゃない。何か、恐ろしい目に遭ったしまったかのような……


「アイセ様っ、このままではこの街がっ」

「な、何!? どういう事だ!?」

「私、さっきまで街の北側にあるダンジョン【闇歩きの洞窟】に潜っていましたの」

「え? 昼間ボクに派手に負けたばっかりなのに、よくダンジョンに行く元気がありましたね?」

「貴方のせいで一文無しになったのですから稼がないとやってられませんの!!」


 いや元気やんけ。


「アイセ様。お気を付けて下さい。私はその洞窟の奥でヴェタルと名乗る吸血鬼と出会い――ああぁっ!?」


 突如ミスティさんは頭を抱えて悲鳴を上げた!

 ヴェタルって、あのヴェタル!?


「どうしたミスティ!? 大丈夫か!?」

「この反応……可哀想に、【恐怖】状態になってるよ」

「ヴェタルは精神攻撃系のアーツ・アビリティを持ってる、って噂だった」

「ミスティ程の奴をこんな状態にするって事は、本物だな。アイセ、どうするよ?」

「決まっているだろう」

「だよな」


 ライラさんが席を立った。


「どう考えても罠だけど……まあ、アイセちゃんなら行くよね」 


 今度はココノさんが。


「先にご飯食べたかった」


 ネロちゃんまで。


「ちょっと待って下さい! これってアイセさんをおびき出す為のヴェタルの罠ですよね!? 分かってて行くんですか!?」

「罠があろうと無かろうと関係無い。全て切り伏せるまで」

「おいおいピンク。アイセは基本、こんなだぜ。これに付き合えられないってなら【ヴェイグランツ】から抜けちまえ」 


 挑発するように言うライラさんに思わずため息が出た。

 

「そんな事聞いたらますます抜けられませんよ。危なっかしくてしょうがないじゃないですか」


 アイセさんや皆は強いと思うけど、それでも無策で敵の罠に突っ込むのは危険だ。ボクは、戦闘では皆に遠く及ばないだろうけど、頭はちょっとは回る方だ。


「こんなボクで良かったら、ついて行きますよ」

 

 散々怖い目やエッチな目に遭ったからね。

 今更ボスキャラ吸血鬼がなんぼのもんじゃい!


「ならば行くぞ。目的地は【闇歩きの洞窟】! 標的は【吸血鬼ヴェタル】! パーティ【ヴェイグランツ】出陣する!」

「っしゃ!  首を洗って待ってなヴェタル!」

「これで長ーい討伐クエストも終わりだね~」

「おいピンク。終わったらお祝いに旨いモノ作れ」

「はいはい分かりました…」


 アイセさんの音頭にぞろぞろと宿から出ていくパーティ一行。

 しっかし、盛り上がる場面だって言うのに……

 まるで遠足気分やん。こんなんで大丈夫かなぁ…


次回からパーティヴェイグランツによるダンジョン攻略を開始!お楽しみに!

尚次回投稿は9/21(月)AM8:00の予定です。

と、今回はオマケコーナーはお休みさせて頂きます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ